日本のGDPの1割を稼ぎ出すと言われる三菱グループ。創業者である岩崎弥太郎はかつて、「三菱は岩崎家一個のものではなく、国家社会のための三菱である」と説きました。三菱グループは巨大組織であり、グループ内の企業同士も結びつきの強いグループですが、どんな企業があるのでしょうか。どのような活動を行っているのでしょうか。
三菱グループは、戦前の三菱財閥の流れをくむ企業グループです。創業者は岩崎弥太郎は、幕末から明治にかけての激動の時代に、土佐藩の藩士として、武器や艦船の輸入、土佐産品の輸出業務のため長崎に派遣されていました。土佐藩の海運事業を行っていた九十九商会(1874年設立)が、「三菱」の始まりとされています。創業時は海運業と商事が中心でした。
三菱のマークは、九十九商会が船旗のマークとして採用した三角菱が原型です。岩崎家の家紋と組み合わせ、現在の三菱マークとなりました。余談ですが、全く同じマークを使っている三菱鉛筆は、三菱グループがこのマークを使い始めるより前に商標登録をしていたため、三菱グループとは関係ない企業ですが、同じマークを使っています。
三菱グループの主要企業は、三菱広報委員会の会員となっています。三菱広報委員会は、「三菱系企業、三菱グループ各社のイメージ向上を図り、社会の発展に貢献することを目的とする様々な活動」を行っています。(参照:https://www.mitsubishi.com/mpac/j/)三菱グループには共有する「三綱領」があります。第四代社長によって1930年代に記されたものですが、今なお、有効な内容で現在も引き継がれています。
▪「立業貿易(グローバルな視野):全世界的、宇宙的視野に立脚した事業展開を図る。」
▪「処事光明(フェアプレイ、コンプライアンス):公明正大で品格のある行動を旨とし、活動の公開性、透明性を堅持する。」
▪「所期奉公(社会への貢献を期する):事業を通じ、物心ともに豊かな社会の実現に努力すると同時にかけがえのない地球環境の維持にも貢献する。」
この綱領は、グループ各社が共有する企業姿勢で、時代を超えて継承されていくものです。大きく違反してしまうと、三菱グループから外されてしまっても仕方がないようです。
三菱グループの中核企業は、三菱金曜会という懇親会に参加しています。1954年に始まり、毎月第二金曜日に各社の会長社長がともに昼食をとりながら懇談しています。
トップレベルが懇親するだけでなく、実務レベルでも、必要なものはグループ内で調達する傾向があります。グループ各社の本社・支社は三菱地所系列の保有するビルにおかれている、三菱地所のビルのエレベーターやエスカレーターは三菱電機製のものといった形です。
福利厚生面でも、グループ社員が使える福利厚生施設を共有していたり、グループでスポーツ大会をしたりと交流が図られています。また、三菱広報委員会は1965年から、「マンスリーみつびし」という広報誌を発行しており、加盟各社の社員と家族のコミュニケーションを図っています。半世紀以上が経過し、現在は毎月40万部が発行されています。
三菱グループには数多くの企業があります。世界44カ国におよぶ海外企業も含めると、757社、日本国内だけでも348社を数える一大勢力です。売上高は、58兆円、これは世界各国の予算規模で10位前後のスペインやオーストラリアの国家予算に匹敵する額です。日本の国家予算の約4分の1、巨大なパワーを持つ企業グループです。個々のメンバー企業にはどういった企業があるでしょうか。
三菱グループの始まりは、海運と商事でした。草創期からある中核企業である三菱商事、海運関係から戦前は造船を基に発展した三菱重工、メガバンクトップの三菱東京UFJ銀行は、三菱グループ御三家といわれています。三菱重工から、三菱電機や三菱自動車といった企業が分離し大企業となっているように、金曜会や三菱広報委員会メンバーが中心になり、その関連企業で巨大グループを形成しています。水産・農林・工業、建設、食品、繊維…と28の業種にわたり、日本にあるほぼすべての業種を網羅しています。
三菱グループの中核企業を見てみましょう。
▪食料品
キリンホールディングス:1907年に三菱財閥傘下の「麒麟麦酒」として発足、傘下に協和発酵キリン株式会社、小岩井乳業株式会社等。
▪パルプ・紙・繊維
三菱製紙
三菱レイヨン
▪建設
ピーエス三菱
▪化学
三菱化学
三菱ガス化学
三菱樹脂
大日本塗料
▪ガラス・窯業
旭硝子
▪石油・原子力
JXホールディングス: 石油精製・販売大手の新日本石油株式会社(三菱系列)と新日鉱ホールディングス株式会社(日立・日産系)が、経営統合することを目的として共同で株式移転し設立された企業です。
