Q「面接で、“つまんないヤツ”と思われるのがこわいです。自分は、そんなにアクも強くないし平々凡々です。こんな自分でも面接官のお眼鏡にかないますでしょうか?」
あまり自分のことを「つまんない」と規定しない方がいいですよ。「面白い」「つまらない」「平凡」「変わっている」のような、人間の特徴を表す言葉は、基本的に他人からの評価を元に表現されるべきものであり、自分が断定すべきものではない。本当はつまらない人間ではないにもかかわらず、自らを「つまんないヤツ」と規定してしまうと本当に「つまんないヤツ」になってしまうかもしれません。
ところで、あなたには「つまんない」仲の良い友人はいらっしゃいますか?
多分いないのではないかと思います。「つまんない友人」というものは存在し得ないのです。理由は、その人と一緒にいても得るものがなく、まったく良い時間が過ごせないのであれば、それは「友人」ではない。しかし、何度も会うような友人は「おもしろい人」であり、そう考えると「仲の良い友人=面白い人」ということになります。
その一方、あなたが繁華街を歩いている時、暗い顔をしながら一人居酒屋に入っていく中年サラリーマンを見たとしましょう。「つまらなそうなヤツだな」と思うかもしれませんが、その人にだって家族や友人はいる。家族や友人にとっては「面白いヤツ」なんですよ。つまり、これで「面白い」「つまらない」の輪郭が見えてきたかもしれませんが、「その人のことをよく知っている」か否かが大前提としてあり、それがないと「面白い」も「つまらない」も判断できないのです。
面接というものは、まさにその判断をする場所であります。ですから、極力面接の席では、「欲しくなる人材」であるかをアピールしてみてください。自分のことを「つまんないヤツ」なんて言っていると、そのアピール力が鈍りますよ。
どうもあなたは「破天荒な人生を送ってる人」とか「お笑いのセンスがある人」とかを「つまらなくないヤツ」だと思っているのではないでしょうか。私は大学時代、登山のサークルとプロレスのサークルに入っていました。もうこの時点でわかるかと思いますが、プロレスサークルの方は世間からすると「おもしろい人」がたくさん集っているように思えるでしょう。はい。面白い人だらけです。何しろ自分でリングを組み立て、プロレスをやってしまうわけですよ。さらに、年間で1人か2人しか入らない弱小サークルだったため、学内での地位向上のために目立つことをやり続けなくてはいけない。たとえば「調印式」と題して生協前の広場で昼休みに突然乱闘をする、といったことです。
◆面白いとは思われない「一郎」君の持つ面白さ
これは世間的にわかりやすい「面白さ」です。プロレスサークルに対し、登山サークルの方は真面目な人が多く、分かりやすい「面白さ」はない。ただ、個別の人々は皆面白い人ばかりでした。「お前は本当にしゃべらないヤツだな」と新歓コンパで言われていた新入生のタケシ君が、酔っぱらうと突然先輩に「おめぇ、うるせぇんだよ!」とか怒鳴りだし、グースカ寝てしまった。その時「こいつ、おもしろいじゃんww」と私は思いましたが、その後彼はこの暴言を一度も吐くことなく、常にあまりしゃべらず、楽しいのか楽しくないんだかわからない姿を見せ続け、いつしか卒業していきました。
私は彼に勝手に「一郎」というあだ名をつけ、他のメンバーも皆彼のことを「一郎」と言い続けました。本当は「タケシ」なのに「一郎」と呼ばれ、毎年新入生が入ってくる度に「なんで『一郎』なんですか?」と言われる。しかし彼は「一郎」であることを受け入れたのです。そんなこともあり、私は彼のことを「面白い人」だと思い、今でも時々彼の家に行っています。彼は「僕、暴言吐きましたっけ?」なんて言ってますが「吐いたよ、バカ!」と答えます。
彼は県庁で働いているのですが、保健所が検査したところ、某ハムメーカーの作ったハムからO-157が検出されたとし、県庁は回収を発表。しかし、検査結果に誤認があったということで、県庁は謝罪。その後、県庁の食堂ではハムを使った料理だらけになり、職員に対しては、お中元でそのメーカーのハムを送るよう指示があったといいます。
この時彼は「県庁がやらかしてしまいまして……。中川さん、ハム買いませんか?」と言ってきました。事情を聞いたら「毎日食堂ではハムカツとハムサラダとハムエッグを食べてます」なんて言います。もちろん他のメニューもあるのですが、彼はメーカーに迷惑をかけたとし(彼が検査したわけじゃないですよ)、必死にハムを職場でも、自宅でも食べ続けたのでした。
このエピソードだけ聞くと「面白い」とは思いませんか? 彼は「クソ真面目かつ誠実な面白さ」があるわけです。分かりやすい面白さではなく、そういった面白さを見つけてみてはいかがでしょうか。きっとあるはずです。
中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社)など。