就職活動においては、様々な都市伝説のようなものがあります。面接で落とされれば落とされるほどマニュアルに走っていく傾向があり、その中でも多くの学生が使うのが「比喩話法」です。
具体的には、これまでの人生を振り返り、自分に共通する「核」(本当はそんなものないですが)を見つけ、それを元に話をするのですね。そのとき、就活生がやりがちなのが「私は○○のような人間で……」などといった「比喩表現」です。それはお辞めなさい。理由を説明しましょう。
たとえばこんな人がいたとしましょうか。
〈今までの人生、決して目立つことはしてこなかった。中学・高校の野球部ではレギュラーにはなれなかった。大学でも同様にサークルでは特に役職がつくわけでもない。特に目覚ましい活躍をしたこともなければ、スポットライトを浴びたこともない。しかし、なぜか私は実力者からの悩み相談を受けることが多い。彼らは「お前にだけしか話せないことだ……」と前置きをしてから話し、私との話が終わるとスッキリした表情で「話せて良かった」と言われることが多いです。その後、その方々は目覚ましい活躍をします〉
この人が、これぞ自分をもっとも表すエピソードをこれだと思ったのであれば、それはそれで構いません。恐らくアピールしたいことは「縁の下の力持ちとして、能力の高い人物がより活躍するためのお膳立てをする能力に長けている」「口が固いこと、真摯に聞いてくれると信用されている」という特徴でしょう。
まぁ、このエピソードが果たして仕事人として役立つ能力かどうかはさておき、ここでこの人は勝手にこのエピソードをまとめる「比喩」を作ってしまうのです。以下の言葉が候補となります。
・駆け込み寺
・執事
・寡黙なバーのマスター
たとえば、最後の「寡黙なバーのマスター」を使った場合は、こう自己紹介をすることになります。
〈というわけで、私を表す言葉は「寡黙なバーのマスター」です。疲れた人、恋に破れた人、色々な人がバーには来ますが、その人達にソッとおいしいお酒を作り、お腹が空いたら何かをササッと作る。そして、余計な意見を言うこともなく悩みを聞いてあげる。そんな「寡黙のバーのマスター」としての私の能力は、きっと御社の「お客様にとって必要とされる存在でいたい」という企業理念に合致すると思います〉
もちろんここは「どんな状況にでも対応できるエアコン」や「PCとスマホの良いとこどりをした『タブレットPC』」などなんでもいいのですが、私が言いたいのはただ一つ。
比喩はお辞めなさい
ということです。なぜかというと、比喩表現をすることは自らを規定することになってしまうからです。もしかしたらあなたを表すもっと良い言葉があるかもしれないのに、比喩を使うと、自らその可能性を狭めてしまうのです。そもそも、「あなたを表す比喩を作り、それを元に、現実社会に当てはめたストーリーを作りなさい」というテストをやっているわけではないのです。別に、演劇をやっているワケではないんですよ。
演劇では、「ケンカっ早いが人情にアツい男」みたいにプロフィール欄には書かれるわけですが、それは演劇というものが、2時間という時間の間に分かりやすいキャラクターが分かりやすい演技をすることが求められているからです。だからこそ、登場人物に明確なキャラクター設定をし、観客を混乱させないようにしているのです。
しかし、実際に働き始めた時に「寡黙なバーのマスター」というキャラだけで乗り切れるわけがないんですよ。時には「悩みをいつも言う弟キャラ」になることもあれば、「ビシッと部下を叱る説教バーのマスター」になることもある。
比喩表現をすることは、あなたが持っている多様なるキャラクターや能力を自ら狭めてしまうもったいない行動だと思います。しかも、その比喩表現を作るために何時間かけているのですか? 面接官にとってまったくピンとこない比喩表現だったらどうするのですか?
そんなわけですから、面接ではとにかく
【1】とにかく聞かれたことに答える
【2】自らを勝手に規定しない。なぜなら、あなたのことを判断するのは面接官だから
の2つのスタンスで臨むのが正しいことでしょう。そして、こうした「自分を表す一言」というものは、面接官から言わせなくてはいけないんですよ。私も過去に色々な学生の面接をしましたが、生き生きと自分のことを語る学生に対してはついついこちらの側からその人を表す言葉を言ってしまうんですよね。
ラグビーの聖地・花園ラグビー場で現役選手がラグビーをするためにOB会も巻き込んでカンパを募り、その目標を達成した学生には「現実的な夢想家」と名付けました。
面接に物怖じすることなく、バカ話ばかりし、「あっ、明太子好きですか? 今まで九州にいたんですよ」と明太子を出した学生には「人懐っこい明太子男」と名付けました。
大体「核」なんてものは人間にはありません。「何が好きで何が嫌いか」「どんな時に幸せでどんな時に不幸せか」くらいの明確な答えを持っておき、それを面接で話せばいいんですよ。具体的にどうするか? 私が自分が現在も学生だと仮定し、「苦手なことってありますか? そしてその状況に直面したらどうしますか?」と聞かれたら場合の話をしましょう。
〈私は行列がどうも苦手なんですよね……。たとえばラーメンの行列に並ぶ場合は、それだけの時間をかけて、どれだけその時間とイライラする気持ちに勝る味のラーメンを食べられるか、という「効用」を考えなくてはいけないと考えます。
でも、大抵の場合はそこまで美味しいラーメンというのはないわけでして、だったらすぐに次のオプションを考え、まったく並ばないで済むそれなりに美味しい別のラーメン屋を目指します。そのために、食事をするにあたっても、常に第二第三のオプションを持った上で外食をします〉
こう答える場合、自ら比喩表現を作ってしまうと「二重窓」なんてバカなことを言ってしまうんですよ。そして私は「二重窓のように、周りの雑音も排除し、それでいて冬は暖かく過ごせるマルチな能力を発揮したいと思います」なんて支離滅裂な決意表明をする。そして面接官は「そこまで聞いてないんだけど……」となる。余計な比喩をしなかった場合は「賢く諦める人だね」と面接官から思われ、よりあなたのことを理解してもらえます。
とにかく、これは肝に銘じてください。
あなたを判断するのは面接官。自分が勝手に決めた自分を表す言葉を相手に押し付けても意味はない。
中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社)など。