今回からエントリーシート改造講座を開始します。
エントリーシートや履歴書は大手企業のインターンシップ、あるいは、本採用での選考書類として必ずついて回ります。
志望動機や自己PR、「学生時代に力を入れたこと」(略してガクチカ)など、何を書いていいかわからない、とする学生は例年、多数います。
そこで、変わったアルバイトだと有利、いや、体育会系なら連戦連勝、多少でも盛ればいい、などの噂がこれも例年、横行します。
長年、就活を取材、かつ、学生のエントリーシートを添削してきた経験から、学生の悩みを一気に解決していきましょう。
1回目の今回は「ありきたりなアルバイト」。
今回の参加者
▽大原一郎さん(関西大学)
※名前は仮名です
大原さん:インターンシップでエントリーシートを提出しなければならないのですが、本当に何を書いていいか、わからなくて。
石渡:そりゃあ、君の話を書くしかないんじゃない?
大原さん:でも、僕、普通のアルバイトしかしていなくて。書くネタがないのですが、どうすればいいでしょうか。
石渡:普通のアルバイト、書くネタがない。なるほどね。今の時点で書いてみたもの、あったら見せてくれる?
大原さん:はい、これなんですがうまく書けていなくて。お題は「学生時代に頑張ったこと」です。
大原さん・作成:
大原さん:どうでしょうか?あんまり言いたいことが伝えられていないような…。
大原さん:やっぱり、変わったアルバイトの方がいいのでしょうか。それか、アルバイトの販売コンテストで優勝した、くらいの話を書くとか。
石渡:それは本当の話?
大原さん:いえ、そんなことは。
石渡:いわゆる「盛る」ってやつだね。
大原さん:はい。そうした方がいいような気がして。大学のゼミの先生にも相談したのですが、「アルバイトだのサークルだのをエントリーシートに書いたところで、採用担当者はうんざりしている。ありきたりな話を書いてもダメ」と言われました。
石渡:確かに学生がガクチカネタで書くとしたらアルバイトかサークル、ゼミくらいかな。アルバイトだと、就業数を考えればどう考えても君と同じコンビニか、ファーストフードチェーン、居酒屋が中心になるし。
大原さん:ありきたり、と言われるのはわかるのですが、それだと本当に書くネタがなくて。
石渡:ああ、それで400字以内なのに245字しか書けないんだ。
学生:はい…。
400字以内のところ、245字だから落ちる、ということはありません。ただ、せっかく自分をアピールする場なのですから、制限ぎりぎりか、もう少しは書きたいところです。目安は制限文字数の8割くらい。400字なら320字以上は頑張って書いてみてください。
石渡:逆にいくつか質問させて。コンビニとしか書いていないけど、どこのチェーンでどこの店?
学生:え?いや、普通のコンビニですよ。普通の店だし。
石渡:うん、普通じゃなくてさ、どこのチェーンでどこの店?それとも秘密にしておきたい?
学生:いや、そこまでではないです。▲チェーンの××駅前店です。
石渡:××駅だと■電鉄の郊外ターミナル駅だよね。結構、大きい駅でしょ。そこの▲チェーンだと、お客さんも多いんじゃないの?
学生:はい、県内では月商がベスト10に入るほどです。
石渡:だったら、ほかの店よりも忙しいでしょ?
学生:そうですね。他店から販売応援に入るアルバイト学生がいますが「こんな忙しい店でよく働けるね」と言われます。僕も別の住宅街の店に販売応援に行きましたが、仕事がなくて、暇でした。
石渡:エントリーシート添削に入る前に、私のことで気になったところ、質問してもらえるかな。
大原さん:えーと、じゃあ、石渡さんの仕事、ライターってどんな仕事ですか?
石渡:あ、普通に記事を書いたり、本を書いたりするだけ。
大原さん:え、ええと、じゃあ、仕事って大変ですか?
石渡:うん、まあ、普通かな。
大原さん:…。仕事を進めるうえで意識することは何ですか?
石渡:まあ、ほかの記者やライターと同じだよ、そこは普通かな。
大原さん:え、えーと、えーと…。
石渡:ここまでにしておこうか。私の受け答え、どう思った?正直に言ってくれていいよ。
大原さん:質問しろと振っておいて、全部、「普通」で返してきたのでコミュニケーションが取れないな、と思いました。
石渡:「コミュニケーションが取れない」、その通り。これは、私のことじゃない、大原さんや「エントリーシートで書くネタがない」と嘆く多くの学生に言えることだよ。
大原さん:えっ?
石渡:どのチェーンのどの店で働いているか聞いたら、最初、君は「普通」で済ませた。ところがよくよく聞いてみると「県内月商ベスト10」「忙しい」という情報があるわけでしょ。それをエントリーシートに書かないで「普通」とまとめているあたり、コミュニケーションを取る気がないとしか思えないけどね。
大原さん:あ…。
石渡:しかも、エントリーシートに君が書いた内容も、「普通」で済ます回答とほぼ同じだよ。たとえばね、コンビニの業務内容、長々と書いているけど、これ、当てはまらないコンビニバイトって存在するの?
大原さん:まずいないです…。
石渡:そうだよね。レジや発注、清掃などをするのがコンビニバイト、というのは日本人の大半が想像つくはず。それ、文字数制限がある中でわざわざ書く話ではないよ。「お客様を大切にする心」も同じ。コンビニチェーンで客を騙そうとするところってあるの?
