最近、理系の学生の方が就職活動に強いとよく言われます。確かに、各メディアで紹介される「就職に強い大学ランキング」の上位は工学部系の大学つまり理系の大学が上位を占めていますが、文系・理系でみるとどうなのでしょうか。また併せて文系が企業に求められることも考えてみましょう。
文部科学省が調査した2015年3月卒業者の学生の就職状況を見てみると、文系の内定率は97.1%、理系は98.2%でした。国公立文系は96.4%、国公立理系98.8%、私立文系97.3%、私立理系97.8%となりました。
参考:文理別内定状況(文部科学省平成27年度大学等卒業者の就職状況調査)
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/05/__icsFiles/afieldfile/2016/05/20/1371161_1.pdf
次に、民間会社が調査した2015年卒学生の就職率を学科系統別でみてみると、学部系統でみると、看護・保健・医療系(91.8%)、家政・生活・栄養系(90.0%)をはじめ、福祉系(89.2%)が高い数値を出しています。理系に特化してみてみると理工系(89.2%)、農学部(86.8%)薬学部(79.7%)となり、文系の商学・経営(84.7%)、経済系(83.9%)、国際系(82.6%)と大きく差があるとは言い切れません。
参考:出口(就職)から考える大学選び
https://www.univpress.co.jp/university/deguchikara/
比較する上で注意すべき点は学部学科系統では学生数が大きく異なっていることです。就職率が高いとされている医学・歯学部、薬学部、農学部などは学生数が少なく、純粋に文系と比較するべきではないでしょう。またこれらの学部は医者や薬剤師などある特定の職業に就くために必要とされる学部であるため、職業学校の色が強いように思われます。「彼らにしかできない仕事】が存在しており、就職率は高くなるのは当然といえそうです。
参考:文部科学省学校基本調査-平成27年度(確定値)結果の概要(高等教育機関)
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2015/12/25/1365622_3_1.pdf
余談ですが、学部人口が少なく、限定された資格・専門性をもつ学生は景気に左右されにくく内定率は高いことが多いですが、一部薬学部などでは入学者の増加などにより学部人口がかなり多くなってきており、必ずしも就職率が高い学部とは言えなくなってきているのが現状です。
これらの学部は例外として、理系は圧倒的に内定率が高い、文系は圧倒的に低い、ということはありません。
文系の強みは一言で言うとやはり「コミュニケーション能力」です。より正確に言うとコミュニケーション能力が高い人を育てるのが文系、文系にいればコミュニケーション能力が備わるのです。
このコミュニケーション、決して「会話する」「話し上手」「人前が得意」という意味だけではありません。文系科目では自然と異文化・異国・性別など環境下の違う人や歴史、社会について学び、価値観を「受け入れる」ということを繰り返しています。これによって意見/環境/性別・年代が違っていたとしても「交流」する能力を身につけることができる学部なのです。
例に出すと、
授業で歴史や異国の文化を学ぶ
↓
新しい考え方や価値観を知る
↓
こういうふうに行動したら免れるのではないのか、この行為はよかったのか、自分のこういう状況に似ているな……など考える
このように自分の置かれている環境にも照らし合わせて考えることができるのが文系です。
企業からみて、学生のコミュニケーション能力が高いかどうかはグループディスカッションや面接を通して把握することができます。会話ができる、喋り好き=コミュニケーション能力が高いのではなく、まさしく対人能力=「人に対してどのように接するのか」を見極めています。
文系は専門性を活用できる理系よりも就活において不利なのではないかと考えてしまいますが、日々の授業や講義で学んだことが、行動に反映され、就活に役立っているともいえるのです。
参考:文部科学省 人文学及び社会科学の学問的特性
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/attach/1246381.htm
専門知識に強みに持つと思われる理系ですが必ずしもそうでないのが現状です。2016年3月1日時点でのアイデムの調査によると、学生を選考する上で、重視しているポイントとして挙げられた項目を高い順にみてみると、人柄・性格、身だしなみ・振る舞い、志望動機が挙げられます。また、学生時代に勉強していた内容や、業務に必要な資格の有無を選択した企業はそれぞれ12.5%、15.0%にすぎず、一部の専門職以外では人物重視の採用がされていることがわかります。
参考:
https://apj.aidem.co.jp/upload/chousa_data_pdf/270/2016_03kigyou.pdf
また、帝国データバンクの調査によると、業務の遂行に当たって文系と理系の出身者で求めることにちがいがある企業は29.2%にすぎず、あると答えた企業の業界内訳を見てみると業界別では製造や建築などが文理で求めることの違いが高く、こちらも専門性が高い技術者への期待が多いことがわかります。
