2015年の夏――
世界最大の旅行口コミサイトとして知られる、「トリップアドバイザー」が「日本の人気テーマパークトップ10」を発表。投稿された5段階の評価と投稿数などを元に、独自のシステムで集計したところ、驚きのランキング結果が各メディアで話題となりました。
【日本のアミューズメントパークTOP10】
1位:東京ディズニーランド(千葉県浦安市)
2位:東京ディズニーシー(千葉県浦安市)
3位:ふなばしアンデルセン公園(千葉県船橋市)
4位:ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪府大阪市)
5位:富士急ハイランド(山梨県富士吉田市)
6位:ナガシマスパーランド(三重県桑名市)
7位:グリーンランド(熊本県荒尾市)
8位:ルスツリゾート(北海道留寿都村)
9位:江戸ワンダーランド日光江戸村(栃木県日光市)
10位:ハウステンボス(長崎県佐世保市)
ご覧のとおり、意外だったのは3位の「ふなばしアンデルセン公園」です。「東京ディズニーランド・シー」に次いで人気を博していること、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」を抑えてTOP3入りしたこと、企業ではなく、公益法人が運営管理している唯一の施設であること、以上3点が驚くべきポイント。一般的に想像される大型テーマパークとは規模も施設も異なるものの、高評価を得られたのはなぜなのでしょう。そして、2016年は「東京ディズニーシー」「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」共に開業15周年を迎えるアニバーサリーイヤーということで、どういった勝負をしてくるのか。今回は、日本が誇るこの3大テーマパークの魅力と戦略を分析していきましょう。
一度行ったら再び行きたくなる
2度、3度はあたりまえ
リピーター率が脅威の97%とも言われている「東京ディズニーランド・東京ディズニーシー」。
“ディズニーランドは、決して完成することはありません。世界に想像力がある限り、永遠に成長し続けます――”
というウォルト・ディズニーの言葉にもあるように、リピーターをも飽きさせないアトラクションやイベントの数々、訪れたゲストに感動をもたらし続けるキャストの徹底した質の高いサービスが魅力でしょう。
1983年4月15日に千葉県浦安市舞浜に「東京ディズニーランド」が誕生。2000年1月1日にリゾート化宣言をし「東京ディズニーリゾート」をスタートさせました。同年7月7日にショッピングとアミューズメントの施設「イクスピアリ」と「ディズニーアンバサダーホテル」をオープン。東京ディズニーリゾート初のディズニーホテルが誕生し、大変話題になりました。翌2001年9月4日には日本に2つ目のディズニーテーマパーク「東京ディズニーシー」がオープン。2002年11月8日には両パーク併せて3億人目のゲストが来園し、ディズニーブランドの絶大な人気を見せつけました。次々に新しいエリアやアトラクション、サービスを展開しファンを魅了し続けられるのは、経営が安定しているからこそなしえること。まだまだディズニーマジックから目が離せない、と言ったところです。
キャストのサービス力の高さはもはや伝説、その実態は??
「東京ディズニーリゾート」はその環境だけでなく、働く“キャスト”たちのサービスも大きな部分を担っています。“キャスト”とは「東京ディズニーリゾート」で働く人のことで、ショーで演じる“キャスト(=役者)”という意味。なぜこういう呼び方をするかというと、アトラクションやレストラン・ショップといった施設はもちろん、樹木やベンチ・ゴミ箱にいたるまで「東京ディズニーリゾート」では、テーマに沿って造られています。そして、そこで働くキャストもまた、テーマに沿った役割を「演じている」からです。その他、来園者のことは“ゲスト”と呼び、制服のことは“コスチューム”と呼ぶなど、徹底してテーマに沿った役割を演じていることが「東京ディズニーリゾート」の最高にして最強の強み。マニュアルはなく、世界中のディズニーテーマパークの共通として「SCSE」という行動基準に沿ってサービスを提供しているそうです。「SCSE」とは、S(Safety)=安全、C(Courtesy)=礼儀正しさ、S(Show)=ショー、E(Efficiency)=効率、とされています。すべてのキャストがこの基準を理解し、この基準の元に行動することによって、大人から子どもまですべてのゲストが楽しめる場所を創りあげているのです。
ただ、2014年度まで3年連続で客数が最多を更新した「東京ディズニーリゾート」も、2015年4~9月は前年同期に比べて72万人減少。今後どうやって客数を伸ばすか、注目したいところです。2016年は、「東京ディズニーシー」開園15周年イベントもあり、様々な巻き返し策があることでしょう。さらに来年以降は新エリアの増設や新アトラクションのオープンも控えているので、まだまだディズニー神話は続きそうです。
世界観が忠実に再現されている
人気作品とのコラボ企画連発
ハリウッド映画や人気アニメ・ゲームの世界を肌で感じ、体験することができる「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」。
2001年3月に大阪市此花区に、スティーヴン・スピルバーグ監督がクリエイティブ総監督を務めるテーマパークとしてオープンしました。「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」の魅力はなんといっても、原作や映画の世界観に忠実な再現力。最高のクオリティで、ゲストの期待と想像を上回るリアリティのあるショーやアトラクションの数々が、ファンの心を掴んでいます。
来場者数が伸び悩み、経営難に陥った時期もありましたが、昨年ハロウィーンイベントが大成功。同年10月には来場者数が約175万人に達し、短月として開業以来最高を記録しました。さらにこの勢いに乗ったUSJは、開業15周年を迎える今年、“リ・ボーン! さあ、やり過ぎよう、生き返ろう”をテーマに数々のエンターテインメントを次々と投入するとのことです。
またUSJ再生の一員として上げられるのが、ハリウッド映画の他に「進撃の巨人」や「エヴァンゲリオン」「モンスターハンター」など、日本の人気作品とのコラボ企画。最新の技術力と創造力によって開発されたアトラクションの数々は、誰もが一度は体験してみたいと思う魅力的なものばかりです。従来の概念を吹き飛ばすイベントで、来場者数UPは間違いないでしょう。
ターゲットの拡大が課題、その具体的な戦略は??
