就職活動をしている学生さんの間で人気の業界の一つが商社です。
一口に商社と言っても、総合商社と専門商社では、かなりの違いがあります。
それぞれどういったところに強みがあるのか、どういった違いがあるのか、見てみましょう。
モノを仕入れて売る、川上から川下まで商品の流れのすべての局面に関わるのが、商社です。
商社の本来の仕事は、卸売業、取次業でした。今でも、商社を業態別に分類すると、卸売業の中に区分されます。戦後の高度成長期には、各種資源を日本に調達し、それらをメーカーが加工し、できた工業製品を、世界各国へ販売して外貨を稼ぐという役割を担っていました。
もちろん、現在もそういった仲介業的な仕事や卸売業的な役割は健在です。
一方で、メーカーも、仕入れや販売に、独自の海外拠点を築くようになります。
そうなると、商社は、蓄積された海外ネットワークを生かした国内外企業への事業投資といった新たな業態を作り、更に業務内容を拡大しました。
商社は、「商いをする会社」です。商いと言っても、色々あるじゃないか、といわれると思いますが、その色々すべてを行うのが商社なのです。具体的に考えてみましょう。
例えば、ジュースを例に挙げて考えてみましょう。
世界中にある100%ジュースを作っているメーカーから、ジュースを買い付けて、日本に輸入し、日本の流通チャンネルに卸すといった、卸売的な役割は最も基本的な商社の仕事です。
ジュースメーカーに、オーガニック素材を使ったワンランク上のジュースを作ってもらうように働きかけたり、共同でR&Dを行ったりすることもあります。さらには、そのためのラボや工場を建設することもあり得ます。流通チャンネルの方で言うと、新たな付加価値をつけたジュースを売るための、自然派カフェを開店し、独自のルートで売ることもあるかもしれません。必要に応じて、メーカーになったり、小売業になったり、卸売業を行ったり、投資を行ったりと、すべての局面で活動しているのが商社です。
チャンスのある所に、どんどん進出し、新たな稼ぎ場所を作り出していく商社は、それを世界規模で行える非常にやりがいのある仕事だと言えます。
商社の仕事は、2輪という言い方をされることがあります。
商社のメインの仕事が、トレードと事業投資になっているからです。
トレードは、モノを右から左に流す仕事です。
事業投資は、トレードビジネスで蓄えた経験値を活かして、商社が国内外の企業に対して出資を行い、人を送り込んで経営にも加わり、企業の成長に伴う企業価値の増大や配当金などを通して収益を上げるというものです。
総合商社と専門商社の違いは、基本的には、扱い品目の違いです。
扱い品目が特定の専門分野に偏っているのが専門商社、扱い品目に制限がなくどんなものでも扱うのが総合商社です。
専門商社は、特定分野の商材に特化していて、専門知識やマーケティング力、ネットワーク、個々の顧客に近いところからの対応力などを活用して、顧客との取引を行います。
基本的には、上記の2輪のうちのトレードがメイン業務で、収益の柱はトレードから得られる売買マージンです。専門知識を活かして、ファイナンスや物流、商品開発などを行う商社もあります。また、特定分野が複数ある、複合型専門商社と呼ばれるタイプの商社も存在します。
総合商社は、多種多様な商材を扱います。近年は、2輪の内の事業投資の割合が高まっています。発電などのエネルギー関連や社会インフラなどの大型プロジェクトも行われています。
事業投資の例を挙げると、三菱商事と三井物産による「サハリンプロジェクト」や、住友商事の「ジュピターテレコム」、丸紅の「水ビジネス」などがあります。ジュピターテレコムは、1995年に住友商事のメディア・生活関連事業を牽引する会社として、設立されました。
現在は、日本最大のケーブルテレビ企業となり、「多チャンネル市場をリードするメディア企業」となっています。テレビ、ネット、電話の3つのサービスをまとめて提供し、テレビのバリューチェーンの川上から川下まで、と、まさに商社のノウハウをメディアに適用した戦略をとっています。さらに、モバイルや電力へと拡張戦略をとっており、商社の扱わないものはない、というのを如実に表しています。
