大卒就職が日本に定着したのは1910年前後と言われています。
1918年には私が確認した中では最古のマスコミ就職対策本『新聞雑誌記者になるには?』(新潮社)にこんな一文がありました。
これ以降、現代にいたるまで就活において学歴・大学名は学生の、あるいは採用担当者の大きな関心事となっています。
というわけで今回は大学3年生の90%(石渡推定)が勝手に誤解している大学名差別の実態、誤解について勝手にランキングしました。
日本の大学生はどの大学であっても在籍校について、自信と不安・自虐が同居しています。難関大ほど自信の割合が大きくなり、中堅・地方大ほど不安・自虐の割合が大きくなります。が、自信10:不安・自虐0という学生はまずいません。
偶然か、就職氷河期に学生と話すたび、「自分の大学名が通じるか不安で」という話が出ました。それが早慶クラスでも出たほどです。では、東大は、と言えばさすがにないだろう、と思いきや、
「いや、ハーバードには負けていそうなので」(実話)。
なんかもうキリがない話ではあります。
さて、この大学名差別、他の媒体ではまず出てこない話です。それから、大学のキャリア講義でも正面切って取り上げる大学はそうそうないでしょう。
いつもの回以上に体を張って得た情報、かつ、他の媒体ではまず出てこない大学名差別ネタ、じっくりとお読みください。
例によってと言いますか、このランキング、私、石渡が勝手にランク付けしているだけで、JOBRASS編集部は関与するものではありません。
→実情:年によって異なり、売り手市場のここ数年は縮小傾向
解説:
まず、私個人の話からすると、就活関連の書き手としては異例の、「採用担当者」「就職情報会社」「大学キャリアセンター」「就職・採用関連会社」の勤務経験が一切ありません。
このことをもって、「あいつは勤務経験がないくせに何を偉そうに」とたたかれることもあります。が、叩かれ続けて12年、いまだに生きながらえております(苦笑)。
さて、就活の関連業務の勤務経験がないのは私の弱みです。一方、私の強みは(なんだか、読者の皆さんが面接官になったような)、12年間、就活・採用の取材を続けていることです。
この経験から言えば、大学名差別は就職氷河期の年ほど強まり、売り手市場の年ほど弱まります。
理由は簡単です。氷河期だと学生がどの企業にも殺到するので、どこかで線引きしないと説明会運営などを処理しきれません。そこで企業は線引きの手段の一つとして大学名差別を使うのです。
ところが売り手市場だと、大学名をより好みしていたら採用予定者数に達しません。そのため、大学名差別を緩める、という次第。
では、なぜ「大学名差別は必ずある」と言われ続けるのか。理由は2つ。まず、企業規模に関係なく一部企業は売り手市場であっても大学名差別を継続します(理由は次の項目で)。
それともう一点は、経験則によるコメントがネットでは最新情報のごとく扱われることがあります。そのコメントが近年のものならまだしも氷河期のものであることも多々あるのです。ネットは便利な反面、古い情報が最新情報にもなってしまう罪深さもあります。大学名差別はその一つ、と私は考えます。
→実情:一部企業は継続。残りも別の線引きで判断するだけ
解説:
「大学名差別は今もある」と信じ込む学生はそれだけで損をしてしまいます。一方で、学生を鼓舞することもあってか、「大学名差別は今は全くない」としてしまう大学関係者も多くいます。言わんとすることはわかるのですが、これだけが独り歩きしてしまうのもちょっと考えモノです。
大学名差別、まあ、どの大学の学生が欲しい、偏差値××以下はいらない、とする企業はどこか。まず、外資系のベンチャー企業、特に金融やコンサルタント関連企業は露骨なまでに選り好みします。まあ、英語はできて当たり前、さらに企業買収などの案件も扱うわけで並みの学生では勤まらないですから、大学名の選り好みもむりないところ。
メーカーの総合職も企業によっては相当気にします。扱う分野が専門的過ぎて学力、論理的思考能力などを求めるからです。さらに採用担当者の数が少ないメーカーだとすべての大学を周り切れない、確認しきれない、という事情もあります(この辺は後述しますが、変わりつつあるところでもあります)。
どのメーカーがやっていて、どこがやっていないか、というのはものすごくわかりづらいところです。規模や業界だけでは判断不能でしょう。判断の目安となるのは、『就職四季報』(東洋経済新報社)に出ている採用校でしょう。ここで総合職採用の採用校がどこか、数年分を見ていくとそれなりに見えてきます。
同じ機械メーカー、かつ、業界規模がほぼ同じのA社・B社ですが、採用実績校(数年分)はこんなに違います。
A社:東京、東北、名古屋、京都、九州、北海道、一橋、東京外国語
B社:東北、東京、山形、国際教養、長崎、鹿児島、北九州市立、京都、神戸、神戸市外国語、愛知県立、首都大学東京…
※採用校は数年分まとめたうえで、企業の特定を避けるため一部企業を合わせました
A社が難関大シフトを引いているのに対して、B社はそこまでではないことが明らかです。
