Q)会社で偉くなるのは、「ゴマをする」人だと聞いたことがありますが、本当ですか!? また、そういう人を見たことがありますか?
自分はゴマをすれないタイプなので、会社で“偉く”なるのは絶望的なのでしょうか……。
A)「ゴマをする」の意味は、恐らくサラリーマンものの漫画やドラマに出てくる小物サラリーマンの立居振舞のことを指しているんですよね? 下には傲慢で、上には揉み手で「さすが、部長でございます!」みたいなことを言い、ヨイショする。盆暮れには上司にかかさずお中元・お歳暮を送り、新年の挨拶では上司のお子さんにお年玉をあげる。こうした昭和サラリーマン的人物が出世する、ということを仰っているのではないでしょうか。
結論からいえば、こうしたことをしても、出世はしないと思います。確かに出世するには能力に加えて、「実力者から可愛がられる」という側面があります。これがデフォルメされ、漫画・ドラマにおける「ゴマすリーマン」というキャラが存在するのでしょう。『美味しんぼ』の富井副部長や、『釣りバカ日誌』の佐々木課長、『半沢直樹』の小木曽次長なんか、その典型ですね。
あなたは、自分はゴマをすれないタイプだから出世は絶望……と言いましたが、多分そんなことはありません。前述の通り、「実力者から可愛がられる」ことにより、出世はします。しかし、可愛がられるということは、決してゴマをすることではないんですよ。むしろ「実力者から評価される」ことにより、可愛がられるわけです。評価されるには何が必要かといえば、「仕事で成果を出す」ことが大前提となります。
色々なサラリーマンと会食をした経験がありますが、私自身「私達が今日もこうしておいしいものを食べられるのも部長のリーダーシップのお陰です!」なんて典型的なゴマすりのセリフは聞いたことがありません。せいぜい連れて行ってもらった店が本当においしくて、「さすが役員はいい店知ってますね……」と言うぐらいの話です。
だから、会社で偉くなるためにゴマすりが大切だと思う必要はありません。というのも、ゴマすりをする人が本当にいるのだとすれば、部下も含めた同僚が絶対にその人のことをウザがるから。となれば「あいつは人望がないな。部長にはできないな」という判断を上司はせざるを得なくなる。
こういった話をすると、大抵の場合は「お前はサラリーマンの世界を知らないからそんなことを言えるのだ。ウチの会社なんてゴマすりがまかり通り、イエスマンばかりが出世する」という反論が来ますが、多くの場合、そんなことないんじゃないですかね……。
「あいつはゴマをすったから出世した」と愚痴る人は、結局自分の置かれた状況が満足いかないから、「自分はゴマをすってないから出世していないんだ」と言いたいだけではないでしょうか。ならば、その“ゴマすり野郎”と自身の過去の実績を並べて比較してみてはいかがでしょうか。多分、ここで登場する“不満野郎”よりも“ゴマすり野郎”の方が多くの実績を積み上げているはずです。
正直、自分の周囲で役員になった人やら「史上最年少部長」みたいな人を見てもゴマをすった姿を見たことないんですよね。むしろ、上司に対しては「そんなんじゃダメっすよ!」と言うような跳ねっ返り者の方が出世しています。そして彼らは下にも人望があります。
正直「ゴマをすると出世する」という“サラリーマンあるある”は、仕事でたいした実績をあげていない、全国の非出世サラリーマンの怨念と諦めきれない気持ちが作り上げた「ぬえ」のような存在なのではないでしょうか。あなたも「ゴマをすれないから出世しない」と決めつけるのではなく、とにかく与えられた仕事をきちんとこなし、着実に成果をあげ、実績を積み上げて偉くなってください。そして、将来「自分はゴマをすれなかったから万年ヒラだった」と言わない人生をお送りください。
中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社新書)、『夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘』 (星海社新書)など。