前述のとおり、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」は映画やアニメ・ゲームの世界を肌で感じることのできる体感型テーマパーク。コンテンツに縛られないファン作りを課題に、近年はファミリー層の集客に力を入れてきました。2012年からは、2004年に導入したハローキティやスヌーピーなど、これまで点在していた子どもにやさしいコンテンツを一か所に集め、ファミリーエリアを展開。子どもが遊ぶ場所の地面には、ころんでも大丈夫なように柔らかい素材で覆い、スロープはゆるやかにし、授乳室も充実させました。乗り物の周りにはベビーカーの“車列”ができ、ファミリー層の来場者も安心して過ごせるようにと、大人が楽しい映画の世界と場を分けたことが来場者数UPに繋がったのではないでしょうか。
このように、アトラクション好きのコア層とファミリー層でリピーターを獲得した「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」ですが、来場者の多くが近畿圏に在住。今後は、首都圏や海外からの集客増が課題であることは間違いありません。旅行代理店などとタッグを組み、新サービスを生み出したり、大阪府を巻き込んで観光戦略を練ったり、様々な起爆剤を用意しているのではないでしょうか。今後の展開に目が離せませんね。
安くてもくつろげる
日本一楽しい普通の公園
などといった声が多く、近隣に住む住民はもちろん遠方に住む人々にも愛されている「ふなばしアンデルセン公園」。
千葉県船橋市にあり、河川と農地・山林が多くを占め、自然が豊かで「公園らしい公園」です。「アンデルセン」の名は、童話作家のアンデルセンが由来しており、アンデルセンの出身地・デンマークのオーデンセ市と船橋市が姉妹都市である縁で命名されました。
園内は「ワンパク王国ゾーン」「メルヘンの丘ゾーン」「自然体験ゾーン」「子ども美術館ゾーン」「花の城ゾーン」の5エリアに分かれていて、国内最大級のアスレチックの遊具は100種類。さらに、約800本の桜のほか、チューリップ、コスモスなど美しく整えられた季節の花壇も見どころです。
入場料は、一般900円、高校生600円、小・中学生200円、幼児100円に設定。入園者の平均客単価は、入園料を含め1人約600円とのこと。コストパフォーマンスの高さも、何度も足を運びたくなる理由の一つにあるようです。
さらに、船橋市で全国都市緑化フェアが開催された2007年、公園にたくさんの花を植えたことにより、この年の入場者数が急激に増えたという例も。それからは園内のいたるところに花を植え、一年を通して季節の花が楽しめる、公園ならではの良さに注力しているところが、入場者数の増加に繋がっているのではないでしょうか。
園内では、小動物とのふれあいや木工教室など様々な体験ができる、というのもファミリー層の心を掴んでいるようです。特に、自然の中で楽しむアスレチックの遊具は100種類とかなりの充実ぶりです。
公益法人ゆえの制限、働いている人のヤリガイは??
「ふなばしアンデルセン公園」はご存知のとおり公益法人。公益法人とは、社会公共の利益をはかることを目的とし、営利を目的としない法人のことを指します。つまり、一言で言うと「儲けることが目的ではない」ということ。
儲かった分は還元するのが決まりなので、無料入園者数を増やしたり、入園料を下げたりしているようです。そこにヤリガイはあるのか……と疑問に感じる人もいるかもしれませんが、公益法人ゆえの制限が、ストレスフリーな職場環境を作っている面もあるようです。
例えば、園内のサービスを充実させるためのアイデアを、職員が自由に提案し、実現しやすいという点も、儲けを追及しない公益法人ならではの良さ。職員一人ひとりの笑顔や頑張りが、公園の評価に繋がっているようなので、働きやすさやヤリガイは十分に感じられそうです。
公益法人ゆえのメリット・デメリットはありますが、「東京ディズニーリゾート」や「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」とはまったく異なった魅力が、人気のヒミツとも言えるでしょう。制限のある中で、いかに来場者を楽しませるか、今後の施策に期待大です。
人気の3施設を比較して、それぞれに魅力があって、それぞれに工夫があった、ということを理解していただけたでしょうか。改めて足を運んでみると、新たな発見があるかもしれません。
「東京ディズニーリゾート」「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」そして「ふなばしアンデルセン公園」の今後の展開も気になりますが、2017年以降はライバルの進出も気になるところ。埼玉県飯能市にオープンするムーミンのテーマパーク「metsä (メッツァ) 」や、愛知県名古屋市にオープンする「レゴランド」は、今から楽しみにしているファンも多く、テーマパーク業界に新しい風が吹き荒れそうです。業界がさらに過熱することは間違いなし。
興味のある人は、これまでの歴史・施策・今後の展開予想を頭に入れた上で、今度はぜひ「働く人目線」で園内サービスのあれこれを見てみてください。