このように就職前には志望企業の就職実績・採用校を調べた方がいいでしょう。
→実情:難関大学ほど不利になる逆差別もあります。
解説:
学生間で大学名差別が話題となるとき、学生の在籍校が準難関・中堅の大学だと「あいつらはいいなあ、偏差値の高い大学で」となります
何をもって「あいつら」なのか意味不明ですが、難関大イコール就職有利、というイメージなのでしょう。
実際はどうか、と言えばそれほどではありません。
難関大出身者は学力が高いことは確かです。一方でプライドが高すぎるのではないか、と採用担当者は勘ぐります。専門商社や小売業、日用品メーカーなどは、営業先の担当者・社長が高卒だった、あるいは中堅以下の私大だった、ということも珍しくありません。その際、難関大出身者が営業をちゃんとできるのか(頭を下げられるのか)と考えてしまうのです。
企業によっては、そのあたりを勘案して、あえて難関大出身者を落とす企業もあります。
→実情:一時期騒がれたが数が多すぎて把握不可能
解説:
ゆとり教育による学力低下が話題になった10年ほど前、大学教育や就活についても関連付けて話題となることがありました。
その際、AO入試・推薦入試による入学者は一般入試に比べて学力が低い→だから就活では別物としてみている、とのコメントを採用担当者が出しました。結果、今でもネット上ではAO入試・推薦入試入学者を中心に気になる情報として流布が続いています。
難関私立大に限った場合、一般入試に比べて推薦入試・AO入試の方が条件にあってさえいれば入りやすいことは確かです。
ただ、難関・中堅を問わず、私立大のAO・推薦入試による入学者は年々増え、国公立でも増加傾向にあります。
朝日新聞・河合塾の共同調査「ひらく 日本の大学」によると、入学者のうち一般入試で入った学生の割合は大学全体で58%。設置者別でみると、国立83%、公立75%、私立47%でした。
ここまで数が多いとよほどネガティブな要素がない限り、判断不能です。
それから、AO・推薦入試だと形態が特殊で実は一般入試以上に難易度が高い、あるいは国公立大の一部だとセンター試験受験も必須で学力が担保されている、などの事情もあります。
企業からすれば、一般入試か推薦入試か、など気にしてもキリがありません。学力を担保したい、ということであれば入試の別を気にしなくても、適性検査を受検させれば一発で分かります。
→実情:1~2ランク上の大学も含めた方がいい
解説:
以前、ある論客がツイッターで「あなたの在籍大学の就職実績を見てください。そこがあなたの入れる企業の全てです」とつぶやき、大論争となりました。
私はちょっと短絡的な意見と考えます。
まず、すぐれた企業を学生がすべて把握できるか、と言えばそんなことはありません。恥をさらすようで恐縮ですが、私もこの仕事を始めてから知った優良企業はいくらでもあります。
偏差値がすべてではありませんが、難関大ほど情報感度の高い学生の割合は高くなります。情報感度とは日ごろから日本経済新聞を読む、たまには週刊東洋経済に手を出す、石渡の本を全部買う、といったことです。最後のは、まあ、私の本でなくても、ほかの方のノンフィクションでもいいですが。
情報感度が高ければ、一般学生・社会人が知らない優良企業の情報を入手、そこから就活が広がっていきます。
それと、これも売り手市場・氷河期の違い、という事情もあります。もう一点、大学名とは無関係に企業にとってほしい人材かどうか、これも影響するでしょう。
以上3点を考えれば、私は学生の在籍校の就職実績がすべて、とする発想はやや無理があります。
在籍校と同じランクの大学、あるいは1ランク上の大学であれば十分、内定を得られる可能性があるはずです。
さらにとびぬけた何かがあれば、2ランク上の大学と同じ就職実績企業も1チャンスあるのではないでしょうか。
→実情:電話をかければ逆転も
解説:
このJOBRASSマガジンで書く話か、という気もしますが、お許しいただくとして。
他社の就職ナビサイト、ま、従来のものでは「学生が個人の基礎情報(大学・学部、住所、電話番号など)を登録→学生が企業情報を検索→気になる企業の説明会を予約」という流れです。
学生からすれば便利な反面、企業からすれば説明会がどの学生でも簡単に予約できてしまいます。
企業によっては来てほしい学生の割合が多そうな大学を優遇しようとします。それが、いわゆる大学名フィルターです。
採用担当者の操作次第で大学名などによって簡単に空席・満席表示を変えることが可能となる機能です。
この点をもって、大学名差別が現在も継続中との意見もあります。
が、実はこの大学名フィルター、簡単に乗り越えられます。方法は簡単で、採用担当者に電話をかけるだけ。
私の専売特許ではなく、各大学キャリアセンター職員の方も似たような話はよくされています。勝率は70%くらい。
しかも、そこから内定に至った例もいくらでもあります。
→実情:逆求人型サイトの登場、リクナビのオープンESなどで変革が進行中
解説:
先ほどの項目で他社、というか、従来の就職ナビサイトの説明、覚えています?
