「働く」ということを考えるとき、やりたいこそ、好きなことを仕事にしたい! 直接的にできなくても、少しでも関わりたいと思うのは自然なこと。
そのために、数多の就活マニュアルでは、「まずは自分の生い立ちを振り返り、嬉しかったことや楽しかったこと、努力したことを“小学校時代”“中学校時代”など、時系列に区切って書き出そう」といったアドバイスがなされています。
どういうときに自分が喜びを感じるのか、といったことを自己分析するための振り返り作業なわけですが、それをもってしても「やりたい仕事」にはピンとこない…という学生は、少なくありません。実際、「自分がなりたかったものは小説家ですが、就職活動とは関係ない職業ですよね…。出版社なども考えましたが、“やりたいこと”の迷子になって、結局メーカーに勤めています」という36歳の女性会社員に、どうやってその就職先に行き着いたのか、話を聞きました。
「自分が好きなことって、一つだけじゃないと思うんです。私は文章を書くのが好きで、なんとかして文章に関われそうな業界にいきたいと思っていました。
でも、実際に就職活動を始めてみると、出版社で編集というのもピンとこない。人が書いた文章をどうにかするより、自分が書きたいと頑なでした。しかも、出版社に行けたところで、必ずしも“文章”に携われるかどうかの保証はありません。ファッション誌というタイプでもないし、週刊誌に掲載されているような記事を書くのも、“やりたいこと”ではなかった。好きだからこそ、やりたくないほうへのこだわりも強かったのかもしれません。
ほんの少し業界を広げて、テレビとかラジオといったマスコミも視野にいれました。人にものを伝えるとか、言葉、といったくくりです。すると、ここでもやはり私は“制作側”に行きたいわけではないことに気がついたんです。例えばテレビなら出る人。ラジオなら、喋る側の人になりたい。何ができるわけでもないのに、今思えば、なんと傲慢な……と思います。下積みが必要なのはわかるのですが、私にはその根性がなさそうに思えました。
それで、一旦その思考から離れました。文章はいったん置いておこう。好きだからこそ仕事にしなくていいのではないか、と。
そうしたら、肩の力が抜けたのか、業種になんの興味もなかったのですが、偶然お会いしたメーカーの人事の方と話をするのがとても楽しかった。そこで、『ああ、私は誰かと一緒に、一つのモノを作るのも好きなんだな』と気がついたんです。例えばスポーツでも、陸上や水泳などの個人競技より、バスケやバレーボールが好きだった。部活では吹奏楽とか演劇とか、個人個人の技はとても大事なんだけれど、最終的にはみんなで何かをやる、というものが好きでした。
小説を書くというのは、とても孤独な作業かもしれません。それからすると、真逆っぽいかもしれませんが、私にとっては、小説を書くのも、みんなで何かするのも、好きなことに変わりはありません。
メーカーの種別には、こだわりはありませんでした。どちらかというと、「お酒は飲めないから、お酒メーカーに就職するのは無理かな」とか、“できないこと”“やりたくないこと”を考えました。「どうしてもやりたくないこと」「どうしてもできないこと」だけを考え、それ以外なら、好きになる努力はできそうだと思いました。
よく、好きな異性のタイプは? っていう質問あるじゃないですか。そりゃ、イケメンでお金をもっていて、優しいに越したことはありません。それを言い出したらキリがないのに、じゃあ誰でもいいわけじゃない。反対に、絶対無理なタイプを考えてみると、これはわかりやすく出てきます。私だったら、道路でツバを吐く人はヤダなあ、とか。就職はよく恋愛に例えられますが、同じように考えたらいいんじゃないかなと思います。
小説は、趣味として書いて、いずれネットに公開するとか、どこかに応募するとか、そういった感じでいいかな。好きなことを形にするのって、いろんな方法があるのを知ったのは、就職活動をしたおかげですね。」
好きなことは一つではない。自分の夢の実現方法には、案外いろんなやりかたがある――。彼女の転機は、メーカーの人事担当者に会ったことでした。もし、自分がやりたいことが何かわからなくなっている人は、自分が楽しんで話をできる人を見つけてみると、何か気づきがあるかもしれません。