紙媒体から電子媒体への移行が進むようになって、最も影響を受けた業界は出版と印刷業界でした。印刷業界は苦境に立たされていると言われていますが、業界規模は5.4兆円の巨大産業です。印刷業界は、どのような取り組みをしているのでしょうか。志望先として考える際には、どういった面に重点を置くといいでしょうか。志望動機を書く際に気を付ける点とは? 考えてみましょう。
(※こちらの記事は、2016年4月20日に公開したものを更新しています。)
印刷業界の業界規模は、2017年度で3.8兆円。大きな数字ですが、実はこの10年で半分近く縮んでいます。紙媒体が減るというのは出版だけに限らず、企業のダイレクトメールなども郵便からメールへと変わり、広告媒体もちらしからWeb広告に変わる……と企業活動のほぼすべての領域と関連する事態です。受注が大きく減少しているのも、時代の趨勢によるもので抗えない事態なのかもしれません。
ネットを使った「印刷通販」の台頭も、既存の印刷業界に大きな影響を与えています。Web上で発注することができるので、営業などに関わるコストが削減でき、その分価格が安くなります。日本の印刷業で使われている技術は非常に高いものであるため、小ロットでも対応できるというのも、追い風になっています。もちろん、印刷業界の既存の企業もWebを使った営業活動を行っています。ただ、この流れは価格競争に陥り、作っても作っても赤字になるという状況を招きかけないだけに、生き残りのための変革が不可避になっています。
新たな需要を作り出すために印刷分野でも、付加価値をつけた商品を開発するといった動きもあります。「おじいちゃんのノート」と呼ばれている方眼ノートをご存知でしょうか。小さな印刷所で手作りされているノートです。開いた時に水平になるのが特徴で、特許もとってある商品です。普通のノートは開いた時に真ん中がふくらんでしまい、押さえていないと閉じてしまいます。しかし、このノートは水平に開くので、ぎりぎりのところまで書き込みができ、コピーをとっても真ん中が黒くならないのです。まさに学生向きのノートですが、作っているのが小さな印刷所なために、宣伝が打てず売れていませんでした。「使ってもらえば、良さがわかってもらえる」と、おじいちゃんは孫娘にノートをわたし、友達にあげてくれと頼みます。孫娘は、友達にあげるのではなく、ツイッターでつぶやいてみました。そのつぶやきに多くの反響が寄せられ、あっという間にリツイートされ、次々と注文が入るようになりました。家族経営の小さな印刷所から、ヒット商品が生まれる、お金をかけずに販促できる好例となりました。
ちなみに「おじいちゃんのノート」は2016年に「ジャポニカ学習帳」のショウワノートとの提携が決まったことで量産化が可能になりました。今後も、ニッチな需要に対応できる印刷業界ならではのヒット商品がまだまだ出てきそうです。
印刷業界に属する事業所は、3万軒前後あると言われていますが、実はトップシェアの2企業が6割以上の売り上げを占めています。凸版印刷と大日本印刷の2社です。この2社は印刷業界の規模が縮小する中、むしろシェアを伸ばしています。その秘密は、印刷業で培ってきた技術を他業種に転用して派生事業を展開している点にあります。どういった事業展開でしょうか、この2社を見てみましょう。
・凸版印刷(2018年3月期売上高:1兆4,527億円)
紙だけでなく、空気と水以外のものなら、なんでも印刷できる技術があるといわれています。商業印刷や出版印刷以外に、産業資材への印刷も行っています。出版技術を基に、電子出版物も製作。印刷技術を応用したデジタル画像処理やカラーフィルター、反射防止フイルムといったエレクトロニクス製品にも力を入れています。特に、液晶用カラーフィルターの生産では世界一のシェアを誇ります。地図情報サイトの草分け「mapion」、国内最大級の電子ちらしサイト「Shufoo!」、コンテンツ配信サービス「bitway」といった、インターネットを使った新たな情報サービスも展開。また、世界でも有数の印刷業者として、中国、アジアを中心に世界に進出しています。
・大日本印刷(DNP)(2018年3月期売上高:1兆4,123億円)
印刷の本業でも、大日本印刷はアジアだけでなくアメリカやヨーロッパにも広く海外展開しています。日本メーカーの海外展開を受けて、東南アジアなどの海外に向けた食品・日用品の包装材が好調です。丸善やジュンク堂書店といった書店、教科書販売を傘下に持ち、教育・出版流通事業も展開しています。NTTドコモと提携して立ち上げた電子書籍配信サイトにコンテンツを提供。液晶カラーフィルターや半導体製品用フォトマスク、光学フイルムといった、本業から派生した製品開発にも力を入れており、海外でも需要が高まっています。
印刷業界は、業界規模が縮小している業界です。そういった業界環境を踏まえて、印刷業界を志望している以上、志望動機には、この業界を選んだポジティブな理由とビジョンを書くようにしましょう。そのためには、志望先企業の特徴をおさえておく必要があります。では、内定を得た先輩方の志望動機を見てみましょう。これを参考に自分なりの個性のある志望動機を書いてください。
・凸版印刷
「営業でありながら、モノづくりに携われる点に魅力を感じました。商品に決まった形がないからこそ、自分なりの考えを提案でき、一緒に一つの商品を創りあげることができる点です。私は、ずっと音楽活動を行っており、仲間とともに音楽を作る過程を楽しんできました。そういった活動をさらに広いフィールドで行いたいと考えました。御社は、印刷技術をコアとした情報コミュニケーション、生活環境、マテリアルに至るまで幅広く事業を展開されており、新規事業展開にも積極的に取り組んでおられます。私も、「縁の下の力持ち」として人々の暮らしや産業を支える仕事をしたいと思います。」
「御社は事業分野が広く、様々なことに挑戦することができそうだと思いました。幅広い事業展開にもかかわらず、個々の事業内容がそれぞれに魅力的で、新しい価値観を創っていくことができると考えています。私も、その中で楽しく仕事をできるのではと思い、志望いたしました。」
・大日本印刷
「私は、幅広い事業領域で新規事業に取り組んでいる企業で働きたいと考えてきました。企業体として継続していくために必要不可欠だと思っているからです。御社の企業研究をした際、印刷技術を活かした幅広い事業展開をされているのに驚き、魅力を感じました。「印刷」とは「人に情報を伝えること」とうかがい、大学で学んだ私の専門性を活かすことができるのではないかと考えました。私は、語彙学習について研究してきており、御社の画像処理や言語処理、書体開発などの技術をコアにした、人工知能やインタラクション技術の開発に取り組んで行きたいと考えています。」
「御社は、長い歴史で培われた高い技術力と、それを活かす幅広いフィールドをお持ちです。特に、DNP分野では、パッケージデザインをクライアントと一緒に考えてものを作って行くという働き方ができるのに魅力を感じました。多種多様な業種の方々と仕事をしながら、自分自身も成長し、さらに会社に、社会に貢献できるようになりたいと思います。」