まずはアメリカの作家、アンブローズ・ビアスの名言を。
「礼儀-文句なく是認される偽善」
なるほど、確かに誰もが異論のないところ。就活ではどの学生も礼儀・マナーを大事にしようとします。
ところが、この礼儀・マナーを勘違いしている学生もまた多くいます。
今回は学生が勘違いしやすい礼儀・マナーを勝手にランキングしました。
今回は数が多いのでメール編、選考書類編、セミナー・面接編の3編に分けました。
例によってと言いますか、このランキング、私、石渡が勝手にランク付けしているだけで、JOBRASS編集部は関与するものではありません。
3位:一斉送信メールへの返信
「メールへの返信を丁寧にしようとするのはいいのですが」
とは、ある流通系企業の採用担当者氏。
「セミナー告知など一斉送信メールにも、ご丁寧に返信してくれる学生がいます。末尾に『これは一斉送信メールです。ご質問ある方は~』と別のメールアドレスを記載しているのに気づいていない。しかも夜中に送信してきます。返信するわけがないのに」
すぐに返信をする、即レスは悪くはないのですが、これはちょっと空回りしてしまったようですね。
2位:メールアドレスが怪しい
こちらは、私もかなりの頻度で遭遇します。個人メールだと、友人や家族への送受信を想定している、つまり、身内受けを狙ってか、傍目には痛々しいものが多いです。恋人の名前を付けているくらいならまだいいですが、わざと品のないキーワードを使うとか。
怪しいアドレスを使ったから落ちる、とまでは言いません。が、採用担当者からすれば、選考に関連した問い合わせなどでこのメールアドレスか、とちょっと考え込んでしまいます。
大学が学生に割り振るアドレスか、そうでなければ当たり障りのないアドレスにしておく方が無難です。
1位:硬すぎるか、くだけすぎかどちらか
就活マナー集などで、企業への問い合わせ、という項目に書いてあるせいか、極端に硬いメールが学生から送られてきます。
「拝啓、山の木々も紅葉する今日この頃~」
そこまで硬くする?
末尾には、
「末筆ながら、~様のご健勝をお祈り申し上げます」
ある採用単容赦担当者は、同じ学生からこの「ご健勝」メールを連続で受け取り、
「これが、逆お祈りメールか」
と、いぶかったそうです。
そうかと思えば、極端にくだけた内容になるのも、今年の学生の特徴です。携帯電話メール・LINEのノリなのか、名前なども特になく、
「明日ですが行けなくなりました。すんません」
いや、それを言うなら「すみません」だろう。そもそも、お前は誰だ?
まず名乗ろうよ。
件名が空欄、という学生も結構います。これも携帯電話メールの影響でしょう。
PCメールは形態としては、会話とビジネス文書の中間に位置します。なお、携帯電話メールやSNSはどちらかと言えば、会話寄り。硬すぎず、柔らかすぎず、いい塩梅でまとめてみてください。
なお、メールのマナーについては、JOBRASSマガジンでは
「お世話になっております」は必要?不要?採用担当者の意見は【メールマナーの常識・非常識vol.1】」
「人事が嫌う! 「対応に困る」メール例を聞いてみた【メールマナーの常識・非常識vol.2】」も参考になります。
3位:「御社・貴社・御行・貴行」などの誤字脱字
誤字脱字は文章を書く以上は避けて通れません。文章を書くことで生計を立てている私でも間違えることはいくらでもあります。
だから学生も誤まってしまうのは致し方ないところ。
ただ、それにしても目立つのが「御社・貴社」「御行・貴行」の間違い。文書だと「貴」。会話だと「御」。民間企業だと「御社・貴社」、銀行だと「御行・貴行」が基本。スルガ銀行などトップが頭取ではなく社長と呼称する銀行だと「御社・貴社」でもいいかもしれませんが、それは少数の例外です。ちなみに、企業・銀行に属する人が所属先を呼ぶときは「弊社・弊行」。
この「御社・貴社」ごちゃ混ぜにしている学生が結構目立ちます。
かつて就職氷河期だった1990年代後半から2000年代前半、2009年~2012年ごろでは、「少しの書き間違いでもあれば落ちる」「修正液・修正ペンで直した跡があればもうアウト」などと言われていました。
売り手市場の現在では「いや、もう、御社・貴社の間違いはよくあるのでそこは目をつむるようにしています」とする企業が多数。
