就活を経験した先輩たちが口をそろえるのは、選考で次のステップにいけなかったり、内定をもらえなかったりしたときに「“何が悪かったのか”を思い悩んでしまい、モヤモヤする」ということです。よく言われることですが、就活は“恋愛”のようなもので、企業との相性が重視されます。企業側がその学生を評価したうえで“否定”しているわけでは全くなく、「ウチよりもいい会社があるだろう」ということなのです。
とはいっても、社会人になったら「評価」はつきもの。博報堂に勤務後、現在はフリー編集者として活動する中川淳一郎が、今回は「人から評価されること」を考えます。
「まだ本気出していないだけ」「オレは本当はもっとできる」そんな言葉をネット上では冗談めかして見ることがありますが、よっぽど達観した仙人のような人を除き、誰しもこのように考えたことはあるのではないでしょうか。考えるのは悪くはないのですが、この2つの言葉が表す「個人の実力」ってものは、結局赤の他人があなたに対して下す評価の積み上げによって成り立っているのです。
自分がいかに“実力者”であるかについて、それは自分の心の中では自信があるかもしれないし、自認しているところがあるかもしれない。しかし、重要なのは「じゃあ他人様はあなたの実力をどうお考えなのでしょうか?」ということと、「あなたの現在のポジションはどのようなところにあるのでしょうか?」なのです。
大学に入学してから就活までの約3年間、学生は特に点数をつけられることや、評価されることはあまりありません。サークルのセレクションに通ったり、希望のゼミに入れることなどで優劣はつけられるものの、ここでも激しいレギュラー争いに参入するとかでなければ、やはり点数をつけられるようなことはそれほどないでしょう。
しかし、就活は点数をつけられることばかり。それに嫌悪感を抱き、世の中がいかに点数社会・他人からの評価社会になっているのかを知り愕然とするかもしれない。しかし、就活が終わったところから本格的な点数社会の到来です。
銀行員になった友人にしても、メガバンク3行に入った人と、地銀に入った人がいる。なんとなくメガバンクの人の方が「オレの勝ちだ」と言いたくなる。しかし、そこに日銀に入った人や外資系投資銀行に入った人がいるとどうも負けたような気持ちになってしまう。
入社して、最初の新入社員研修の時は和気あいあいとやっているものの、いざ配属となると、希望通りにいかなかった各人が冷酷な評価をされたと思ってしまいます。私の友人の多くは銀行に入りましたが、最初の配属がとある下町の支店だった人は本当に落ち込んでいました。そんな彼と飲みに行った時「あぁ、山手線の外に配属になってしまった……。オレはもう人事から“無能”扱いされてしまったんだ……」と嘆いていました。その一方で、新宿の支店に配属された人からは言葉には出さないものの「オレはすでに出世コースに乗った!」という喜びと自信を感じたものです。
事実かどうかは分からないですが、新入社員の間では「山手線の中の支店に最初に配属されるかどうかが出世への道。採用・研修段階ですでに結果は見えている」といった噂があったようなのです。
そこから先、銀行員の場合は「〇歳で本店配属になる」「海外支店を経験する」や「〇歳までに副支店長になる」「〇歳までに支店長になる」といったルートこそ出世への道だと考えるようになります。さらには「40代中盤でも子会社出向ではないことが重要」なんて話も出てきたりもします。日々点数をつけられるのが社会人の日常となっているのですね。
それは、ご近所さんやママ友との関係性においてもそうです。恐らく、メガバンクで出世をしていない夫であろうとも、その出世度合は近所からは知られていないでしょうから「あら、お宅の旦那さん、大きな銀行に勤めていらっしゃっていいわね。ウチなんて中小企業で給料安いのよ」なんてことを言われ「いえいえ、そんな……」と大げさに手を振るも若干の優越感を抱く。しかし、妻は内心「でも、出世街道からは大幅にズレてるけどね……」と思ったりもしているのです。
こうした競争は学生時代の友人との関係性においても登場します。それなりに社会で活躍していないと同窓会にも行きづらくなるものなんです。だって、社会からそれなりに評価されている元同級生ってとにかく自信満々で「ヨッ!」なんて言ってはがっちりと握手をしてきたりする。そして、私の肩を叩き、満面の笑顔で「ヨッ、お前、最近何やってるの?」と余裕たっぷりに言ってくる。
あれ、お前、昔そんなヤツだったっけ? なんて思いつつも、世間からの高い評価がいつしか彼を堂々たる態度の日焼け高級スーツに高級時計、週末はクルージング男に変貌させるとともに、過去の同級生に対し「今のオレを見よ!」とやってくるわけでした。
こうした人々は評価社会の勝ち組であり、そこを目指すのか。はたまた過当競争から降り、そこそこ生活に困らない人生で満足するのか。そういった見極めをいつしか皆さんもしなくてはいけなくなります。
就活はその第一歩ですので、就活段階であまりにも競争に疲れてしまったのであれば、もしかしたら生き馬の目を抜くような業界への就職はしないのが吉かもしれません。それには、より多くの社会人と会い、どの業界が自分に向いているかを見極めるとともに、競争の勝者と、競争の舞台から若干降りた人、どちらがより幸せなのかをご自身の中で実感として持った方がいいでしょう。
中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社)など。