「学生が個人の基礎情報(大学・学部、住所、電話番号など)を登録→学生が企業情報を検索→気になる企業の説明会を予約」という流れです(コピペ終了)。
さて、JOBRASS含め、逆求人型サイトはいかがでしょうか。
「学生が個人基礎情報と、自己PR・写真・動画などを掲載→企業側が気になった学生に説明会や選考の情報を学生に送付→学生は興味を持った企業の説明会・選考に参加」という流れです。
つまり、従来型のサイトとは逆の流れだから逆求人型と呼ばれています。
この逆求人型サイト、JOBRASSを筆頭に他社のものも、利用者が増加傾向にあります。
その理由は学生が掲載する情報量です。従来型のサイトだと学生の個人基礎情報しか学生は掲載しません。
個人基礎情報で学生の優劣を判断できるとしたら、大学・学部名か、資格という程度でしょう。姓名占いに凝っている企業は別かもしれませんが。
一方、このJOBRASSはじめとする逆求人型サイトはどうでしょうか。
企業が検索できるのは大学名だけではありません。1000字ものボリュームがある自己PRもあれば、写真もある、動画もある。つまり、判断材料が多いわけです。
6位の項目で、採用担当者の人数が少ないメーカーについて、「大学名差別が継続中、ただし、変わりつつある」としたのはこのJOBRASSなど逆求人型サイトの存在、そして台頭があります。
これまでは少数でしか動けないメーカーは「大学を一部しか回れない→だったら難関大に絞ろう」と考えていました。
ところが、この逆求人型サイトの登場で変わったのです。何しろ、大学訪問が一部の大学しかできなくても、様々な学生と逆求人型サイトを通して出会えるからです。
便利なのは企業だけでなく、学生も同様です。
読者の方は、JOBRASS登録で相当ご苦労されたものとお察しします。ところが。登録は面倒であっても、企業からすれば検索項目が多いので、学生にとっては思いもしない企業からオファーが来て、結果、内定に至った、というケースが相次ぎました。
そこで、難関大はもちろんのこと、中堅大や地方大の学生も登録するようになり、その成長は現在も続いています。
大学名差別がどうこう、と気にするのであれば、私はこのJOBRASSなどの逆求人型サイトを使い倒せば、結構変わるのではないか、と強く考える次第です。
なお、リクナビはオープンESを設けるなど、従来のナビも、単に大学名や資格だけでなく、ほかの面でも学生が検討できるよう変えています。リクナビ以外でも、従来型の就職ナビサイトも逆求人型サイトの良い部分を取り入れるように変わりつつあります。
従来型の就職ナビサイト、逆求人型サイトともに、大学名差別を助長していると断罪するまでには至らないのではないでしょうか。
最古のマスコミ就職対策本『新聞雑誌記者になるには?』(新潮社、1918年)には大学名差別が当時からあったことを冒頭でご紹介しました。
が、同書にはこんな一文もあります。
「けれども、実力さえあれば、必ずしも学歴を要しないという事は、何時の時代にも通用する真理である」
これはマスコミ志望かそれ以外か、あるいは大正時代か現代かを問わず当てはまる真理です。
いわゆる大学名差別を気にするなら実力をつけるべく、JOBRASSマガジンや各種セミナーなどJOBRASSを使い倒すことも含めて就活を進めてください。そうすれば道は必ず開かれます。
【講演情報】
「勝手にランキング」の石渡に文句を言いたい方、講演を聞きたい方、エントリーシート添削を依頼したい方などは、以下の講演にご参加ください。
6月19日(月)18時~20時30分/7月19日(水)18時~20時30分 【アイデム西日本(大阪・本町)】2019年・2020年・2021年卒対象「大学1・2・3年生が就活を前に考えたい大学生活」
>予約はこちら
8月2日 13時~18時【アイデム西日本(大阪・本町)】2019年・2020年・2021年卒対象「お菓子な就活、おいしい就活イベント+石渡講演」(加藤産業、カバヤ食品、林原、山星屋など菓子・食品業界各社7~8社が集結しての企業研究イベントと石渡講演)
※近日、JOBRASSセミナー告知ページに表示予定
石渡嶺司(いしわたり れいじ)
大学ジャーナリスト
1975年生まれ。北海道札幌市出身。1999年東洋大学社会学部卒業後、日用雑貨の実演販売、編集プロダクション勤務などを経て2003年から現職。大学・就活関連の取材、執筆活動を続ける。当初から「大学勤務も採用担当者経験もないくせに」と批判されているが、14年経った現在も仕事が減りそうにない変わり種。
3月からJOBRASSマガジンの他、日本経済新聞サイト(日経カレッジカフェ)でも連載開始。
著書『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書) 、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)、『就活のコノヤロー』(光文社新書)、『教員採用のカラクリ』(共著、中公新書ラクレ)など多数。