ただ、ちゃんと書ける学生はちゃんと書いています。できれば間違いは避けた方が無難です。
2位:余計な書類を入れる
余計な書類とは「添え状」、それから企業研究レポートなど企業側が指定していない書類です。まれに「どうしても入社したいのです!」と熱い思いをつづった手紙を同封する学生もいますが、これもアウト。
添え状とは送付状、カバーレターなどとも呼びます。
選考書類を送りました、読んでくださいね、という手紙の一種です。この添え状、中途採用では同封するのがビジネスマナーとされています。即戦力を新卒に期待する中小企業の一部でも、添え状があれば「この学生はマナーをちゃんと知っている」と評価が高くなることもなくはありません。
が、大半の企業では「あってもなくてもどちらでもいい」「添え状が同封されていてもそれで評価ポイントを上げる、ということはない」としています。
中には、「添え状を書く手間を考えれば学生がかわいそう」「お互いに手間が増えるだけだし不要」。さらには、「そういう小細工に出ること自体、自信がないことのあらわれ」とする企業も。
企業レポートや入社意欲をつづった手紙となると、さらに企業側は辛辣です。
「エントリーシートであれこれ聞いているのに、指定していない書類を送るのはマナー違反」
「企業レポートや手紙を認めると、翌年から『あの企業はエントリーシートの他に企業レポートを送ると通った』と噂になる。それくらいなら落とした方がいい」
ある食品メーカーでは、採用サイトに出ている先輩社会人10人全員に対しての手紙を同封した学生がいました。
「さすがに落とすのがしのびなく、次の選考に進めました。が、確か面接のどこかのタイミングで落ちたと思います。余計なところに力を注ぎすぎて、こちらが求める人材像とはかけ離れすぎていました」
別の流通企業では企業研究レポートをまとめた学生を採用したことがある、と話します。
「学生なりに弊社のことを知ろうとしてくれた、それはそれで評価できます。ただ、タイミングですね、問題は。エントリーシートの段階では、どんな学生かよくわかっていない、つまり弊社と学生の間に信頼関係ができていません。そのタイミングで送られても、『え?なんで?』となって落とすしかない。しかし、選考が進んでいく中で信頼関係ができてくると話は別。最終選考の後のフィードバック面談で企業研究ノートをまとめた学生がいました。面接の評価は低かったのですが、この企業研究ノートを役員に見せたところ、評価が上がり内定を出しました」
選考書類を送る段階では、企業が指定した内容に全力を注いだ方が良さそうです。
1位:締め切りを無視
採用担当者に話を聞くと、多かったのが締め切り破りです。
私も連載記事など締め切りを破ることがそれなりにあり、耳が痛いのですが、
「必着の日時を指定しているのに、翌日以降も届く」
「当日、直接持参した学生がいた」
「バイク便で送ってきた」
など、各社それぞれエピソードがあるようです。
締め切り以降も受け付けるかどうかは各社バラバラで、
「問答無用で捨てる」
「当日、持参させてほしい、と言われたら受け付ける」
など分かれました。
ただし、です。
受け付ける、とした企業でも、
「一応、見て良ければ次の選考に進めます。が、結果的に内定まで至った学生はいません。締め切りを守らなかったこと自体は大幅なマイナスでないにしても、どうしても他の部分でもツメの甘さが出ているのです。締め切りはちゃんと守った方がいいですね」
とのこと。
エントリーシートなど選考書類はどうしても急いで書いてしまいます。コツをお伝えすると、一度書き上げたら、すぐ読み返さないことです。できれば一晩空けるのが理想。
どうしても忙しいようなら、数時間、それも厳しいなら15分、無関係なことをしてみてください。お風呂に入るとか、漫画を読むとか、面白動画をYoutubeで検索するとか。
書き上げた直後に読み返しても、テンションが上がっている分、誤字などミスにきづきにくいものです。その点、時間を空ければ、冷静になっているので、それだけミスを見つけやすくなります。
なお、JOBRASSマガジンでは、選考書類について、
「必見! 面接官が明かす履歴書・ESのNGワード」などの記事もあります。
3位:ペットボトル
説明会やセミナーで机の上にペットボトルを何気なく置く学生がいます。おそらくは、大学の講義の延長の感覚なのでしょう。