丸紅は、社会インフラの中でも最も重要な「水」を事業化しています。フィリピン、ポルトガルやブラジルの上下水道事業に参入したり、中国やペルーで浄水処理事業を行ったりと世界中に「水ビジネス」を広げています。
総合商社は、トレード業務も行っていますが、その部分を子会社に移管している会社も多くなっています。そのため、総合商社の傘下にある専門商社というのも数多くあります。
例えば、三菱商事は総合商社ですが、その傘下にある三菱食品は食品の専門商社です。グループ会社の一つである、ブラジルでコーヒー豆の集荷販売を行っている「Agrex do Brasil S.A.」を通して、珈琲豆を食品専門の商社が輸入し、同じくグループ会社の一つとなっているアートコーヒーなどを通してコーヒー豆を市場に流通させます。
こういった、モノの流通のスキームを創っていくのも、総合商社の仕事になっています。
総合商社と専門商社の強みと弱みをそれぞれ考えてみましょう。
三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅、双日、豊田通商の7社が、総合商社です。総合商社の強みは、やはり、スケールメリットを背景にしたものがあると言えます。
【総合商社の強み】
1.規模の大きいビジネスができること
インフラや資源など、何兆円にもなる規模のビジネスが可能な圧倒的な力を持っています。
2.ビジネスの幅広さ
総合商社は、幅広いポートフォリオを持ち、食品から資源まで、コンビニやレストラン経営から不動産投資まで、制約なく、自由にビジネスチャンスをとらえることができます。
3.逃げ場があること
「2.」とも関連しますが、扱い品目や業態が多様なため、一つのものがだめでも、他のものでカバーすることができます。世界的な天候不順で食品がだめであっても、機械や資源で稼ぐことが可能、といった感じです。
【総合商社の弱み】
一方で、弱みはというと、スケールの大きさが逆に弱みになると言えます。
具体的には…
1.ニッチな商品が扱えない
大型案件が通常業務になっているために、こまごまとした商品や、ニッチ商品が逆に扱えなくなってしまっています。そういった部分を扱う会社は顧客にならない、ともいえます。
2.先読みが外れると損失も大きい
利益損失も大きくなりがち。2016年の3月期には、三井物産、三菱商事、が赤字になり、住友商事も、2015年にシェールガスの開発失敗で、赤字に陥りました。先を読み切れないと、大きく失敗してしまうのが、スケールの大きいビジネスを行っている総合商社の弱みともなっています。
【専門商社の強み】
専門商社はどうでしょうか。専門商社の特徴はある分野に特化していることです。専門商社の強みは、専門分野に強いことです。人脈も専門知識も豊富で、その分野での見通しを立てるのも強いです。
1.専門分野での人脈の豊富さ
これは、川上にも川下にも言えることで、サプライヤーと顧客の両方向で、豊富な人脈があります。お互いによく知っているだけに、仕事も楽にできるという面もあります。
2.専門分野の業界に精通
その業界の現在も過去もよく知っているので、動向もつかみやすくなっています。大きく失敗することは、あまりないと言えます。その点ではリスクヘッジにも強いといえるかもしれません。
3.顧客が近い
人脈が豊富というのにもつながりますが、顧客との関係が密で、細やかな顧客メンテナンスができます。小回りが利く方が良い仕事であれば、総合商社よりも専門商社を起用したほうが、楽に仕事が進むと、専門商社を選ぶメーカーもあります。
【専門商社の弱み】
一方で、弱みも、その特徴故のものとなっています。
1.専門分野の需要の落ち込みや市場縮小などの影響が大きい
専門分野に大きなダメージを与えるようなことが起きた時には、逃げ場がなく、影響をもろに受けてしまいます。
2.自由度が低い
専門性があるために、その枠を超えた部分への進出が難しいです。