あなたは挫折したことはありますか?
企業のエントリーシートで「挫折した経験」を書くことがあります。いろいろな質問のパターンがありますが、テーマはほとんど同じです。
・これまで挫折した経験について
・挫折した経験とあなたがそれをどう乗り越えたかについて
・挫折した経験と、そこから学んだことについて
挫折経験と聞くと、辛く重たい出来事を書かなければいけないと考えてしまう人が多いようです。自分のこんなちっぽけなエピソードでいいのか不安になるという相談を受けることがあります。一方、これといって挫折経験のない人も少なからずいるようで、どのように書いたらよいかわからないという悩みもよく聞かれます。そこで、今回はこれといった挫折経験がないと感じている人を対象に、挫折経験のテーマの選び方・書き方について考えていきましょう。
そもそも就業経験がない就職活動生に、大きな挫折経験を企業が期待するべきでないという議論もあります。しかし今でも挫折経験を聞く企業がそれなりに存在するとい事実はあるので、そもそも挫折経験を聞くべきかどうかという議論はナシにして、今回は「挫折経験を聞かれたらどうするか」というテーマについて話を進めていきます。
挫折経験と聞いてイメージする典型的なストーリーは以下のようなものでしょう。
・甲子園を目指して毎日厳しい練習に励んでいた。しかし練習中のアクシデントが大怪我を引き起こしてしまい、野球を続けられなくなってしまった。
・東京大学を目指して夜遅くまで受験勉強に励み、模試では毎回A判定で周りからも確実視されていた。その自分が、まさかの不合格だった。
このような体験がある人は悩まなくてもすぐに挫折経験について書けると思います。しかし、これまで約20年の人生の中で、誰もがわかるような高い目標に向かって挑戦し、そして失敗した経験がないという人も多いでしょう。では、これといったエピソードが思い浮かばない人はどのようにテーマを選べばいいのでしょうか?
挫折という言葉の意味について調べてみると、このように書いてあります。
挫折とは
仕事や計画などが、中途で失敗しだめになること。また、そのために意欲・気力をなくすこと。「資金不足で事業が―する」「―感」(出典:デジタル大辞泉)
このような言葉の意味から考えると、わかりやすい挫折体験が思い浮かばないという人も、自分の計画またはイメージ通りに物事が進まなかった経験を思い出してみてはどうでしょうか。これまで歩いてきた道全てが順風満帆で自分の思い通りでしたか? 予想通りにいかなかった、失敗したことを振り返ってみてください。
そもそもなぜ、企業は挫折経験を聞きたがるのでしょうか? 挫折経験を聞いて企業が知りたいことをおさえた書き方をしていくために、企業の意図をつかんでおきましょう。
1. 困難なことがあった時にどんな考え方や行動をするか
仕事でも思い通りにいかないことや、失敗することはあります。挫折経験から乗り越えた体験を聞くことで、仕事で困難な時にどんな考え方や行動をとれる人かを判断したいという意図。たとえば、失敗しても前向きにとらえて失敗の原因を分析し、再挑戦して成功したというストーリーからは、困難な出来事にも原因を分析して立ち向かうその人の姿勢が伝わってきます。逆に一度失敗したから諦める、逃げる、立ち止まって動けないという人では仕事でもそうなってしまうのではないか心配ということです。
2. 経験によってどのように成長したか
挫折経験をしたことで、その出来事をきっかけにどのように成長できたか? ということを知りたいという意図。たとえば、挫折経験によって自分が一人だけでがんばろうとしていたことに気づき、周りの助言やアドバイスを素直に聞き人に協力を得られるようになったという成長をした人もいるでしょう。
企業にもよりますが、質問の意図は大きくこの2つです。この意図に答えられるような文章構成を考えていきましょう。
企業の意図が理解できたところで、挫折経験を書くときの基本的な文章の構成を紹介します。
1. 状況
いつ、何を目標にしていて、その時に何が起こったか? という状況が分かるように書きます。
2. 失敗した時、どのように考えたか?
挫折経験をしたときに、その状況で自分が考えたことについて書きます。
3. どう行動して乗り越えたか?
自分が実際に行動したこととそれによる変化や結果を書きます。
4. 挫折経験から得た気づきや学びは?
その時の経験や感じたことが、今の自分にどう活きているか、影響を与えているかということについて書きます。
例文:(1)高校生の時に文化祭で毎年披露するクラス劇の監督を任された時のことです。周りからの推薦もあって監督になったのですが、クラスがまとまらずに当日が迫ってきても練習が思うように進まない状況に陥っていました。周りからの信頼もなくし「監督は何もしていない」とまで言われてしまいました。(2)そこで私は、絶対に当日キャストと観客の全員の笑顔で終わらせると決めて、(3)大道具や衣装など各担当のリーダーを集め話し合いをしました。もう一度どんな劇をつくりたいかと意識を合わせ、各担当の活動内容と進捗が毎日共有されるような仕組みをつくった結果、作業スピードが速くなり、違う担当同士でも作業を連携しやすくなりました。クラス劇は壇上でみんなの笑顔で終えることができ、観客から受けた大きな拍手で涙が出ました。(4)自分一人でどうにかしようとするのではなく、仲間と仕事を分担し、活動しやすい仕組みをつくることを考える方が何倍も早く大きな成果につながることに気付けた経験でした。
面接でもこの4つのポイントに注目されて聞かれることが多いので、聞かれそうなことから逆算してエントリーシートに書いておくと面接で質問されても話しやすいです。
実際に私も就職活動をしているときに、大手の不動産仲介の会社の面接でこの挫折経験を聞かれて困ったという思い出があります。この時は、とっさに挫折経験が思い当たらなかったので「これまで挫折経験はありません。なぜならうまくいかないことがあってもうまくいくまでやってきたからです。」と答えた記憶があります。当時の自分を振り返るとずいぶん強気だなあと思いますし、面接官に納得してもらえたかどうかはわかりませんが、その面接は通過しました。最終的に入社意思が固まれば内定という段階までいった会社です。就職活動から10年経った今でも覚えている数少ない質問のひとつなので、相当ヒヤヒヤした印象深いやりとりだったのだと思います。
面接でとっさに聞かれた質問だったので、これがエントリーシートだったらそれなりに何かの経験を書いたかもしれません。しかし挫折経験がどうしても思いつかない人は、なぜ挫折経験がないのか、仕事で困難な出来事や予想外のことが起こったらどうするか? ということについて考えると自分なりの答えがでてくるのではないでしょうか。優等生的に型にはまった挫折体験をうまく答えることだけが絶対の正解ではありません。これからの仕事で困難な状況があったとしても、この人は立ち向かえそうだという力強さや発揮できる能力が相手に伝わればそれで充分です。自信をもってメッセージを発信していきましょう。
井上 真里(いのうえ まり)
キャリアアドバイザー。石川県金沢市生まれ。慶応義塾大学経済学部在学中より、人材教育企業にて学生キャリア支援のサポートに関わり、卒業後は東証一部上場の富裕層向け住宅メーカー・IT企業にて中途・新卒社員採用をはじめ、教育研修、異動や退職など学生のキャリア選択から、社会人のキャリアに関する領域を幅広く経験。新入社員マナー研修講師としても高い支持を受ける。現在は全国の高校生や大学生を対象に面接トレーニング、キャリア、マナー分野でのマンツーマン指導やセミナーを多数開催。毎年マンツーマン指導や勉強会に参加した200名以上の大学生が、大手企業・人気ベンチャー企業に複数内定している。