大学で勉強した後、もっと研究したいと大学院に進む人が増えています。旧帝大の理系学部だと少なくとも半数以上が大学院に進学しているといいます。とはいえ、修士課程の後博士に進んで、大学に残って研究を続けるというのは非常に狭き門です。大学院進学=研究職という構図が崩れている今、大学院に進学してから企業に就職する人たちの方が多くなっています。果たして、院卒であることは、就職活動で有利に働くのでしょうか?見てみましょう。
大学院は、専門的な勉強をするところです。ですから、院卒生は、専門的な知識を蓄積しているはずです。その専門性が活かせるなら、就職活動は有利になります。工学部の学生は技術畑で就職できるから院卒の方が有利だけれど、文系は専門が活かせないから院卒は不利、とよく言われるのはそのためです。果たして現実はどうでしょうか。文系、理系別に考えてみましょう。
【文系の大学院卒】
文系学部の多くは、企業の経済活動とはあまり関係ない分野を研究しているように思えるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。経済学部や経営学部、統計といった学部であれば、リサーチやコンサルティング業界で専門性を活かせるかもしれません。出版関係も文系の院卒の割合がある程度高い業界です。自分の専門性に近い業界を志望するなら、ゼミや研究室の指導教官の先生の紹介で就職することもできるかもしれません。そういったルートを狙うなら、大学院卒であることが、メリットになると言えます。
全く専門とは関係ない業界に就職したいと思ったらどうでしょうか。その場合、大学院卒であることが学部卒の学生よりも魅力があると思ってもらう必要があります。大学院卒と学部卒の初任給は、年齢の違いから、平均月給で2万円違うと言います。2万円分高い能力を有していると思ってもらえれば、大学院卒であることが有利に働きます。では、一般的に大学院卒であることの強みとは何でしょうか。
大学院では、特定分野の専門知識を身に着けると同時に、研究の仕方を身に着けることができます。「自分で仮説を立て、検証するための方法を考え、実行する、仮説との整合性を見極めながら、結果の考察をする、思った結果につながらなかった際にはさらに検証を重ねる……。」というプロセスを繰り返しながら、問題解決能力を磨いていきます。仮説を立てるためにも検証方法を見つけるためにも、結果の考察や再検証をするためにも資料を読み込む必要があります。特に文系の院生であれば、数多くの文献を読み込まなくてはなりません。
たいていの場合は、日本語だけでなく、英語やその他の言葉の文献を読む必要も出てくるでしょう。そして、自分の研究結果を論文にまとめなくてはなりません。内容をまとめる力も培われます。また、論文の形式というのはかなり細かく決まっていますから、細部まで校了する力も必要になってきます。問題解決能力、語学力、読解力、まとめる力、細部まで気を配る力…これらの能力は、就職してからもプラスになる能力です。
【理系の大学院卒】
理系の学生についてはどうでしょうか。理系は、分野によっては資格を取りやすくなることもあります。例えば、一級建築士の資格を取ろうと思ったら、学部卒の場合、実務経験を積む必要がありますが、指定の大学学部の修士課程を終えるなら、実務経験とみなされて受験資格を得ることができます。
理系の学生は、就職してからどんな仕事につきたいかによって、学部卒の方が良いのか、院卒の方が良いのかが決まる部分があります。技術職、研究職として就職するなら、院卒の方が有利だと言われています。研究分野がかぶる企業であれば、研究室の先生の推薦をもらうことも可能でしょう。就職してから即戦力になると思われますから、採用される確率も高くなるでしょう。また、その分野に関する研究をしている人がそれほど多くない状況であれば、ライバルも少なく入りやすいと言えるかもしれません。企業によっては、技術職の採用条件に修士号が入っていることもあります。その場合は、修士課程に進んでいなければ応募することもできません。院卒であることがスタートラインということですから、そういった企業に就職したいと思うなら、大学院に進学しましょう。
研究内容を活かして就職しようと思ったら、自分の研究内容をきちんと伝える必要があります。採用担当者は、多くの場合研究分野の専門家ではありません。専門家ではない人に、わかりやすく自分が何を研究しているのかを伝える能力は必須です。もちろん、大学院できちんと研究をしていることが前提になります。
就職活動で考えると、学部卒と院卒ではどちらが有利なのでしょうか。院卒のメリットとデメリットをみてみましょう。
【メリット】
1) ロジカルな思考回路を身に着けているので、グループディスカッションなどで高評価を得やすくなります。エントリーシートにも、ロジカルさを反映させて、一味違うものを書くことができるでしょう。
2) 少なくとも2年間は学生時代が長いので、学部卒の人と比べると、面接などで話せることが多いはずです。自分が打ち込んだ研究や研究課程は、分野が違っているとしても、話すことができるかもしれません。
3) 研究分野が企業の事業とかぶっていれば、即戦力としてアピールすることができます。
【デメリット】
1) 基本的に大学院卒をとらない企業には応募できません。大手企業の中にも、業界によっては学部卒のみを採用対象にしている企業があります。
2) 大学院卒は学部卒に比べて人件費が高いため、コストに見合っているかどうかを厳しく審査される可能性が高くなります。大学院に進学した理由や、何を研究しているのかといったことを明確に説明する必要があります。学部卒と同じ能力だと思われるなら、わざわざコストの高い院生をとろうとはしないでしょう。
3)特に理系の学生の場合、技術職・研究職以外の職種につきにくくなります。例えば、営業職に就きたいとなった場合、なぜ大学院に進んだのかと聞かれるでしょう。学部卒よりもコストが高い分、専門性以外の部分で、アピールできなくては厳しいです。
メリットとデメリットを比較してみると、実は、院卒であるか、学部卒であるかは就職活動にはそれほど関係しないと言えるのではないでしょうか。メリットもありますが、デメリットもある、プラスマイナスで行くと限りなく0に近いと言えます。理系の研究職・技術職以外の分野では、院卒であるか学部卒であるかは就職活動で有利か不利かということはあまりありません。
むしろ、理系であれ文系であれ、院卒であれ学部卒であれ、必ず必要なのは、コミュニケーション能力です。どんな企業であれ、どんな職種であれ、人と全く関係しないことはありません。就職活動でも、自分をプレゼンできなければ内定に結びつけることができません。研究内容が近い分野であれば、自分の研究内容がその会社でどのように活かせるのかを分かりやすく説明する必要があります。研究内容とは全く違う分野であれば、大学院に進んだことによって、自分がその企業に貢献できる部分がどれほど磨けたのかを説明しなくてはなりません。企業側が何を求めているのかも理解する必要があります。