参考:大学に求める教育分野に対する企業の意識調査
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p150905.pdf
キャリタスの調査では企業が文系学生に求める資質としてコミュニケーション能力(77.5%)、協調性(27.0%)、熱意(26.2%)を挙げ、理系ではコミュニケーション能力(68.2%)、基礎学力(26.3%)、専門知識(25.0%)を挙げています。
参考:学生に求める資質&人事のホンネ
https://job.career-tasu.jp/2017/guide/trend/09.html
つまり企業は「対人能力」を前提に採用活動を行っており、その他に求めるものが、その人にあるのか(文系)、その人の持つ知識にあるのか(理系)と考えるとわかりやすいかもしれません。求める人材として文系か理系かでは大きく変わらないと考えて良いでしょう。
理系学生もコミュニケーション能力が最も求められる理由は、学んだ知識をそのまま生かせることはごくわずかだからです。入社後は企業による研修などで企業のルールや手法を学んでいくわけですから、その際に必要なのは「学ぼうとする姿勢」や「知識を受け入れる柔軟性」などです。そのため結局は人柄ということになるわけです。
最近は、リベラルアーツなど文系にも理系にも属さない学部が新設されるケースが多くなってきています。
リベラルアーツ教育として有名な国際基督教大学ではリベラルアーツを「文系、理系の区別なく幅広い知識を得た後に、専門性を深めることで、豊富な知識に裏打ちされた創造的な発想を可能とする教育」と説明しています。
つまり、知識の習得をゴールとしているのではなく、そこから考え、自らの意見を発信し、行動していくことにゴールをおいた学問といえます。
これまでは文系は文系、理系は理系科目を中心に大学で専門的に学んでいくことが中心となってきましたが、リベラルアーツのように、総合的な教育(教養)を身に付ける教育が増えていくように思います。
また、中央大学では2017年4月に『やわらか頭の理系人材』をキャッチコピーにした「人間総合理工学科」が新設されます。この学部は選択した知識だけではなく、「社会」を焦点にあて、さまざまな課題を解決していく実践的かつ複合的な視点を養う学問です。
大学のサイトでは
「文系理系の別を問わないグローバル化の急速な進展と震災後の日本の新たな活力を創り出していく中で、マーケティング、金融、人事、地域行政など、従来は「文系」と考えられてきた分野においても、取り扱う事象が高度化・複雑化しており、新たに「理系」のバックグラウンドを持った人材が強く求められています。
従来の文系に物足りない人、従来の理系に物足りない人、従来の枠を超えて取り組む新しい理工学の学問領域に興味のある人は、ぜひ人間総合理工学科を検討してください。」
と書かれていることからもわかるように、これまで強く持たれていた理系のイメージを払しょくする人材を育成しようとしています。
この背景には理系学生が持つ強みとして専門性が高く知識も豊富である一方で、その知識や専門性を絶対と過信して、組織として重要な「協調性」の部分で弱みを持つ傾向があると考えられているからのようです。
こうした傾向は必ずしも真実ではありませんが、イメージが広がっているのは間違いありません。大学ではそこで理系の専門性だけではなく、文系で培えるコミュニケーション能力・ビジネスなどを習得させることで、より社会で活躍できる人材を育成していこうという狙いがあります。
こうした文系・理系の壁を越えた学部で求められていることは「多角的な視点」と「総合的な知識」を根拠にした「柔軟性」ともいえるでしょう。
時代や経済、流行、社会背景など、大手企業と言えども、数年後の事業が変化していることは往々にして考えられます。その際に、その変化に対応できる人材が求められています。
参考:中央大学 人間総合理工学科 学科詳細
https://www.chuo-u.ac.jp/academics/faculties/science/departments/integrated/detail/
現在、就職に対して理系だから、文系だから、と考えすぎている人がいるならば、それは時間のムダかもしれません。これからはより、文系理系という枠組みではなく「結局大学で何を学んできたのか」を見定められると想定されるからです。勘違いされがちですが、就職活動においてアルバイトやサークル活動が就活の有力トピックということではありません。学業では企業に上手くアピールするのが難しいため多くの学生が学業以外のトピックを選んでしまっている、というのが現状です。
そこで、学業をアピールしたいみなさんに考えてほしいのは、以下の3点。
・今学んでいることは10年後、何に活かせられそうか
・学んでいることから何か行動に移したことはないか
・企業に入ったときに活用できそうな要素はないか
知識の習得を一歩超えて行動すると文系でも当然学問で勝負することはできます。この機会に今自分が大学で学んでいることについて考えてみると良いかもしれません。