(※このコラムは、2015年4月24日に2016年卒学生対象メディアの就活NEWSにて公開されたものです。)
齢・41歳になった春の午後、私は缶ビールを飲みながら、ふと窓の外に目をやった。そこには忙しそうに歩く人々の姿があった。スーツ姿の人あり、宅配便のドライバーあり、マンションの管理人が掃除をしていたりする。その時私は彼らと同様に私も仕事をしていることに安堵のため息をついたのである。
大学を卒業してからの18年間、無職の期間はあったものの、基本的にはずっと仕事を続けており、収入は途絶えていない。この事実にも同時に感謝したくなった。と思っていたら突然の電話が、某ニュースサイト編集者・O氏から来た。
「中川さん! 仕事の依頼なんっスけど、『英語ができるとこんなにイイ思いができる』っていう広告企画、一緒にやりませんか!」
こう言われた私と彼は以下のように企画を詰めていく。
私:「いいね! よーし、どんな企画にすればいいのですか?」
O:「なんか、面白い企画にしたいっスよね! 中川さんがその企画に顔出しで登場するってのを一つの条件にしたいんっスけど!」
私:「じゃあさ、オレの知り合いのアメリカ人美人ギャル・エイミーとオレがさぁ、楽しそうに英語を喋ってるのを、英語がまったく喋れない童貞男が見て『グヌヌヌヌ』と臍をかむという企画はどう? そこでさぁ、様々な言い回しとかもエイミーから教えてもらうんだよ」
O:「いいッスねぇ! エイミーさんへの連絡、頼むっスよ! オレは童貞を1人用意しておきますんで! じゃあ、よろしくお願いします!」
私:「できるだけ情けないツラをした童貞がいいな。そこら辺の逸材をなんとしても見つけておいてくださいね」
その後、エイミーにも電話をする。
私:「Hey、ユー、英語を喋れると楽しいっていう企画に協力してもらえないかい? オレともう一人、英語が苦手なヤングマンと居酒屋で3人で語り合い、彼に発奮してもらうという企画だ」
エイミー:「ワオ、クールね。いいわよ。楽しいね。レッツ、ハングアウトトゥギャザー!」
あとは居酒屋の予約をし、無事企画は進行。私はこの企画により別の収入も確保され、生活がより安定化することを実感し、再び安堵のため息をつくのだった。もしもこの企画の内容が面白いモノになり、広告主も満足してくれるのであればさらなる仕事が貰えるんだな――そういった野望を抱きつつ静かなる闘争心をメラメラと燃やし、企画実施への準備を開始するのである。
そして、今晩は某広告代理店の若者2人とアルコールを飲む。彼らと会う前には、故郷を離れ、東京で仕事をしたいと考えるかつて私が雇っていたバイトのK君の人生相談を受ける。いずれも「何か一緒に仕事したいっスね!」という話になることだろう。こうして様々な場所からお声掛けをいただける理由はただ一つ。
仕事をしているから
である。41歳の男の場合、よっぽど資産家でもない限り、仕事をしていないと社会との接点は失われるし、世間様からのお声掛けはない。「オレ、毎日家でネットサーフィンするのが楽しいっス! カネ? パラサイトシングルしてるんで、問題ないっス! 親の年金があるので大丈夫っス!」みたいな人生を送っている場合、残念ながら評価はされにくいだろう。
結局人生でちやほやされたり、楽しい思いをするには「仕事」を続ける以外はない。もしかしたら一切の仕事をせず、ネットを見続ける人生が本当に楽しいのであったとしても、社会はそれを評価はしてくれない。社会からの評価がいらないのであれば、それはそれで構わないが、評価をされた方が生きていて張り合いはあるし、幸せな体験、おいしい体験はできることだろう。
その第一歩となるのがやはり「就職活動」ってヤツなのだ。オレ自身、就活って建前と嘘がまかり通ってしまうという虚しい側面もあると思っているし、誰もが希望する職種に行ければどれだけ良いことかと思っている。
だが、世の中のすべては「こういう風になっている」という諦観めいたものが常につきまとうものであり、就職活動では希望通りの会社に入れるわけでもないもの。入社できたとしてもその会社が劣悪な労働環境だったりすることもある。
私自身、「社会を変える」という大それた考えは一切持っておらず、「こういう風になっている」という社会のありようにいかに順応していくかを考えるタイプである。その与えられた条件の中でいかに「いい思い」をするかを考えて生きてきている。つい、世間を呪いたくなることもあるだろう。自分が認められないことへの苛立ちもあるかもしれない。だったら仕事を頑張るというのが一つの解決策となる。
残念ながらそれが社会のありようである。そんな社会を変えたいのであれば、遮二無二仕事に励むべきである。ネットを観続けることにより「キャー素敵!」と称賛される社会を作る側になるべく、その第一歩としての就職活動に励んでくださいね。
というか、まぁ、そんな難しい話でもなく、カネないと生活なりたたないんでみんな働け。頼むぞ、ということを回りくどく言っただけでした。就活、うまく乗り切ろうぜ!
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中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行い、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)や『内定童貞』(星海社)など。