世の中にいくつもある、金融を舞台とした小説。金融業界を目指している就活生だけでなく、お金を取り巻く小説は就活生にとって有益なものとなるでしょう。難しい専門用語や説明が並ぶビジネス書のような、専門書ではありません。経済のみなぎる躍動感をリアルに伝えてくれる経済小説は、抽象的で分かりづらい経済の世界へと、知らないうちに引き込んでくれます。
読み進めながら登場人物の境遇に自分を重ねてみたり、共感したりしながら金融の世界に入っていけるでしょう。登場人物の声を聞き、表情を想像することで、金融業界についてぜひ学んでみてください。ここではそんな金融を舞台とした小説を、4つご紹介します。
・真山仁「ハゲタカ(上)」「ハゲタカ(下)」
映画化・ドラマ化も果たした、バブル崩壊後の日本が舞台の大人気経済小説です。場面がタイミング良く展開していき、テンポの良さも魅力。非常に読みやすい小説といえます。
ストーリーは、不良債権を抱えて瀕死状態にある企業の株や債権を買い叩き、手中に収めた企業を再生。それによって莫大な利益を上げるバルチャー・ビジネスを描いています。ニューヨークの投資ファンド運営会社社長が不景気の日本に戻り、さまざまな妨害や反発を受けながら次々と企業買収していくのは、若い人にビジネスのおもしろさを感じさせるでしょう。社長は嫌なタイプに見える人が多いようですが、次々と仕掛けながら利益を上げていく頭の良さには、つい魅了されてしまいます。
詳しい知識がなくても、楽しく読み進めることができる経済小説。上下巻で1,000ページとボリューム満点ですが、ぜひ読んでほしい作品です。
・池井戸潤「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」「ロスジェネの逆襲」(半沢直樹シリーズ)
バブル末期に大手都市銀行に入行した男が、銀行内外の人間や組織による圧力や逆境と戦う姿を描くシリーズ小説です。元銀行員である著者が銀行の体質を分かりやすく執筆し、中間管理職の苦悩・葛藤を書いています。世の中にある理不尽に立ち向かう主人公の半沢は、歯を食いしばりながら耐え、逆転のチャンスをうかがい続けます。そんな主人公の半沢と同世代は当然ながら、それ以外の幅広い世代からも共感され、支持を受けている作品です。難しい専門用語などはあまり出てこないので、読みやすく、すっきりと内容が入ってくる構成となっています。
『半沢直樹』というタイトルでドラマ化もされ、主演・堺雅人さんの「やられたらやり返す、倍返しだ!」というセリフは一躍有名となりました。著者が元銀行員ということもあり、金融業界、特に銀行を目指している人は、銀行の仕事や、過酷な環境で仕事をすること(戦うこと)の醍醐味などを楽しく学べるのではないでしょうか。
・山崎豊子「不毛地帯」
1973年から1978年まで、「サンデー毎日」に連載された山崎豊子の代表作の1つです。映画化・ドラマ化もされました。連載されていたのは、ロッキード事件やダグラス・グラマン事件があった時代。ストーリーは、大本営参謀・壹岐正は終戦工作に赴いた満州でソ連軍に抑留され、その後、日本に帰還を果たします。その経歴に目を付けた商社の社長からの熱心な誘いに、彼は第二の人生を商社マンとして歩み始めるというものです。
シリアスな内容が描かれているのに、エンターテイメントとして秀逸な点が魅力でしょう。戦後の日本が戦前を如何に引き受けたのか、今を生きる日本人が忘れてしまっていることを気付かせてくれます。戦前・戦中を生きた人々の、挫折からの複雑な復活へ向けた希望が描かれた作品。戦後の民主主義を享受している今の日本人には、想像もできないことを知ることができるはずです。金融というより商社マンの過酷な仕事が描かれていますが、仕事の醍醐味と経済に関しても学べることがたくさんあります。
・黒木亮「エネルギー(上)」「エネルギー(下)」
「エネルギー」は、世界中すべての国にとって欠くことのできない原油や液化天然ガスなどのエネルギーに関して、世界を舞台に描いた大河経済小説です。
大手商社の主人公はイラクで原油取引の交渉中、サハリンの巨大ガス田開発へ異動を命じられます。下位商社の役員である亀岡吾郎は、通産官僚と結託してイランの「日の丸油田」を獲得しようと、米系投資銀行の秋月修二は中国企業を相手にエネルギー・デリバティブを企てるのでした。しかし、国際資源である「石油」の確保は一筋縄ではいきません。多くの関係者の利害を調整する必要があり、それを解決しようとすると問題は大きくなることも。国際的な問題に発展する可能性がある国際的な商品の「石油」は、読み手に奥深い世界を教えてくれます。経済、グローバル化、資源ビジネスについて考えさせられる作品です。
黒木亮の小説には、季節ごとに移り変わる世界の各都市の描写や名所旧跡の描写があり、それを合わせて楽しめるのも1つの醍醐味です。