(※このコラムは、2015年5月22日に2016年卒学生対象メディアの就活NEWSにて公開されたものです。)
就活をしていると、罹ってしまう病気があります。それは「自分以外皆優秀だと思わされる病」です。面接官に対しては「ハハー! 私めが憧れている会社の社員様でございますね! あなた様はなんて優秀なお方なのでしょうか! ハハー!」となりますし、説明会に登場する若手営業マンみたいな人に対しても同様の感覚を抱いてしまう。
あまつさえ、会社説明会とかセミナーでハキハキと受け答えをする他の学生のことも皆優秀だと思ってしまう。質疑応答タイムでいわゆる「一流大学」であることを前置きしてから名前を名乗り、堂々と喋りはじめる学生を見続け、いつしか「こんな優秀なヤツらには敵わない……。なんでオレはこんなに無能なんだ……」とどんよりしてしまうのです。
こうして一旦自信を失うと、そこは負のスパイラルに突入。面接というものは、案外「ハキハキと聞かれたことに答える」「なんだか楽しそうにしている」程度でも通ってしまうことは多いので、こうした負のスパイラルに陥らないことは案外重要だったりもします。
ただ、一つオッサンの立場から言っておきたいのが、世の中の人ってそこまで皆優秀でもないし、皆崇高なる理念を持って働いているワケでもないってことなんですよ。居酒屋に行けば、顔を真っ赤にしたオッサンが「ガハハハハハハハ!」なんてやっては肩を叩きあってるし、繁華街で客引きが「安くしときますよ!」なんてもみ手をしたら、キョロキョロと周辺を見回して「頼むよ、イヒヒ」なんてオッサンが言ってる。いくら社会人であっても、楽しい時は感情を爆発させるし、ちょっと「おいしい」話にはホイホイと乗ってしまう。学生と同じなんです。
質問サイトなんかを覗いてみると、「勤務中ですが、暇すぎて何をしていいのか分かりません」なんて投稿があったりするわけですよ。私だって会社員時代、派遣社員がメッセンジャー使って「暇だね」「そうだね」「今からお茶行かない?」「5分後にラウンジで待ち合わせよう」なんてやっては、ハンカチと財布とタバコを持って席を立って消えていくシーンなんかを時々見ていました。正社員であっても出先表に「赤坂→神田→?」なんて書いてあったりもする。赤坂で何やってるんだっつーの! 神田は昼間っからガード下で飲んでるのか! 「?」ってなんだよ、直帰するんだったらちゃんとそう書けよ! まったく、帰社する気はないのに、「帰ってくるかもしれない」のを含みを持たせるために「?」なんて書きやがって!
いや、別に私はこういったことを否定しているのではなく、会社が倒産しないのであれば、これはこれでよろしいのではないか、と言いたいのであります。世の中の人がすべてイノベーションを巻き起こす必要もないし、グローバル企業を興す必要もない。皆、それなりに幸せで、雨風凌げる家を持ち、家族・友人に恵まれ、何らかの趣味もあり、疲弊しない程度で働くことで成長し、生活のベースを確保していけばいい。
しかし、就活をしている学生は、「自分以外皆優秀だと思わされる病」に罹っているために、ごくごく普通の幸せを望むことには意識が低く、ネットで時々登場する「若手IT系企業CEO特集」みたいなキラキラした人にならなくてはいけないと思ってしまう。
そんなことはないんですよ。別に、社会人であろうと、ビビーッと屁はこくし、定食屋でご飯大盛り無料だったら「ちょっとお腹一杯になるかなぁ……。いや、ここはタダだから大盛りにしといた方がいいか……」とセコいことで逡巡しては、どちらの結果になろうが後で後悔するワケですよ。「あぁ、腹パンパン! 普通盛りにしとけばよかった……」とか「おかずが余ってしまった……、大盛りにしとけばよかった……」とね。
就活でうまくいく人の特徴は「社会人であろうとも生身の人間である」ことを理解している点にあります。長年付き合っているだけに平凡な人物にしか見えないあなたのお父さんや、サークルの先輩だってなんだかんだ言って就職できたワケですし、クビになっていないということは、それなりに仕事で成果を出しているのでしょう。あなただってこれまでの学生生活、成果は何らか出してきたわけでしょ? それは「バイトで採用された」とか「新歓期にオレが誘ったヤツがちゃんとサークルに入った」程度でいいんですよ。別に今、学生としてバイトの面接を受けたり、ゼミで発表することはそれ程ビビることではない。
就職も一緒です。結局働いてしまえば、日々の業務はあくまでも「日常」になります。ルーティン作業を地道にこなす能力がかなり重要になるわけでして、そういったことはすでに学生時代に鍛えられているのです。お金をもらってそういったルーティンをやる、というステージが変わる違いはあれど、恐れる必要はありません。いずれ慣れ、ビビることはなくなります。社会人だってそこまでの崇高なる理念を持って仕事をしているわけではありません。
ましてや、その前段階の就職活動も他の学生を神聖化しないでいいのです。みんな、就活キツいな、とか早く終わりたいな、とか「すげー、みんな優秀!」なんてビビってる同じ境遇に置かれた人々なワケですよ。
私自身も面接官を神格化してしまったクチなのですが、一旦その呪縛が解けてしまったら、面接が通る通る! 「なんだよ、この人の良さそうなオッチャンが聞いてきたことに答えればいいってだけなのかよ!」なんて思い、すっかり面接が得意になったのでした。
実際に会社に入った後も、本当は定時が17時30分だというのに、先輩との外回り業務が17時に終わったら「もう飲み行っちゃおうぜ。17時30分に会社に電話して『直帰します』なんて言っとけばいいんだよ」と先輩がスーダラなことを言うのを聞き、「案外不真面目でもいいんだな」と思ったりもしました。社会人だって崇高なる思想を持った人々ではない、という当たり前の事実を日々体験したのでした。そんな前提を知った上で面接に臨んでください。
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中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行い、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)や『内定童貞』(星海社)など。