新聞やコピー用紙、段ボールなどは、私たちの生活にとって身近なもの。それを支えているのが紙・パルプ業界です。中でも紙・パルプメーカー(製紙会社)は木材や古紙から紙を作るだけでなく、化成品の製造やエネルギー事業など、多様な事業を行っています。
古くからある業界ですが、近年は合併などによる合理化も積極的に図られてきました。紙・パルプメーカーを志望する就活生は、業界内におけるリーディングカンパニーの特徴や勢力関係などを把握しておきましょう。
日本の紙・パルプメーカーは、世界で見た際にどのような位置を占めているのでしょうか。
売上高ではアメリカやフィンランドの大手企業に続いて、王子ホールディングス株式会社と日本製紙株式会社がトップ10圏内に入っています。この2社は洋紙と板紙の生産量で国内他社をリードしており、まさに日本の紙・パルプメーカーのリーディングカンパニーといえるでしょう。
そのほかにも、段ボールなどの板紙を専門に製造しているレンゴー株式会社、ティッシュペーパーや紙おむつなど家庭紙に力を入れている大王製紙株式会社などが業界の代表格です。
紙・パルプ業界では、一般に「産業資材用紙に強い王子、出版用紙に強い日本製紙」といわれています。では王子ホールディングスと日本製紙は、どのような事業を展開しているのでしょうか。
それぞれ、「会社の仕組み」「事業内容」「海外戦略」について詳しく特徴を比較してみましょう。
<王子ホールディングス>
王子ホールディングスは、事業分野ごとに「カンパニー」を設置しています。そして、各カンパニーに属する複数の企業群“王子グループ”を束ねる持ち株会社です。王子グループの企業には、例えば産業資材カンパニーに王子マテリア株式会社、生活消費財カンパニーに王子ネピア株式会社、印刷情報メディアカンパニーに王子製紙株式会社などが属します。
<日本製紙>
日本製紙は、約180社の関連企業を有する“日本製紙グループ”の筆頭会社です。グループ企業には日本製紙クレシア株式会社やリンテック株式会社、日本紙通商株式会社といった企業が名を連ねます。
<王子ホールディングス>
王子ホールディングスは、事業分野別の各カンパニーによって以下のような事業を展開しています。
・産業資材カンパニー
段ボールやパッケージなど、包装用途の紙を製造する事業。
・生活消費財カンパニー
ティッシュペーパーや紙おむつなど、家庭紙を扱う事業。
・機能材カンパニー
レシートに使われる感熱紙や粘着テープなど、特殊な機能をもつ紙を扱う事業。また、スマートフォンに使われる各種フィルムなども製造。
・資源環境ビジネスカンパニー
木材や植林、パルプなどの既存事業に加え、バイオマス発電所や太陽光発電所などエネルギーに関する事業。
・印刷情報メディアカンパニー
新聞や雑誌、書籍に使われる紙や、コピー用紙などの情報用紙を扱う事業。
<日本製紙>
日本製紙も扱う製品によって部門が分かれ、以下のような事業に取り組んでいます。
・紙事業
新聞用紙や出版用紙、情報用紙をはじめ、包装用紙や段ボール、伝票に使われるノーカーボン紙といった特殊機能紙などを製造する事業。出版用紙は国内の4割を製造。
・紙パック事業
牛乳などを入れる紙パック製造のほか、パッケージデザインの設計や印刷、成型までを行う。
・ケミカル事業
食品添加物などの化成品や、液晶テレビやパソコンに使われる特殊フィルムなどを扱う。
・エネルギー事業
自社の発電施設で電気をつくり、自社工場の稼働のみならず余剰分を電力会社に販売。今後は一般需要家への販売も視野に入れ、バイオマス発電や太陽光発電にも取り組む。
・アグリ事業
木の性質を研究して得た植物バイオ技術を生かし、苗木の生産や機能性食品の開発を行う。
・セルロースナノファイバー事業
木材資源の素材開発の一環として、バイオケミカル分野での開発を実施。中でもセルロースナノファイバーは高強度の極細繊維であり、さまざまな産業用素材として注目されている。
・木材事業
紙の原料である木材を調達する事業から発展し、建材開発を行う。
<王子ホールディングス>
中国の江蘇省で上質紙の製造開始。さらにカンボジアやベトナム、インドで段ボールの新工場が稼働しました。インドネシアでも紙おむつ製造の合弁事業が開始されるなど、アジア地域での積極的な事業展開が特徴です。また、資源国であるブラジルでも事業拠点を確保し、成長市場での事業展開を強化しています。
<日本製紙>
タイの製紙会社と合弁会社を創り、新たに工場を建設。東南アジアで産業用紙の生産を主軸に事業を展開しています。また、オーストラリア第3位の製紙会社を買収するなど、オセアニアでの積極的な事業展開も特徴的です。
これから働く企業選びでは、企業の将来性も大切な判断材料となるでしょう。リーディングカンパニーである2社では、それぞれ次のような将来展望を掲げています。
<王子ホールディングス>
・国内既存事業において提案型ビジネスを深化
・バイオ素材や化成品などの新事業を発展
・東南アジア、南米で産業資材や家庭紙などの分野に投資
<日本製紙>
・製造工程の効率化などにより国内製紙事業をさらに強化
・紙作りだけでなく“総合バイオマス企業”として発展するための投資を実施
・東南アジアでも国内と同様の新規事業を発展させる
今後、両社とも製紙業で培ったノウハウを生かして、製紙業以外での技術開発や海外進出を行い、さらなる事業の拡大・展開を目指すことが期待できるでしょう。