就職活動が始まると、途端に大学生活が苦難に満ちたものになってしまう。そして、悩みだらけになってしまうのである。多くの学生は自己の無能さを嘆き、周囲が内定を取っている様を見ては劣等感にさいなまれてしまう。そんな状況をいかにして克服すればいいのか。
一つ提案したいのが「情報断ち」である。基本的に就職活動というものは、己の素を出し、それを評価する会社があれば内定を取れる活動である。そこにはあまり付け焼刃的なテクニックは通用しない。
しかしながら、就活に関する情報――特にネットに書かれている情報にはあくまでもその書き込み者にしか通用しないテクニックが書かれてあったり、挙句の果てにはライバルを一人でも落とそうとするインチキが書かれてあることさえある。
「ノックは2回」とか「出されたコーヒーは飲んではいけない」とかよく分からない小手先だけの論への回答が書かれている。しかし、面接する側からの視点でいえば、このくらいのことはどうでもいいと考えている。別にノックを3回しようが、いきなりコーヒーを飲み干そうが構わない。
しかしながら、「情弱」という言葉があるようにどうも就活生は「情報」を多数獲得することこそが内定への道だと考えている節がある。そんなことはまったくない。内定を取るにはむしろ余計な情報を手に入れない方がいい。それは特にネットに掲載された情報である。
今の時代、就活とネットは切っても切れない関係にある。となると、情報はネット頼りになるのだが、必然的に同じ情報を皆が見るようになる。面接の作法から、とある企業に関する情報、その会社でウケたエントリーシートの書き方など、一斉に同じ情報を獲得し、それをなぞった面接での受け答えをしてしまう。「これは役立つ」なんて評判になったサイトや金言はSNSでシェアされ、誰もがそのサイトや言葉を知ることになる。時々就活生の相談に乗るカリスマ社会人ブロガーみたいな人がいるが、その人の言っていることをそのままなぞってしまうのである。
そうなると、面接で学生が喋る話はいずれもどこかで聞いたような話になっている。面接官だって当然それらの情報は知っているだけに、その話をすると「こいつもネット野郎か…」とあきれ顔に。
そんな情報を知ってしまうとついつい安全パイに走り、その情報を言いたくなるだろうが、基本的に就職活動というものはあまりにも優秀過ぎる人間を除き、基本的には相対評価の世界である。
「どれだけマシな人か」の競争という側面もあるわけで、そんな中、ネット情報を言い続ける学生がいる中、別のことを言う学生がいるだけで相対評価では上の方に位置することとなる。
ネット以前の就職活動では学生間での情報戦というのはあまりなかった。情報戦の狙いは、あやふやな情報でライバルの数を少しでも減らすことにある。だからこそ、ネットのそんな情報戦に巻き込まれることなく、淡々とOB訪問をこなし、社会人から面接対策や仕事に対する心構えなどを聞いた方がいい。そこにはネットに書かれていない面接で使えるネタが必ず転がっているはずである。
ネットはあくまでもセミナーの日程確認や、スケジュール管理、企業との連絡程度にとどめ、面接テクニックやマナーについては知り合いから聞けばいい。それこそ、あなたの親でも構わない。
「お父さん、どうすればお父さんの会社受かると思う?」なんて聞き、それを自分が受けたい会社に当てはめればどうなるか? といったところまで二人で議論をすればいい。意外に身近なところにあなたのことを理解しつつ、面接対策まで伝授してくれる人がいるものである。
とにかく就活期間中、ネットと友達ほどアテにならないものはない。
中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社)など。