毎年200名以上の大学生を大手企業・人気ベンチャー企業に複数内定させているキャリアコンサルタント井上真里さんから、お祈りメールに返信が必要なのかどうか、一度落ちた企業に再チャレンジはできるのかを解説していただきます。
「メールは自分で終わらせるように、と学校で教えられたのですが」という質問が、この2年ほどで増えてきました。あなたもそう教えられているでしょうか。目的は、企業の採用担当や先輩社員からのメールには必ず返事をするということなのですが、このルールによると、相手から返信が返ってこなくなるまで自分からはメールのラリーをやめられないということになります。
たとえば、これならいいですよね。
企業「10日14時にお待ちしています。」
学生「承知しました。当日はよろしくお願いします。」
ただ、こんな時はどうでしょうか。
OB「では、10日14時でよろしいでしょうか。」
学生「承知しました。当日はよろしくお願いします。」
OB「よろしくお願いします。」
学生「……(返信が必要?)」
この会話では、相手側の返信で会話が完結しているので特に返信は不要でしょう。必ず自分のメールで返すことにこだわるのではなく、やりとりの内容で判断するほうが自然です。
そして、今回のテーマである選考不合格通知のメール、通称:お祈りメールはどうなのでしょうか。
企業「貴殿の今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます。」
学生「……(返信が必要?)」
メールを読んだまま放置する習慣より、いつもメールを確認したら反応しないと気持ち悪いという習慣はいいと思います。しかし、どこまで私たちはメールを返し続けなくてはいけないのでしょうか。
ましてや、お祈りメールにさえも試合終了後に笑顔でお互いをたたえ合うスポーツ選手のように、爽やかで気の利いた返信メールをしなければならないのでしょうか?
私は過去2社で人事を経験し、今でも企業の採用コンサルタントとして就職活動に関わっています。採用する側としての意見では、お祈りメールに返信は不要です。そこで返信がなくても失礼だなと思う人はいません。
そもそも、エントリーシートや一次選考など応募者が比較的多い段階の選考では企業は一斉に該当者にメールを配信できるシステムを利用していることもあり、ひとりひとりにあてて個別にメールを送信しているわけではありません。かなり機械的であるということです。そのような事情から、あなたがお祈りメールへの返信に対して痛んだ心で頭を悩ませる必要もないでしょう。
ただ、もちろんお祈りメールとひとくくりにできないこともあります。応募した企業の規模や、選考の段階によっては、お祈りメールの送信元をあなたも既によく知っていて思い入れがあり、あなた個人に対して文面を考えて書かれたメールだと感じられる場合もあるでしょう。その時は、自然とあなたも、返信したくなるのではないでしょうか。悔しいという思いは残るものの、企業に出会えたご縁と選考で話せたことへの感謝などを伝えたくなりませんか?
つまり、定型的なお祈りメールには返信は不要です。失礼にもあたらないので心配する必要はありません。ただ例外的に、メールをくれた相手や内容によって自分が返信したくなるメールがあれば、自分の気持ちや感謝を素直に伝えることがあってもいいじゃないか、ということです。
ここで、お祈りメールが来たときに、企業に不採用の理由を聞いてもいいのか? という質問についても話をしておきましょう。新卒紹介エージェントや企業側から不合格連絡と合わせて教えてくれる場合を除き、自分から聞いても回答は期待できません。
企業の選考では、不合格者に対して個別の理由をはっきり記録しておく必要がないので情報はあいまいなこともよくあります。また企業の採用担当は、企業に合う人を採用するのが仕事で、不合格理由を応募者に伝える義務はありません。そこで不合格の理由を伝えて誤解をうけたり議論になったりするリスクを考えても、明確な答えを避ける傾向があります。
自分がデートをして、なんかこの相手は違うなと思ったときに、相手から「僕のどこがだめだったのかをハッキリと教えてくれ!」と言われたとして、あなたはどう思うでしょうか。あくまで自分の好みの問題だから、あまり気にしてほしくないなとか、なにかひとつ決定的なことがあるわけじゃなくて全体的なところだから説明が難しいし誤解されたくないなあなどと感じる人もいるのではないでしょうか。白黒はっきりさせたい人もいるかもしれませんが、人と人とのマッチングは、受験のペーパーテストと違って論理的に説明したり点数化したりできないことのほうが多いものです。それと同じと考えてみてはどうでしょうか。
お祈りメールに返信は不要という話をしましたが、中には、お祈りメールをもらったけれども納得できないくらいどうしてもこの会社に行きたい! 寝ても覚めてもその企業で働く自分の姿しかイメージできない! という人もいるかもしれません。これも年に1、2名ですが受ける相談です。あなたはどう考えますか?
大手新聞社などは春採用がダメでも秋採用に応募可能など、はっきりと再挑戦の道を設けているところもありますよね。マスコミで就職浪人する人は今も珍しくありません。力不足を痛感したので1年間で留学やインターン経験を経て語学力も人間性も鍛えなおして、翌年にその企業を受けるという人もいます。(結果的に志向が変わってほかの会社を志望するようになる人もいますが)新卒で不合格だった会社に3年後、中途として再度チャレンジし、高い評価で転職したという人もいます。図のように、時期を変えて成長した自分で行きたかった企業に再挑戦するチャンスはそれなりにあります。
その反面、同じ就職活動の時期に再チャレンジできる企業は多くはありません。特に応募者が殺到するような大企業では、1人1人から再チャレンジの要望を聞いていたらキリがありません。選考を重ねて判断してきた結果が覆るようなことは基本的にはないでしょう。
ただし、例外的に諦めない姿勢や挑戦心をかってくれるような数十名の企業では、最終面接など選考の終盤まで進んだ応募者のリクエストを受け入れて再度面接の機会をとってもらえたという例があります。このように規模が小さいと柔軟に対応できる企業もあります。その再チャレンジを経て内定し、今でもその企業の中核として活躍している人も知っています。
このように、選考にもう一度参加したいというリクエストは、なぜ再チャレンジをしたいのか、どのようなところを変えて臨むのかという意思を採用担当者に伝えましょう。それを許可するかどうかは、企業の判断になります。そこまで例外的に選考の対応をしてもらうわけですから、内定をもらったらその企業で働くと決断できる状態で再挑戦しましょう。一度不合格だった状態から逆転する場面で「内定が出たら○社と迷っています……」と言っていたら結果は出ませんので、腹をくくることです。
就職活動は、想定外のことが起こります。人事から評価されていて何度も企業に足を運び、すっかりそこで働く未来をイメージしていた企業からお祈りメールがくるとか、気持ちのやり場がない体験をした人もいるでしょう。いろいろ納得できないことも受け入れながら、苦い経験もいい思い出と笑える日が来る日を信じて前を向いていきましょう。
井上 真里(いのうえ まり)
キャリアアドバイザー。石川県金沢市生まれ。慶応義塾大学経済学部在学中より、人材教育企業にて学生キャリア支援のサポートに関わり、卒業後は東証一部上場の富裕層向け住宅メーカー・IT企業にて中途・新卒社員採用をはじめ、教育研修、異動や退職など学生のキャリア選択から、社会人のキャリアに関する領域を幅広く経験。新入社員マナー研修講師としても高い支持を受ける。現在は全国の高校生や大学生を対象に面接トレーニング、キャリア、マナー分野でのマンツーマン指導やセミナーを多数開催。毎年マンツーマン指導や勉強会に参加した200名以上の大学生が、大手企業・人気ベンチャー企業に複数内定している。