今や転職を繰り返す人は珍しくありません。そういった人たちのことを「ジョブホッパー」ともいい、ある就職コンサルタントは「1回転職する人は、2回、3回と繰り返す傾向にある」と指摘します。
ほとんどの人が、就職するときは、「この会社で頑張ろう!」と思っているハズ。なのに、なぜ転職したくなるのでしょうか? 今回JOBRASS編集部では、これまでに転職を10回したという36歳の女性・久保田さん(仮名)に話を聞くことができました。
久保田さんは、最初写真プリント関係の会社に就職。4年ほど働きましたが、時代の流れとともに転職を考え始めます。似たような業界の会社を1年~2年で転々とした後、グラフィックの勉強をし、デザイナーとしてあちこちで働くようになります。でも、どこの会社でも続いたのは1年ほど。その理由は何だったのでしょうか。
写真が好きだったので、最初の就職は、プリント会社でした。夢としては撮るほうをやりたかったんですけど、スタジオにアルバイトに行ったら、翌日発熱するっていう体力のなさで……。カメラマンって、体力が絶対的に必要なので、私には撮るのは向いてないかもと思って。
そこで4年くらい、写真の現像とプリントをしていました。やめようと思ったのは、時代的にデジタルへの過渡期で、同業他社がどんどん潰れていき始めたときです。一緒に働いていた方がネガティブな発言ばかりだったのもあって、そういうのを聞いていたら、自分もこの会社にいていいのかと思うようになって……。どうせだったら違う世界をみてみようと思って。転職を考え始めました。
写真にかかわりたいという思いは変わりませんでしたが、今度はお客さんと接する仕事をしようと思って、あるカメラメーカーのギャラリーに就職しました。商品説明とか修理受付とかをしていたのですが、2年くらいすると、やっぱりプリントをやりたいと思うようになって。写真は写真でも、色を出して、一枚の写真を作り上げていく作業が好きなことに改めて気づきました。
手焼きで、少しずつ修正しながら写真を作り上げるということをしたかったので、最初の会社よりも、より専門的な会社に転職したんですけど、入ったら全然作業ができなくて受付業務がくらい続きました。実はその会社は、ずっと専門でプリントをする女性がいなかったんです。プロのカメラマンさんとやりとりをしながら一枚の会社を作り上げるという女性の技術者がいなくて。さらに、「若いから」っていう理由でもやらせてもらえませんでした。前例がないとかなんとか……。
それで、約束が違うと思って、また転職。もう本当に時代、写真は銀塩とデジタルの移行時期で、また会社がどんどん潰れていっていたんです。それで、いくらやっても就職が決まらずに、同じような業種は諦め、転々と派遣でデータ入力などをしながら、フォトショップの勉強をし、今度はグラフィックデザイナーとして就職しました。
最初はアシスタント、一年でデザイナーになりました。簡単なものでは名刺、会社のロゴ、それからPOPや冊子、カタログ、パッケージデザインとかをしていました。仕事は楽しかったんですけど、入った会社が印刷会社のデザイン部だったんです。結局くる仕事の最終的な成果物が紙のもので、そうすると、また時代の波。ネット、スマホの普及で紙が売れない時代が加速するなか、どこどこの会社が潰れたっていうような話をガンガン耳にするようになりました。「あ、この話知ってる……」って。私はずっとこういう潰れた話ばっかりかぁ、と思ったらほとほと嫌になって、こっそりHTMLの勉強をして、また派遣で自分に合いそうな会社を探す日々でした。
次の会社では最初ウェブデザイナーとして働いてたんですけど、私が入る前、大量に派遣切りをしていて、逆に切り過ぎてまた雇っていたというタイミングだったんです。それで人手が全然足りなくて、ウェブデザイン以外に、ちょっとした文章の編集もやってっていわれて、やるようになりました。
