就職というと、「○○さんとこのお子さんは上場企業にお勤めで…」とか、「就職するなら上場企業に…」といった会話がされているのをきくことがあります。上場企業というと、「安定している」、「大手で安心」といったイメージがあるようです。果たして、上場企業に就職するとはどういうことでしょうか。考えてみましょう。
上場企業とはどういう企業でしょうか。「上場」は、新規株式公開(IPO)、「上場企業」は、各証券取引所に自社株を公開し、取引がされている企業を指します。上場する際には、経営状況や財務状況に関して厳しい審査があり、上場後も自社の経営上巨頭の情報や株価を公開するため信用度や知名度が上がるといわれています。上場することにより、一般投資家からの資金調達がしやすくなります。また、上場すると、経営に株主という第三者が関わることになります。
上場企業は、経営状況が公開されているため、企業としての「信頼性が高い」です。また、TOYOTAやPANASONICといったメーカー大手を始め、有名企業、大企業の多くが上場企業であるため、上場企業=安定した大企業といったイメージがあり、「ステータス性」も高まります。
■上場企業で働くことのメリット
・金融面での信頼性が高まる
企業への信頼性が高いと、給与面での安定性が保証されていると考えられるため、住宅ローンやクレジットカード等の審査に通りやすい、というメリットがあります。クレジットカードを申し込む際、知名度の低い企業の場合審査に時間がかかったり、自営業の場合審査に通らなかったりすることもありますが、勤務先が上場企業である場合、ほとんどそういうことがありません。銀行から住宅ローンなどの融資を受ける際にも、借りやすくなります。
・仕事がしやすくなる
営業を始め、会社の名前を背負って仕事をする際に、会社の名前を相手が知っているかどうかは動向を大きく左右します。アポイントメントが取りやすくなる、商談がスムーズに行くといったメリットがあります。会社名を相手が知らなくても、上場企業ということで、信頼されやすいということもあります。
・仕事のやりがいと可能性
上場企業は、総じてある程度の規模の企業です。そのため、色々なビジネスチャンスがあります。何億何十億規模の仕事、やりがいのある仕事を任される可能性も大きくなります。上場企業の持ち主は、株主。創業家がトップの会社に比べると、社内の雰囲気が民主的だといわれています。また、創業家の出身でなくても、トップに上り詰められる可能性があります。
・人材が豊富
知名度・信用度が高いため、採用の際の応募数も多くなります。その中で選ばれた人材が集まっているということですから、入社後、ハイレベルな環境で切磋琢磨できる可能性が高くなります。入社時の同期は、その後の社会人生活の中で長く続く仲間となることも多く、同期の人数が多いということは選択肢も増えることになります。同期に限らず、ある程度の人数、レベルの人々が集まっている環境で働くことで、自分自身の成長も望めます。
■上場企業で働くことのデメリット
一方で上場企業で働くことのデメリットはなんでしょうか。
・会計報告の煩雑さ
上場すると、経営状況を数値で公表しなくてはなりません。「会計の透明性」が求められるため、3ヶ月ごとに「決算短信」を、 年に1度は有価証券報告書を作成しなくてはなりません。経理部門などの、当該部門で働くことになれば、非常に忙しくなります。会社の資産すべてを、現金や負債だけでなく原材料や製品もお金に換算して評価する必要があり、間違えると不正経理や粉飾決算になりかねません。
・コンプライアンスに違反した場合のダメージの大きさ
間違いが起きてしまった場合、コンプライアンスに違反してしまった場合、失ってしまう社会的な信用の大きさは、莫大です。三菱自動車の例にあるように、会社自体の存続にかかわることになります。会社がなくなってしまった場合、働く人にとってのダメージもはかり知れません。
・買収や乗っ取りの危険性
また、上場することで、ヘッジファンドやライバル企業に買収される可能性が生じます。株の売買は、企業の経営陣に知られない所で自由に行えますから、買われたくない相手に株を買われ、いつの間にか大株主になっていて、乗っ取られてしまうということもありえるのです。社員にとっても、会社が買収されてしまうと、以前とは同じ待遇ではなくなったり、業務内容が変わってしまったり、ノウハウだけ吸収されて用済みとなった社員はリストラにあったりと、デメリットは大きいです。
・自分のパイが少なくなる可能性
ある程度の大きさの企業であると、自分のやりたい部門に行ける可能性が社員数の少ない企業に比べると少ないかもしれません。やりたい業務がはっきりしている場合、非上場でその業務に特化した企業を選んだほうが、自分のしたい仕事ができる可能性が高くなるといえます。
上場企業で働くことは果たして本当にメリットが大きいでしょうか。実は、サントリーやYKKといったメーカー、講談社、小学館や集英社といった出版大手、朝日新聞社や竹中工務店、森ビルといった誰でも知っているような大企業は株式を上場していません。上場企業ではないのです。
企業にとっての上場のメリットは資金調達ですから、利益を上げられる体制が整っていて新たな設備投資のために株券を発行して資金を調達する必要がなければ、上場する必要はありません。むしろ、買収の危険を回避するためには上場しない方が良いわけです。こういった企業で働くなら、乗っ取りや買収の危険は上場企業で働くよりも少なくなります。
仕事のしやすさに関しても、上場企業の知名度やステータスが後押ししてくれることがあるのは事実ですが、上記のような非上場の大手企業は充分に知名度もあり、仕事上で非上場であるからと言って、デメリットがあるとは思えません。そうすると、いちがいに上場企業であるか否かではないといえます。
仕事のやりがいに関してはどうでしょうか。非上場会社には創業家がオーナーとして君臨しているところが多いのは事実です。「吉本興業」は以前上場企業でしたが、2010年に「経営判断を迅速化するため」という理由で上場をやめています。経営判断が迅速であることは、仕事をしていくうえでよい点でもあり、マイナス面でもありえます。経営者次第という面がありますが、働く側にとって、新たな分野への挑戦がしやすくなるといったメリットがあります。一方で、上場している大企業の時々見られるように、企業が大きくなると、許可を取る必要がある部門が増え、時間がかかってしまって、チャンスに合わせて動けないといったこともありえます。
こう考えてみると、企業を選ぶ際の尺度として、上場企業であるか否かはそれほど大きな判断基準にならないといえます。上場・非上場であるかよりも、企業の経営理念が自分の価値観に合っているものかどうか、企業の経営状況が健全で、働く際にも納得できる労働環境にあるか、会社の雰囲気や労働環境が自分が働きやすいと思えるものかどうか、といった点に重きを置いた方が、就職活動時や入社後に感じるミスマッチが少なくなるでしょう。