エントリーシート改造講座4回目の今回は「好きなこと」パターンについてです。
サークルやボランティア、趣味、旅行など、そのきっかけや原動力は「好き」が軸となる学生は少なくありません。中には、「好き」を極めた「オタク」、と言われるような学生もいます。
では、その好きなことをESに書くのはいいのか、悪いのか。書くとしたらどうすればいいか、解説していきます。
今回の参加者
▽久良信三さん(京都産業大学)
※名前は仮名です
久良さん:エントリーシートで自分の趣味のことを書いてみたのですが…。
石渡:うん、よくいるよね。
久良さん:しょせん、趣味だからやめた方がいい、というアドバイスと、それこそ好きに書いた方がいい、というアドバイス、両方受けて、それで迷っています。
石渡:なるほど、それでは拝見しましょう。
久良さん:はい、こちらです。志望企業はメーカーの総合職、お題は「学生時代に頑張ったことを踏まえての自己PR」です(制限文字数・400字)。
●久良さん・作成:
石渡:久良君は昆虫が好きなんだね。昆虫オタク?
久良さん:オタクって言われるほどではないです。
石渡:大丈夫だよ、オタクがダメと言っているわけではないから。
久良さん:オタクという言葉にちょっと抵抗ありますが、まあ、そうですね。
久良さん:やはり、オタクは企業で嫌われるのでしょうか。
石渡:そんなことないよ。趣味はその人を形成する要素の一つだからね。その趣味が大したものであってもそうでなくても、そこを理由に落とす企業はまずないんじゃないかな。
久良さん:そうですか、ちょっと安心しました。
石渡:ただねえ、このESのままだと、かなり苦戦すると思うよ。
久良さん:「趣味、オタクネタはやめた方がいい」とアドバイスしてくれたキャリアカウンセラーの先生も同じことを言っていました。
石渡:このES、読んだだけでは久良君が昆虫好き、ということ以外、よくわからないんだよね。
久良さん:そうですか…。
石渡:それと「好きなことを頑張る」が久良君の強み?
久良さん:はい。
石渡:本当に本当?「好きなことを頑張る」ということは「好きでないことは頑張らない、頑張れない」と言っているも同然なんだけど。
久良さん:あ…。
石渡:さ、もう1回、聞こうか。久良君の強みは「好きなことを頑張る」、本当にこれでいい?
久良さん:実は自己分析、やったのですが、よくわからなくて…。適当に作っちゃいました。
石渡:自己分析でちょっと迷って、それで「好きなこと」を軸にした、ということかな?
久良さん:はい。自分1人でやっていたら、訳が分からなくなって…。
石渡:昆虫が好き、ということだけど、そのあたりを聞いていこうか。
久良さん:石渡さんも昆虫が好きなんですか?
石渡:いや、全然。鉄道とか飛行機とか旅行全般、それとマンガ・アニメは好きだけど。
久良さん:そうですか…。
石渡:他大学受講というのは、これはコンソーシアム(大学間連合)の講義のこと?
久良さん:はい。講義は他大学の学生が中心でした。
石渡:自分で違う環境にわざわざ飛び込んだんだ。
久良さん:最初は同じ大学の空気ではないので、戸惑いました。今は違う大学の友達もできてよかったと思います。
石渡:違う環境、ということでは公立博物館のボランティアもそうだよね。これは、好きなことができた?
久良さん:最初は好きなことができる、好きな昆虫に触れ合えると思って応募しました。実際には違う事ばかりで。
石渡:好きなことはそうそうできなかった?
久良さん:はい。ボランティアって要するに雑用なんです。キャンペーンのハガキの仕分けをやったり、館内清掃の手伝いだったり。学芸員さんもボランティアの面倒はあまり見たくない、という感じで。私と同じ時期にボランティアを始めた学生は10人いました。しかし、私ともう1人以外はみんなやめちゃいました。「これはやりがい搾取だ」「ブラックアルバイトよりひどい」って。
石渡:やりがい搾取、と言って、君ともう1人以外はやめたボランティアを君はどうして続けたの?
久良さん:せっかくだから、続けてみようかな、と。雑用ばかりでちょっと腹も立ちましたが、どうせなら、その雑用から次につなげられないかなって。もう1人の続けている学生も、そう考えるタイプでした。それで、2人で次につなげるようにしていきました。
石渡:たとえば?