そのうち、働いていた会社の経営上の都合で、派遣はいったん契約終了になりました。今でもその業界でがんばっている子もいるけど、私は、もう「苦しいな」と思いながら働き続けることができなかったんです。写真も紙も、どんどん時代が変わっていくのに、目上の人の思考は変わらないのが見ていられなくて……。自分はどうなるのだろう、という悲しみもあるし。
そのあと転職した会社ではプロモーションまわりの仕事をしました。今までやっていたような仕事に加えて広告周りの仕事をやらせてもらえるようになって、勉強になりました。でも、こんなことを言うと呆れられるかもしれませんが、一言で言うと飽きてしまったんです。結局、辞めました。人間関係的な環境もよくなかったし。次がSNSの会社で、誰もが憧れるような職場だったので、長く働くつもりだったんですが、1年しか続きませんでした。パワハラが激しかったんです。最後のほうは心臓がバクバクしたり、耳鳴りがするようになったりして、病院にもいきました。
最初の就職のときは、次の転職なんて考えていません。1回転職すると、新しい業界を知りたくなって、繰り返してしまうんです。で、知ったらなるほどって思って満足しちゃって、転職を考えるようになる…その繰り返しです。
20代の転職は、本当はどこかでガマンしていれば何らかのスキルを磨くこともできたと思うんですけど、好奇心とかのほうが勝っていて、次の業界へいけたんだと思います。すぐに転職、転職なったのは、業界とか、やってみたいことにはこだわったけど、雇用形態にこだわりはなかったからだと思います。
私が運が良かったなと思うのは、やりたいことがすぐ見つかったこと。興味があることじゃないと続けられない。このままだといけない、じゃあ次に自分のスキルとして何を身に着けたらいいかという情報収集は常にしていました。今は? プライベートを充実させ、一人暮らしを続けていきたいから、もうあんまり仕事は変えたくないですね。
久保田さんが転職を繰り返したのは、「企業の経営状況に振り回された」「やりたいことを突き詰めて考えていなかった」「就職するときに、雇用条件・業務内容をきちんと確認していなかった」「職場環境が悪かった」という4つの原因がありそう。
就職にあたり、長く働こうと思ったら、まず時代の流れを読み、企業の経営状況を調べるのは必須。並行して、自分がやりたいことと、それを実現できそうな会社をとことん突き詰めることです。
たとえば「マスコミで働きたい」と思っても、新聞社なのか出版社なのか、テレビ局なのかなどという業種の選択肢があります。さらに、例えば出版社に就職したとしても、やりたいことは「編集」なのに、経理部や人事部などに配属される可能性だってあるでしょう。
それでも業界として「マスコミ」に関わることができればよいのか、それともどうしても「編集」にこだわるのか。こだわるのであれば、もしかすると編集プロダクションのほうが、「やりたいこと」に近いかもしれません。ただ、企業の規模によっては経営状況が心配だったり、人が少ないゆえに、職場の人間関係に自分が合わなかったら辛くなる可能性が出てきます。
企業選びは、自分のやりたいこと、行きたいと思う企業の経営状況、職場環境、雇用条件をすべて俯瞰してみることが大切です。久保田さんは、「確かに、いつもどれか一つでしか見てこなかったかもしれません」と振り返り、
「経営状況や雇用条件をきちんと事前に把握したことはなかったし、パワハラの人も噂は聞いていたのに、自分だけは関係ないと思っていました。自分として前向きな転職ならいいと思いますが、いつも自分というよりも外の力に翻弄されるばっかりの転職は、疲れちゃいます。
これから就職する人には、“やりたいことができそうならいい”というフワッとした感じだけじゃなくて、その“やりたいこと”を、どういうところで、どのようにやりたいのか、を考え抜いてほしいです。そして、企業の人ときちんと話をして、すぐにではなくても、やりたいことができる土壌があるかどうかなどを知っておくのは大切です。あと、できればOB・OG訪問や職場見学など、職場のことがわかる情報収集はやったほうがいいです!」
と話してくれました。