「この会社でいいんだろうか、そもそも今就職していいんだろうか……。人生では、選択と決断することが常に続きます。その時にどうやって決断するのか――。これについては、まぁ、死ななかったらいいかなぐらいに考えておけばいいと思います。あと、一回決断したのであれば、あまり後悔はせず、失敗した場合でも次に活かすということを考えるべきでしょう。
就職とはまったく次元の違う話ではありますが、私はこれまでに人に1880万円を貸してきました。820万円は結局回収できなかったのですが、ここでも様々な決断がありました。」
――博報堂に勤務後、現在はフリー編集者として活動する中川淳一郎が、今回は「決断する力」を考えます。
まずは借金の依頼に来た友人が頭を下げ、その困窮を訴える。そこで私は「ここでこいつに貸さなくては、こいつは消費者金融でカネを借りて余計な利子を支払い、ますます生活が苦しくなるな……」と考え、カネを貸すという決断をします。
さて、そのカネが無事戻ってきたら皆幸せなのですが、戻らなかった場合は、誰もが不幸せになります。そして人間関係は終わらせることになります。こうした失敗を何度かしたため、私は今後「何があろうともカネは貸さない」という決断をしよう、と学習できるわけです。その境地に至るまでに1880万円を使ったのもバカげてはおりますが、まぁ、仮にこのお金が全部返ってこなかったとしても、死んでなかったので良し、と考えています。
さて、話はいきなりずれましたが、多くの学生がまず悩むのは「大学院に進むか就職するか」といったところがまずはあります。そして、就職するにしても民間がいいのか、公務員がいいのか、はたまた資格をとって弁護士や会計士を目指すのがいいか。或いはバンド活動を続けてメジャーデビューを目指すか。様々な選択肢があるのですね。
この時に考えるべきは、「今決断しなくてはできない方向を選ぶ」ということです。たとえば大学院に行くことを考えた場合、一旦社会人として経験を積んだ後で戻ることも可能でしょう。ただ、師事している先生があと数年で退官をすることになっていて、その先生から学ぶにはすぐに大学院に入らなくてはいけない。その場合は進学を選ぶべきです。
その一方、「大企業に入ってそれなりの安定と高収入を得たい」と考えた場合はどうか。今の時代は色々変わってはいますが、大企業に正社員として入るには、よっぽど実績を積んだ場合を除き、やはり新卒の方が入りやすいんですよね。転職をするたびに企業の規模も大きくなり、給料も右肩上がりになる人ってのは相当優秀なのです。となれば、新卒の段階で大企業に対して就職活動を仕掛けてしまった方がいい。その人生を手に入れる絶好のタイミングが今なのですから、この機会は逃してはいけない。
一方、将来的に親の事業を継ぐことが決まっていたり、地元に帰って友人の会社をいずれ手伝うことが決まっていたりする場合は、必ずしも大企業に入る必要もなくなるわけです。その場合は、最後のモラトリアムだ、とばかりにそのまま趣味を続けるも良し、簡単に入れる不人気企業を受けて「イヤだったら辞めればいいや」みたいな気持ちで入ってしまうのもいい。
◆取り返しがつかなくなる前に決断をする
これが前出の「今決断しなくてはできない方向」なのです。30歳になった元野球少年が高校以来の野球に目覚め、プロ野球を目指すなんてのはもう遅いんです。やはり高校野球の3年生夏の大会が終わった段階で大学進学して野球を続けるか、社会人チームに入るかしなくてはプロ野球選手になることは不可能です。もちろん高校段階でプロから評価されるような選手は別ですが。30歳では決断が遅すぎたのですね。
というわけで、毎度の選択・決断をするにあたっての基礎的考えはこれでいいのですが、もう一つ重要なのが10年後の理想像を考えることです。それは、超具体的で良くて「結婚して子供を2人持って、将来はその2人を私立に入れる」みたいなものです。となれば、年収は800万円程度はあった方がいいでしょう。それが達成されるにはどんな仕事を今選ぶべきなのか? といった観点で考えられるのです。さすれば、エントリーシートの提出先やセミナーに参加すべき企業も絞られてくるでしょう。10年後、いくら出世していても年収500万円の会社・X社であれば、その理想像を達成することはできないので、X社は選択肢から除外される。この2つの考え方を駆使し、良い選択をしてください。
なお、覚えておきたいのが「悪い予感」というものは案外当たるってことです。宝くじの広告にはやくみつるさんの漫画が載っていますが、「なんだか当たりそうな予感がした」と思い買ってみたら本当に高額当せんとなる、といったストーリーになっています。こうした「いい予感」ってのは実は滅多に当たらず、逆は当たる。
どこかで手を抜いていたり、怠けていたことってのは若干の罪悪感を持ちつつも「まぁ、いいか……」なんて考え、そのまま手を打たずに進めてしまう。具体的には私のようは編集業で時々あるのですが、誰かのコメントを取ったとしましょう。その時、原稿提出日が迫っていて本人に確認する余裕がない場合、「まぁ、無難なテーマについてだから大丈夫だよね?」なんて同僚に言って「まぁ、大丈夫じゃない、この程度なら……」「そうだよね~、編集権はこっちにあるもんね」というやりとりになり、なんだか安心してコメント者の了承を得ないまま掲載してしまいます。
すると「私になぜ最終確認しない! 雑誌を回収しなさい!」みたいな話になり、謝罪に出向き、さらには「お前みたいな下っ端じゃダメだ! 編集長を出せ!」となって大騒動に発展したりするんですよ。当然同僚に「大丈夫だよね?」と相談している時点で悪い予感はあるわけなので、その時はさっさと「本人に確認する」という決断をすべきなのです。その時のちょっとした「ラクしたい」という決断が大事故に繋がります。
中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社)など。