Q)よく、「盛り過ぎプロフィールはダメ」といいますが、ウソをついているわけではありません。面接官と話をする前に、履歴書などで人より目立つためには、盛らないと目に止めてももらえないのかという不安があります。盛っていいことはない、その理由と、盛らずに自分をアピールする方法のヒントがあれば教えてください。
A)「ウソではないけど盛っている」とおっしゃりたいようなのですが、「ウソ」と「盛る」は同じことですよ。あなたがウソを書いていないのであれば、それは「盛っていない」ことになります。ご安心ください。
「盛る」を「多少の誇張」と捉えているのであれば、それは「ウソ」になります。それこそ、サークルのメンバーだっただけなのに、「副部長」になったとかそういったところですね。或いはバイトのサブリーダーだったのに「バイトリーダー」だったとかでしょうか。さらには「関東大会12位」だったのに「関東大会9位」にしちゃう、というのも「盛っている」かつ「ウソ」になります。
こうした定義の話はここまでにしますが、ここでは「ウソ」のプロフィールを書いた場合の致命的弱点について書きましょうかね。まず、仮に面接に通過したとしても、ウソが後にバレてしまった場合に信用を失います。それが本当にセコいものであれば、ますます呆れられます。森友学園の籠池泰典前理事長が、「関西大学法学部卒」を名乗っていたのに、実際は「関西大学商学部卒」だったものが分かりやすいでしょう。法学部の偏差値は、「大学偏差値.biz」によると58。商学部は55で、法学部の方が高いですね。この程度の虚栄心を出そうとし、結果的に彼は笑い者になってしまったわけでした。
そして、面接の時に盛ってしまうと、それをベースに語らなくてはいけなくなってしまうんですよ。たとえば、私自身が「盛る」ことができたかもしれない実際の話を紹介します。私は2年生の時、「新入生歓迎委員会」に入っていました。最大の催しは、4月の上旬に新入生1000人を温泉旅館に連れていくというものです。この時に、新入生が大暴れして襖を破ったり障子にゲロを吐いたりして、それはそれはとんでもない阿鼻叫喚の超絶ゲロまみれ地獄絵図となってしまったのでした。
当然旅館からは出入り禁止になり、さらには修繕のための補償も支払わなくてはいけません。あとは数日間部屋を使えなかったとかで、機会損失があったとされ、その分も補填しなくてはならなくなりました。この時、12人の新入生歓迎委員がいたのですが、委員長のK君が「オレが全部やる」と言い、8月までかけて200万円を支払い、ようやくこの件はカタをつけたわけです。K君は、大学のOB会に掛け合い、先輩方からのカンパを募り、さらには大学当局とも交渉して資金を調達し、4カ月かけて旅館側と折り合いをつけたのでした。
◆武勇伝は別にいらない
この話を私は傍から見ていたので、もしかしたら「総額200万円の補償を成功させた」なんていう「盛った」エピソードを作ることは可能です。K君がやったことを、あたかも自分もおおいに関与した、という話にするということですね。ただし、これを履歴書に書いてしまうと、とんでもない質問が来てしまうんですよ。面接官からすると少なくとも以下、3つの質問はしたくなると思います。
【1】旅館側の最初の態度と、最終的な態度の違いはどんなものでしたか?
【2】OB会から資金を引き出せた「キラーコメント」は何ですか?
【3】なんで他の委員と分担しなかったんですか?
これ、実際に自分が体験していないと答えられませんよね。盛ったプロフィールの最大の問題点は「咄嗟の質問にうまく答えられない」ことにあります。だから、素のままのプロフィールを出してしまった方がいいんです。
面接は「21年~22年の人生でどれだけの実績を挙げたか」の勝負ではなく、「これからこの人は我が社で活躍してくれそうか」を見る場なのですよ。だから、「盛る」のはやめましょう。ちなみに、このエピソードについて私が書けるものとすれば、「大学時代に印象に残ったこと」というテーマを聞かれ、「K君という立派な友人がいた」という話をすることになります。それならばいくらでも語れます。それでいいんです。「人を認め、評価することができる人物」といった印象を面接官に与えられるのも高ポイントですから。
あと、身も蓋もない話ではありますが、大学3年生程度のこれまでの経歴なんて、社会人から見ればどれもドングリの背比べでたいしたことないんですよ。だから、より立派に見えそうなプロフィールを作るよりも、「この人はこれまでの人生を楽しんできたんだな」程度の見られ方をされるだけでいいんです。
私なんかも広告代理店で面接官をやっていました。なかには「私は日清食品と組み、『ラ王』の模擬店を学園祭で運営しました! 実際にラーメンをその場で作り、そのにおいに釣られた人も続々と押し寄せ、連日の完売でした! 日清の方も大喜びでした。すでに広告業界の体験はここでやっています!」なんてことを言う人もいたんですよ。
果たしてこのエピソードを聞いて、広告代理店の人間は「即戦力見っけ!」と思うか? いや、全然思いません。こうしたサンプリングの仕事なんて、入社すればいくらでもやることになります。「『ラ王』を完売させる能力」よりも、その人が果たして面白いのか、頭がいいのか、人生を楽しんでいるのか、を知りたいだけなんですよ。
ですから、他の学生が「実績自慢」のバカ競争をやっている間、あなたは淡々と自分のユニークさを相手に伝えてみてはいかがでしょうか。
中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社)など。