久良さん:キャンペーンのハガキなら、指示された分類をやったうえで、違う角度の分類をしてみるとか。2人で博物館学の本を読み合うことで展示方法の勉強などもしてみました。最初は、ボランティアを小ばかにしていた学芸員さんも「こいつらは見込みがありそう」とあれこれ教えてくれるようになりました。
石渡:ああ、そういうのをひっくるめて「積極的に動く」ということにつながるわけなんだね。
久良さん:昆虫の講演、というのも、昆虫の話だけでなく、昆虫展示の講演にも参加するようにしました。他の博物館がどういう展示をやっているか、そのうえでボランティアとして参加している博物館の展示を変えるとしたらどうすればいいか、レポートを書いたこともあります。これを学芸員さんに見せたところ、提案の一部は受け入れてもらえました。
石渡:出発点はね、「昆虫が好き」だけど、このボランティア、最初は好きとは無関係な仕事ばっかりだったわけでしょ。現に、他の学生は大半がやめているわけだし。それでも、君は続けた。「次につなげたい」って。そこ、どうしてか、もうちょっと説明してくれる?
久良さん:好きばっかりが人生ではないかな、と思うんです。確かに僕は昆虫オタクですけど、昆虫が人生の全て、というわけではありません。好きなことも人生だけど、最初から好きではなかったにしろ、途中で変わっていく、ということもあるのが人生のはず。昆虫だって脱皮していくことで成長しますし、だったら僕も、雑用も含めて自ら成長していく、それが大事かな、と。自ら成長していくためには、目の前のことをやってみて次につなげることが大事なんじゃないかな、って思います。
石渡:久良君、ちゃんと自分の強み、言えているじゃない。それだよ、それ。
久良さん:え?僕、自己分析、ちゃんとできていないし自己PRもまとまっていないのですが…。
石渡:今、自分で自己PR、ちゃんと言えたじゃない。「自ら成長していくために、目の前のことをやってみる」、それで十分だよ。
●石渡・改造例:
久良さん:なんか、こういう話になるとは思いませんでした。
石渡:あ、そう。じゃ、やめる?
久良さん:いえいえ、使わせてください。だって、僕が書いたの、あのままなら、単なるオタクアピールですよ。石渡さんにまとめてもらったのは、ちゃんと自己PRができていますし。
石渡:でしょ?最後の最後でちょっと聞くけど、オタクということだけで抵抗をもたれやすいと思う?
久良さん:うーん、自分の好きな話を一方的にするとか、そのあたりですか?
石渡:その通り。就活でも、社会人生活でも同じ。別に何オタクでもいいわけだよ。昆虫でも鉄道でもアニメでも。ただ、趣味は趣味、でちゃんとコミュニケーションが取れるかどうか。
コミュニケーションが取れるなら、オタクでももちろん良いということなんだよ。
久良さん:ありがとうございました!
<お知らせ>
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【講演情報】
「エントリーシート改造講座」「勝手にランキング」の石渡に文句を言いたい方、講演を聞きたい方、エントリーシート添削を依頼したい方などは、以下の講演にご参加ください。
8月2日(水)13時~18時 【アイデム西日本(大阪・本町)】2019年・2020年・2021年卒対象「お菓子な就活、おいしい就活イベント+石渡講演」(食品業界各社が集結しての企業研究イベントと石渡講演)
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8月18日(金)13時~15時30分 【アイデム西日本(大阪・本町)】2019年・2020年・2021年卒対象「大学1・2・3年生が就活を前に考えたい大学生活」
>予約はこちら
9月5日(火)13時~18時【アイデム西日本(大阪・本町)】2019年・2020年・2021年卒対象
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石渡嶺司(いしわたり れいじ)
大学ジャーナリスト
1975年生まれ。北海道札幌市出身。1999年東洋大学社会学部卒業後、日用雑貨の実演販売、編集プロダクション勤務などを経て2003年から現職。大学・就活関連の取材、執筆活動を続ける。当初から「大学勤務も採用担当者経験もないくせに」と批判されているが、14年経った現在も仕事が減りそうにない変わり種。
3月からJOBRASSマガジンの他、日本経済新聞サイト(日経カレッジカフェ)でも連載開始。
著書『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書) 、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)、『就活のコノヤロー』(光文社新書)、『教員採用のカラクリ』(共著、中公新書ラクレ)など多数。