ここ最近、LGBTという言葉がメディアなどで日常的に聞かれるようになってきました。LGBTとは、女性同性愛者(L:レズビアン)、男性同性愛者(G:ゲイ)、両性愛者(B:バイセクシュアル)、そして性同一性障害含む性別越境者など(T:トランスジェンダー)の頭文字をとったセクシュアルマイノリティー(性的少数者)の総称の一つ。日本では今年3月に渋谷区で「同性パートナーシップ条例」が成立して話題になったほか、海外でも6月にアメリカ全米で同性婚が合法化されるなど、時代の変化と共に世界中の人々の関心が高まっています。
(※こちらの記事は、2015年12月16日に公開したものを更新しています。)
ところで、このLGBTに該当する日本人がどのくらいいるかご存じですか? 今年4月に電通ダイバーシティ・ラボが全国6万9989人(20~59歳)を対象に実施した調査(*1)によると、日本でLGBTに該当する人は7.6%(=約13人に1人)ということが明らかになったのだそうです。その割合を考えると、身近な人の中に数人いても決して珍しくないはずなのですが、当事者にとってはまだまだオープンにしづらいのが現状のようです。実際、LGBTの人の中には、せっかく就職しても差別などの人間関係に悩み、転職を繰り返して生活が苦しくなってしまう人も少なくないようです。(*2)
しかし、それだけ多くの人材を失うことは、企業にとっても社会にとっても大きな損失。そこで近年、“ダイバーシティ”を推進して、多様な人材を積極的に活用しようと考える企業が増えてきました。性別・人種・年齢・文化・障害の有無・価値観などが異なる人が一緒に働くことにより、斬新なアイデアの発想や社会のニーズへの対応に生かし、企業の競争力を高めようという試みです。
そこで今回は、LGBTが直面する就活や職場での苦悩や、変わりつつある企業の取り組み、そしてこれからの未来について一緒に考えてみましょう。
LGBTと言っても実に様々な人がいますが、具体的に就活や職場でどのような苦悩があるのでしょうか。ここで改めて振り返ってみましょう。
・履歴書の男女欄や服装で悩み、就活のスタート時点から困難に直面する
・自己分析をしていると「性」の悩みが一番に思い浮かぶが、正直に話すべきか悩む
・トイレの利用が困難
・志望企業は性別に合わせた制服があり、自分は求められていないと感じる
・仕事仲間とプライベートの話がしづらい(休日に誰と出かけた等)
・「彼氏(彼女)はいる?」と聞かれるたびにストレスを感じる
・「もっと女らしくしろ」「男のくせに」などと言われる
・職場で同性愛者をジョークのネタにしている人がいる
・「早く結婚して子供を産んだほうがいい」などと言われる
・カミングアウトしたら、あっという間に噂を広められた
・性別適合手術や治療をする際、休む理由を言えないため、仕事を辞めざるをえない
これはほんの一例ですが、LGBTは非常に多くのストレスを抱えていることがわかります。もしかしたらあなたのすぐ近くでも、皆が「異性愛者が普通」「身体と心の性が一致しているのが普通」だと思い込んでいる雰囲気の中で、カミングアウトできずに悩んでいる人がいるかもしれません。
それでは、企業はLGBTの人が働きやすくなるために、どのような取り組みをしているのでしょうか? 実際のところ、日本ではカミングアウトをしている人がまだまだ少ないこともあり、認識不足で具体的な対策を取れていないところがほとんどのようです。
しかし今後は、それも少しずつ改善されていくことでしょう。例えば経済産業省は、平成24年度から「ダイバーシティ経営によって企業価値向上を果たした企業」を表彰する「ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業大臣表彰)を実施しており、下記のホームページでは、受賞企業を見ることができます。その取り組み方は様々ですので、ぜひベストプラクティス(最良事例)も合わせて参考にしてみてください。
【新・ダイバーシティ経営企業100選 表彰企業一覧】
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/practice/index.html
上記に載っていない企業でも、社内で勉強会や研修をしたり、相談窓口を作ったり、福利厚生を見直ししたり(同性パートナーにも適用)、当事者団体へ支援や協賛をするなどの取り組みを始めているところもあるようです。まだまだ全体的には発展途上の段階ですが、あなたの意見や行動で改善の働きかけをしてみるのも一つの手かもしれません。
