今回のテーマは「就職浪人」である。これは、初めての就職活動の時に行きたい業界に入れなかったため、翌年留年して、その業界を再びチャレンジするというものだ。しかし、オレはこれはやめた方がいいと全力で言いたいところである。うそ、別にオレの人生でもないから、全力では言わん。だが、少し本気で言えば、本当にやめたほうがいい。
その根拠をつらつらと述べよう。これを最後まで読んでも分からない人は、まぁ、頑張って浪人でもしてください。
まず、翌年その業界に入れる可能性について。多少高まるかもしれないが、決して高くはないからである。一回目で落ちたということは、「その年に入ったヤツらよりも適性がない」と判断されたからだ。足りなかった勉強を補強することに意味がある、大学入試における「浪人」とは異なり、就活では基本的に「人物」を見られているだけに、翌年に再チャレンジしたとしても、一発目の面接でダメだった人が通る可能性は、劇的には上がらないのである。人事の目は節穴ではないので、落としたということは、ある程度適性がなかったことを見抜かれたことを意味する。
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1)「就職浪人」は「他人任せ」のあらわれに他ならない
オレ自身、就職浪人という選択が嫌いな理由は、あまりにも他人任せな点にある。就職浪人をする人というのは、基本的には
「私は○○業界に行けば幸せになれる」
「私は○○社に入れば幸せになれる」
と思い込んだ人々だ。そんな他人任せなスタンスで生きている人間が、果たしてカネ稼ぎをできる人物になれるか? と思うのだ。おそらく「与えられた環境で最大限頑張ります、押忍」のような割り切りができるヤツの方が文句を言わずに仕事をし、高い評価を受けることだろう。
2)理想が高すぎるヤツは、使い勝手が悪い
仮に、あなたが就職浪人をして希望の会社に入れたとしよう。すると、あなたはその会社に対する期待値というか幻想が高過ぎて、入社した後も使い勝手が悪いのである。最初はいちいち「うわーっ、○○先輩、すごいっすね!」などという感動の連発になるだろうが、半年もすると理想と現実のギャップに打ちのめされることとなる。
そりゃあ、半年もすれば“お客様扱い”期間は終わるから、平気で「お前って本当に使えないヤツだな」とか「お前の同期の山田の方が100倍優秀だよ」とか言われるようになる。すると、元々期待値が高かっただけに、裏切られた気持ちになるのだ。場合によっては精神を患ってしまうかもしれない。その後は負のスパイラル入りである。
3)若いうちの「1年」は大きい
そんな中、大学の同期の連中は入社2年目。当初は多少不本意な会社に入ったかもしれない彼らも、2年目になり、ある程度成長し、新入社員とは比較にならない額の案件を扱っている。同期会でもその活躍っぷりを(多少の誇張はありつつも)言葉の端々にのぼらせることだろう。
その時に「あっ、1年の差ってこんなに大きかったんだ!」と初めて後悔するのである。就職浪人として卒業せず留年し、「新卒」扱いを期待しても、実際には取る単位ももうなく、でれでれと過ごした大学5年目、なんの成長もせずモラトリアムの延長をしている中、同期の友人達は苦しい環境で着実に成長していたのだ。さらに、私立大学の場合であれば、自分は100万円ほどの学費を余分に払う結果となっているのである。その間、同期は300万円~500万円ほどは稼いでいることだろう。すると、この差はいきなり1年で400~600万円である。
この1年の差はその後の出世にも多少影響があるかもしれないし、生涯賃金にもけっこうな影響をもたらすことだろう。普通に会社員をやるのであれば、もしかしたらこの1年は1000万円の差をもたらすかもしれない。なにしろ、定年というヤツは、60歳の誕生日(65歳の場合もあるだろうが)を向けた日にいきなりやってきて、そこで会社からは捨てられるのである。
「そんなの関係ないっス、オレ、起業しますんで」と言うかもしれないが、まぁ、就職浪人をするような他人任せのヤツは、起業をするようなガッツはない。危ない橋を渡る勇気を持たず、無知のくせに勝手な理想を抱く人間は、先行きがまったく読めぬような「起業」という道を選ぶとはあまり思えないのだ。起業する意思があるのであれば、ガタガタ言わず、どんな会社でもいいからさっさと働き始めろよ、と思うのである。
4)自分中心の世界から早く抜け出ろ!
そして、オレが就職浪人を勧めない最大の理由を述べると、就職浪人をするということは、社会人になるのが一年遅くなってしまうことのデメリットである。実際、学生よりも社会人の方が圧倒的に楽しい。理由は、学生時代は基本的には自分を中心に世界がまわっているのだが、社会人になると、「社会」や「世界」「業界」を中心に世界がまわり始め、自分はそこの一構成要素でしか過ぎなくなるから。そうすると、天上天下唯我独尊的に生きてきて、自分こそがルールだった世界から脱出でき、途端に世界が開けてくるのだ。
世の中にはなんと面白い人がいるのだ、やら、うわっ、こんなイケメンいたの、キャー素敵! みたいなことをさっさと味わうことができるようになる。20代前半の元気でまだ柔軟な脳みそを持っている時代に、この素晴らしきBrave New Worldにさっさと足を踏み入れないのは実にもったいないことだ。
5)一生ずっと同じ会社に勤める人間は、多くはないという事実
ここまで読んできてもまだ就職浪人をしたい人に伝えたいのが「結局3年以内に3割以上は会社を辞めてしまっている」という事実に加え、一生でずっと同じ会社に勤める人間などそうそう多くはないという事実だ。
入る時はこここそが楽園だと思ったかもしれない。ここに入れば、幸せになれると思ったかもしれない。だが、結果的に多くの人はやめていく。それは、最初に入る会社がその人に最大に幸せをもたらさなかったからだ。だからこそ、会社なんてものは、運不運が左右するし、配属部署や隣の席に座った先輩社員の資質によっても不幸になることがあるワケで、そんな偶然だらけのギャンブルに賭けるために貴重な21歳や22歳の時間を1年無為に過ごすのは勿体ない。そう言いたいのである。就職人気ランキングナンバーワンの会社に入れたとしても、クソみたいな先輩社員はいて、そいつからいじめを受ける可能性はゼロとは言えないのである。会社に過度な期待を抱くな、そう言いたい次第である。
どんな人気企業であっても、辞めるヤツはいくらでもいる――この事実をあなたがどう捉えるか。それを「会社があなたに幸せをもたらすものではない」と考えられるようになった方が長い人生、幸せだぞ。
中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社)など。