石油業界の業界規模は約29兆円。日本のGDPのおよそ5%に当たる巨大産業です。また、原油にかかる関税や精製した製品にかかるガソリン税、消費税を考えると、1兆円以上の税収を国庫にもたらす業界でもあります。そんな石油業界とはどんな業界でしょうか。石油業界を志望する際に、どういった点に気を付けて志望動機を書けばよいでしょうか。考えてみましょう。
(※こちらの記事は、2016年4月21日に公開したものを更新しています。)
石油業界は原料をどこから調達しているのでしょうか。実は国内でも、北海道、秋田県、新潟県の3県で石油の商業生産が行われているのです。ただ、国内生産量は、国内消費量の0.3%ほどに過ぎないのが現状です。原油と石油精製品の99%以上は海外から輸入されています。原油の8割以上の輸入元は、サウジアラビア、イラン、クウェート等の中東諸国です。中東諸国は、テロや国内情勢の変化が激しいといった不安要素を抱えているため、ある程度の備蓄、安定供給のための仕組みづくりといった対策を常に取る必要があります。現在、日本の民間の備蓄量は国内消費を賄える80日分、国家備蓄量が119日分ほどとなっています。
日本は石油精製品を輸入するのではなく、原油を輸入して精製を国内で行う方式をとっています。この方式には、大型タンカーでの大量輸送が可能で輸送コストを抑えることができる、国内の需要構造に合わせて石油製品の生産割合や品質を調整することができるといったメリットがあります。緊急時の対応もしやすくなります。東日本大震災の際にも、エネルギー源としての石油の有効性が発揮されました。一方で、石油精製施設は非常に高額であり、安全対策や環境対策等のために新たな設備を必要とするたびにさらに高額な経費が掛かってしまうことにもなります。
石油は、発電用のエネルギー源、輸送用・工業用燃料、一般家庭や業務用の暖房用、化学製品の原料と様々な用途で使われています。原油からは、自動車用のガソリン、化学用原料のナフサ、航空機用のジェット燃料油、家庭用・業務用の灯油、自動車や農林機材で使われる軽油、船舶や業務用で使われる重油、潤滑油、LPガス等の精製品が作られています。これらの石油精製品のうち4割ほどが自動車用のガソリン、軽油、LPガスです。しかし、国内の自動車販売市場が、電気自動車や燃費に優れたハイブリッド車に比重を移すにつれ、ガソリンへの需要が減ってきています。2015年には、2000年に比べてガソリンの売り上げが2割以上減ってしまっています。
エネルギー源としても、石油や石炭といった化石資源以外のエネルギー源への移行が奨励されており、1次エネルギーとしての石油消費も減っていく予定です。ガソリンについても、需要が増える見込みはありません。また、2014年以降原油価格が下落しましたが、備蓄量分は高く買ったものを売るしかないという構造上の問題があり、原油価格が下がることが業界にとっては必ずしもプラス要因にならないという面もあります。
こういった国内需要の減少傾向、輸入元の情勢や原油価格の不安定さ、石油精製施設や技術といった高額経費に対応するため、業界は大きく変化しています。売上高が多い順に以下の企業です。
▼2017年度 売上順
1. JXTGホールディングス(10.3兆円)
2. 出光興産(3.7兆円)
3. コスモエネルギーホールディングス(2.5兆円)
4. 昭和シェル石油(2.0兆円)
5. 国際石油開発(0.9兆円)
石油業界は業界再編で立て直しを図っている途上にあり、2016年頃より大手企業の合併が続いています。
2016年には業界最大手のJXホールディングスと当時3位の東燃ゼネラル石油が経営統合し、業界2位の出光興産と4位の昭和シェル石油についても2019年4月に経営統合することが発表されました。
石油業界は、国内市場の縮小に対応して、海外事業の拡大戦略をとっています。燃料油需要が今後も伸びる可能性の高いベトナムやインドネシアに進出しています。国内で精製を行う方式をとっていて、石油精製品を一括生産できるシステムや高い技術力をまとめて売り込むことができるのも日本の石油業界の強みです。国内市場では、自動車用のガソリンは減っているものの化学製品の原料になるナフサの需要は増えているため、化学製品原料分野の強化、発電・小売りといった電力事業やガス事業といった他エネルギーセクターへの参入強化といった戦略も打ち出されています。
石油業界は再編の過程にありますが、生活の基盤を支える業界であり続けるのは確かです。石油業界の現状、志望する企業の状況を把握したうえで、なぜその企業を志望するのか、志望する企業でどのような仕事をしたいのか、というビジョンを書くようにしましょう。以下、石油業界から内定をもらった先輩方の志望動機をつけておきます。参考にしてみてください。
■JXホールディングス
「私は、製品を通じて人々の生活を豊かにするメーカーとしての役割と、人々の社会生活を支えるインフラとしての役割、2つの役割を通して社会貢献できると思い石油業界を志望しております。その中でも御社の総合エネルギー変換企業を目指す事業方針に魅力を感じました。国内の石油需要は落ち込んでいますが、石油だけでなく水素エネルギーや電力事業等、様々な事業に挑戦していく方針に将来性を感じます。私自身新しい事に挑戦するチャレンジ精神には自信があり、業界最大手の御社でしか出来ない事を実現したいと思い、志望いたしました。」
■出光興産
「私は、日本へのエネルギーの安定供給に貢献したいと考え、石油業界を志望いたしました。石油は安定したエネルギー源であるのみならず、石油化学製品として幅広く産業を支えています。海外から調達した石油は工場で様々な工程を経て製品になるため、その工程において環境、品質、経済性の向上からみた改善点を考えることができます。特に御社は事業展開が速く、改善点を発掘し、技術を用いて解決するといった活動がしやすい企業風土があると感じました。また、再生可能エネルギー事業への取り組みなど、石油に頼るのではなく新たなエネルギー事業にも挑戦する点にも非常に魅力を感じました。
御社で学び成長し、工場や製油所の設備など、設計から試運転まで仕上げるというスケールの大きな仕事を主導できるようになりたいと思います。」
■東燃ゼネラル石油
「私は日本のエネルギーの安定供給という高い使命のある仕事としてエネルギー業界を選びました。その中でも御社の、安全性に力を入れておられること、海外展開への挑戦に積極的でおられることに魅かれました。新体制が発表され、さらに新しい分野に挑戦していけると思い志望いたしました。」
■昭和シェル石油
「人々の暮らしを支え生活を向上させることで社会に貢献したいと考え、就職活動をしています。日本の主要エネルギーである石油は、人々の生活になくてはならないものであり、今後も可能性が十分にある点に魅力に感じました。御社は石油業界の中でも女性の活躍が目覚しく、私も、人々のために生涯かけて働いていきたいと思い志望いたしました。」