大原さん:たぶん、ないはずです。
石渡:そうでしょ、すると、これもわざわざ書く話ではないね。すると、君が書いた内容は全部「普通ですよ」以外の何者でもない。本来なら自分をアピールしなければならないエントリーシートで「普通ですよ」一辺倒。矛盾していて、読みどころが何もない、ということになってしまうね。
君が書いた文は、文章力が低いとかネタが弱いとか、そこじゃないよ。わざわざ書かなくてもわかる話を延々と書いているから、つまらない、ありきたり、と言われるわけさ。
学生:……。
大原さん:えー、でも何を書けばいいのか、わからないです…。
石渡:いっぱいありそうだけどね。君のことをちょっと聞いていこうか。発注作業や商品のPOP作成、これは最初から任された?
大原さん:いえ、発注作業は新人には任されません。店のことをわかっていないし、売り上げを左右する作業ですから責任があります。僕は1年すぎたあたりから任されるようになりました。
石渡:発注量はオーナーや店長が決めるの?
大原さん:そういう場合もあります。オーナーや店長が「この週は▽という行事があるから」と言うイベント情報を持ってきて変えることもありますが、僕のようなアルバイトの意見・情報が左右することもあります。
石渡:たとえば?
大原さん:××駅近くの高校生もよく寄るのですが、彼らの会話を拾っていって発注量を変えています。修学旅行時期を教えてもらって、その時期は発注量を減らしてロスを抑えたこともありました。逆に高校の運動会や進学説明会に合わせて発注量を増やし、売り上げを伸ばしたこともあります。
石渡:それはすごいね。発注作業をしていると時給も違うの?
大原さん:はい、少し上がります。さらに僕はオーナーから「君はちゃんとお客さんとも会話して情報を拾ってくる。ロスを抑えて売り上げを伸ばしてくれるから、もう少し増やしておくね。頼りにしているよ」と言われました。実はPOP作成も評判いいんですよ。
石渡:ほう、たとえば。
大原さん:高校生がテスト時期のときは、ラムネやチョコなどを前に出して「テスト勉強の気分転換に」とPOPを作ります。話題となっているCMや時事ネタに合わせて作ることもあります。でも、特に役職とかついているわけではないし、大した話ではないですよね。
石渡:あのさあ、君、全然、「普通」じゃないよ。いい意味で。
大原さん:えっ?
石渡:発注作業とか、POP作成とか、いい話じゃない。なんで、それを書かないの?
大原さん:いやー、みんなやっていることかと思って。
石渡:気の利いたアルバイト学生ならそうかもね。ただ、アルバイトの業務内容を延々と書くのと、発注作業などを書くのと、どちらが君を表すだろうか。
大原さん:発注作業の方です。
石渡:でしょ?というわけで、こんな感じにしてみました。
石渡・改造例:
石渡:どう?
大原さん:えー、別人みたいです。
石渡:別人も何もないでしょう。大原さん、君の話ですよ。盛っているわけでも何でもない。君の話を5分聞いてそれをまとめただけだよ。
大原さん:あの、最後ですが、ちょっと文章が唐突に終わっているような。
石渡:ああ、君が書いてきたのだと、「このアルバイトで得たものはお客様を大切にする心です。この思いを貴社でも生かしたいと思いインターンシップに応募しました」というあたりね。
大原さん:はい、最後のオチというか、まとめというか。
石渡:あ、いらない。
大原さん:いらないですか!
石渡:君が言うのは、あれでしょ。文章の構成方法としておかしくないか、ということでしょ?
大原さん:はい。起承転結とか。
石渡:確かに私が本や記事を書くときは、文章の構成方法はこだわるところ。君が大学のレポートなどを書くときも、そこ、気にするでしょ。
大原さん:はい。
石渡:エントリーシートだと、多少、無視してもいいんだよ。
大原:ずっと何を書けばいいかわからなかったのですが、これで方向性が見えてきました。最後に、自己PRや志望動機も含めて、自分の書くべきネタ、迷ったらどうすればいいでしょうか。
石渡:他人に聞いてもらうのが一番かな。大学のキャリアセンター職員、友達、あるいは親でもいい。このJOBRASSセミナーにいるカウンセラーや採用担当者などでもいい。君の話を5分、10分聞いてくれる人を捕まえて話してみると、自分では気づかない点などが見えてくるよ。
大原:試してみます。ありがとうございました!
<お知らせ>
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【講演情報】
「エントリーシート改造講座」「勝手にランキング」の石渡に文句を言いたい方、講演を聞きたい方、エントリーシート添削を依頼したい方などは、以下の講演にご参加ください。
7月19日(水)18時~20時30分・8月18日(金)13時~15時30分 【アイデム西日本(大阪・本町)】2019年・2020年・2021年卒対象「大学1・2・3年生が就活を前に考えたい大学生活」
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8月2日(水)13時~18時 【アイデム西日本(大阪・本町)】2019年・2020年・2021年卒対象「お菓子な就活、おいしい就活イベント+石渡講演」(食品業界各社が集結しての企業研究イベントと石渡講演)
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9月上旬~中旬予定【アイデム西日本(大阪・本町)】
「世界一・日本一・関西一企業が大集結イベント」(仮称)実施予定
石渡嶺司(いしわたり れいじ)
大学ジャーナリスト
1975年生まれ。北海道札幌市出身。1999年東洋大学社会学部卒業後、日用雑貨の実演販売、編集プロダクション勤務などを経て2003年から現職。大学・就活関連の取材、執筆活動を続ける。当初から「大学勤務も採用担当者経験もないくせに」と批判されているが、14年経った現在も仕事が減りそうにない変わり種。
3月からJOBRASSマガジンの他、日本経済新聞サイト(日経カレッジカフェ)でも連載開始。
著書『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書) 、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)、『就活のコノヤロー』(光文社新書)、『教員採用のカラクリ』(共著、中公新書ラクレ)など多数。