▪鉄鋼・非鉄金属
三菱製鋼
三菱マテリアル
三菱アルミニウム
▪機械 ・輸送用・電気機械
三菱化工機
三菱重工業:三菱グループの中心企業、前身は「三菱造船」、当時から自動車生産に関わり、乗用車、バスを製造、1934年に三菱重工業に社名を変更しました。三菱自動車工業(1970年)、三菱電機は部門が分社化したものです。
三菱自動車工業:日産と統合されることが決まりました。統合後、金曜会にとどまるかどうかが注目されています。
三菱ふそうトラック・バス:ドイツのダイムラーグループの傘下にあり、海外での販売比率が高い会社です。2003年に三菱自動車工業から分離独立する形で設立されました。
三菱電機
▪精密機器
ニコン
三菱プレシジョン
▪卸売・小売
三菱商事:創生期からある基幹企業、三菱合資営業部が1918年に総合商社として独立し
三菱商事となりました。現在は日本の5大総合商社の中でもトップ企業となっています。
三菱食品
アストモスエネルギー :出光興産グループと三菱商事グループの液化石油ガス部門が統合して発足したLPガス商社
ローソン
▪金融
三菱東京UFJ銀行:2006年に東京三菱銀行、UFJ銀行(三和系列)が合併して設立されました。
三菱UFJ証券ホールディングス :モルガン・スタンレーの日本法人であるモルガン・スタンレー証券を統合し設立した、三菱UFJモルガン・スタンレー証券はこの傘下にあります。
三菱UFJ信託銀行
三菱UFJニコス三菱UFJリース
※合併企業であることから、三和グループのメンバーでもあります。また、この5尾者を中核として、総合金融グループである三菱UFJフィナンシャル・グループを形成しています。
三菱オートリース
▪保険
東京海上日動火災保険:日本最初の保険会社である東京海上保険(1879年設立)が三菱傘下で設立され、2004年に日動火災海上保険と合併して発足。芙蓉グループにも属しています。
明治安田生命保険:2004年に明治生命保険(三菱グループ)と安田生命保険(芙蓉グループ)が合併し設立されました。芙蓉グループにも属しています。
▪不動産・ホテル
三菱地所:総合デベロッパー、大手不動産会社。住宅事業の三菱地所レジデンス、設計事業の三菱地所設計等のグループ会社を有します。
ロイヤルパークホテル
▪運輸・倉庫
三菱倉庫
日本郵船 :三菱商事と並ぶ源流企業の一つです。日本一の海運会社です。
郵船ロジスティクス
三菱鉱石輸送
▪情報・通信
三菱総合研究所
三菱スペース・ソフトウエア
日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ
最近では「●●グループ」であれば、どこでもいい! と母体の企業に魅力を感じ、その関連会社、グループ会社を次々と受けていく学生さんも見受けられます。しかし一社一社を見ていくと、●●という看板はついているものの、業務内容は全く違う、ということがほとんどです。グループであることに魅力を持つだけに終わってしまい、企業研究を怠ってしまう学生もいます。特に三菱グループの場合、上記で確認いただいたように、非常に幅広い分野で企業が存在しています。1社1社が日本を代表する企業であり、三菱グループと知らなかった方もいるのではないでしょうか。まず大事なのは「1社1社の業務領域を確認すること」です。
また、親御さん、親せきが三菱グループで勤務されている場合、グループ内の関係性が強いことに魅力を感じ、自分も親と同じように三菱グループの一員となりたい! と思う方もいるかもしれません。きっかけとしては問題ありませんが、当然のことながらそれだけが志望動機では、選考を通過するのは難しくなります。
しかし三菱グループの理念(三綱領)を知り、グループの使命を認識しておくことは重要です。三菱グループの場合は先に説明したように「グローバルな視野」「フェアプレイ、コンプライアンス」「社会貢献」が企業姿勢となっていました。つまり三菱グループの所属する各社はそれぞれこの3点を念頭に置いて、事業展開をしているわけです。例えば、「入社してやってみたいことは何か」などを聞かれた際に「国内にとどまる事業」や「社会的に問題視されるような事業」を伝えてしまった場合、理念とずれが生じてしまい、「うちの会社・グループには合わない感覚を持っているな」と思われてしまいます。感覚が合わないことは企業に取っても、入社した後みなさんにとっても良いことではありません。その点を避けるためにも事前にOBOGや社員と会って、グループの雰囲気や会社の雰囲気を知り、自分に合っているのかを知っておくとよいでしょう。