また、企業だけでなく個人でもできることはあります。例えば、先ほど「彼氏(彼女)はいる?」という会話がありましたよね。当たり前のように使ってしまう言葉ですが、少し意識を変えて「恋人(パートナー)はいる?」と言いかえてみるのはどうでしょう。世の中には多様な人がいるという意識を気に留めておくことで、誰かの心がほんの少しラクになれるかもしれません。
今、広告業界やBtoC企業が注目している“レインボー消費”についても触れておきましょう。電通ダイバーシティ・ラボの調査(*1)によると、LGBT層の商品・サービス市場規模は5.94兆円と算出されています。“レインボー消費”とは、このLGBT層を起点として広がる消費傾向のこと。LGBT当事者のみならず、それに理解を示す人々のことも指します。
例えば、広告に一般的な家族や異性カップルだけでなく同性カップルが登場すると、その企業や商品の好感度が高まることが明らかになってきたそう。つまり、当事者だけでなくLGBTに温かい目を向けている人の増加が新たな傾向として表れており、これまでとは異なる消費を生み出す可能性に期待が高まっているのです。
もちろん、当事者がカミングアウトをするかどうかはデリケートな問題ですので、答えはそれぞれの考え方によると思います。しかし、思いきって周囲に表明しつつ当事者ならではの意見を自社の商品開発に活かすというのも、個人的な悩みを“強み”に変える一つの方法かもしれません。
実際に企業や大学が行っているLGBTへの取り組みの一例をご紹介します。
・日本マイクロソフト、日本たばこ産業(JT):性的指向・性的自認等に基づくハラスメントや差別の禁止を、社内規定等に具体的に明記
・ソフトバンク、ダイバース:社内の人事・福利厚生制度の改定
配偶者に適用される福利厚生を同性パートナーにも適用する等、LGBTに配慮した社内制度を整備。
・日本IBM:社内セミナー等の開催
LGBTへの理解促進に向け、社内各層への研修や、勉強会を開催。
・第一生命:社内相談窓口の設置
・楽天、アイエスエフネット:ハード面での職場環境の整備
性別を問わないトイレの設置等、LGBTが働きやすい職場設備を整備。
・アクセンチュア:採用活動におけるLGBTへの配慮
採用時に性別を確認しない等、LGBTの学生等に配慮した採用活動を実施。
・マルイ:LGBTに配慮した商品・サービスの開発
・資生堂、LIXIL:社外イベントへの協力、NPO法人等との連携
いかがでしたか?
世間の関心が高まっているとはいえ、LGBTの当事者が就活をするのはまだまだ大変です。このような状況を変えていくためにも、まずは私たち一人ひとりが広い視野を持ち、多様な人々と共に暮らしているという現実を知るところから始めましょう。見えないところで悩んでいる誰かの気持ちを想像して、互いに相手を尊重し合って行動していけば、きっと今より豊かで暮らしやすい世の中になるはずです。そして誰もがセクシャリティで差別されることなく、生き生きと活躍できる社会を、これから皆で作っていきたいですね。
*1
出典:電通ダイバーシティ・ラボ LGBT調査2015(インターネット調査)
調査期間:2015年4月9~13日
対象:全国20~59歳男女個人
SC調査 69989人
本調査 900人(LGBT層 500人/一般層400人)
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2015/0423-004032.html
*2
NHK『バリバラ』2015年9月20日(日)放送
「セクシュアル・マイノリティー」 LGBTの就労
【その他 参考サイト】
・LGBT就活
https://www.lgbtcareer.org/
・cococolor 「LGBT人口7.6%、市場規模5.9兆円。「レインボー消費」見えた –LGBT調査2015-」
https://cococolor.jp/1550
・日経ビジネスオンライン
「トヨタが同性カップルを支援する時代 市場は性的マイノリティーを歓迎する」
https://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150119/276422/
日本経済連合会「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」
https://www.keidanren.or.jp/policy/2017/039_honbun.pdf#page=18