採用担当者が「暑いのでお茶を飲みながら気軽にきいてください」と促していない限り、ペットボトルはしまう、そもそもコーヒーなどは持ち込まない、というのがマナーです。
中には、社長が話しているときに、ペットボトルのお茶を飲む猛者がいた、と話してくれた採用担当者がいました。
「あのときは、さすがに社長から『いまどきの学生はマナーを知らない』と愚痴られました」
たかがペットボトルではありますが、見ている人は見ているのです。
2位:入室ノックを気にしすぎ(2回か3回か)
2回だとトイレノックと言われています。確かに欧米ではその通り。ついでながら3回だと友人・知人に対して、4回がビジネスマナーとする本やサイトもあります。
が、それはあくまでも欧米の話。日本ではそもそもドア自体がなく、ノックの回数によって差をつける、という発想すら希薄です。
採用担当者に話を聞いても、2回か3回か、気にしない方がほとんど。
中には、
「叩きたいだけ叩いてください」
と話す方もいましたし、さらには、
「仮にノックではなく、後ろ蹴りで入ったとしても、弊社にとって必要な人材と判断すれば内定を出します」
と話す方もいました。
ま、これはさすがに冗談でしょうが、回数はそこまでこだわる必要はないようです。
1位:面接会場と外とで表情・話し方が豹変
面接会場では、マナーも受け答えもばっちり。
ところが、一歩、外に出た瞬間、豹変して途端にマナー知らずの学生になってしまう方がいます。
「会社のロビーで『面接、最悪だった~』と話す学生がいました」
「役員や年配の男性社員にはしっかり挨拶するのに、女性社員には顔すら合わさない男子学生がときどきいます。見た目・性別で差をつけるのか、と思うと、がっかりしてしまいますね」
「面接会場の待合室に指定した会議室で、小学校時代の友達に再会した、と大騒ぎする女子学生がいました。嬉しかったかもしれませんが、もう少し、場をわきまえてほしかったです」
採用担当者やその企業の社員が見ているのは社内だけではありません。
「会社の近くにあるカフェで食器の下げ方、ゴミの出し方がダメな学生ほど、なぜか、その後の面接でよく遭遇します」
「最寄り駅で、禁煙指定ゾーンで煙草を吸っていた学生を見かけると、がっかりしてしまいます」
「遅刻しそうだったのか、鞄を通行人にぶつけながら走ってきた学生がいました。こういう学生ほど、なぜか、うちの取引先相手にぶつかっています。『オタク、大変だねえ』とイヤミを言われた、と、担当部署経由で報告が上がります。評価?そりゃあ、落とします」
採用担当者が見ていなくても、見ている人は見ています(2回目)。
小学校時代、遠足ではよく「家に帰るまでが遠足です」と先生から言われたものです。同じことが就活にも言えるでしょう。「家に変えるまでが就活の選考です」。
そもそもマナー・礼儀とは、人間そのものに備わっているものであり、普段から心がけているべきものです。
採用担当者なり役員なりが見ている場だけ、きちんとしていればいいものではありません。
最後に、かつて5000円札の肖像に使われていた農学者・教育学者の新渡戸稲造のこんな名言をご紹介して、このコラムを終えたいと思います。
「信実と誠実となくしては、礼儀は茶番であり芝居である」(新渡戸稲造)
【講演情報】
「勝手にランキング」の石渡に文句を言いたい方、講演を聞きたい方、エントリーシート添削を依頼したい方などは、以下の講演にご参加ください。
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石渡嶺司(いしわたり れいじ)
大学ジャーナリスト
1975年生まれ。北海道札幌市出身。1999年東洋大学社会学部卒業後、日用雑貨の実演販売、編集プロダクション勤務などを経て2003年から現職。大学・就活関連の取材、執筆活動を続ける。当初から「大学勤務も採用担当者経験もないくせに」と批判されているが、14年経った現在も仕事が減りそうにない変わり種。
著書『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書) 、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)、『就活のコノヤロー』(光文社新書)、『教員採用のカラクリ』(共著、中公新書ラクレ)など多数。