就職活動も終盤になると、「内定辞退をするときには、どうしたらいいの?」 という相談を毎年受けます。連絡手段について、基本的には内定を辞退するときには電話で十分です。もし連絡をしたときに企業の方から来社するように言われても、必ずしも応じる義務はありません。
企業の人事だった立場からしても、もし面談をすることで気持ちが変わる可能性があるなら別として、入社しないと決めている人のために割く時間があれば採用活動にあてるほうが、どちらかというと優先度が高いと感じます。
しかし、内定者として何度も企業の人とも会っていたり、内定者インターンやアルバイトなどをしていたりしたような場合など、お互いがほぼ入社する前提で活動していた場合は「一度会って話しましょう」という流れになることもあるかもしれません。そこで今回は、内定辞退について直接会って話す必要がある人のための訪問の流れについてお話しします。
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まず、企業側からの指示ではなく自分から訪問する場合は、アポイントなしに訪問してはいけません。担当の方が不在の場合もありますし、担当の方がもしその時間に企業にいたとしても急な対応をお願いすることになり迷惑をかける可能性が高いです。訪問するときは、事前に必ず電話やメールで人事担当の方と訪問日程を調整しましょう。
また自分から訪問を依頼する場合も企業から指示があった場合も「○日の○時だったら行けます」のようにピンポイントに指定するのではなく、企業側の都合を優先しましょう。具体的には、企業に指定された日時に極力合わせられるよう調整するか、多めに候補日を出して先方に都合のいい時間を選びやすいように対応します。
訪問する用件としては、「内定を辞退させていただきたいと思っているので一度ご訪問して詳細のお話しとお詫びに伺いたい」などと伝えます。もしその段階で、企業の人事担当者から訪問は不要ということになれば、電話での連絡にします。内定辞退の電話編の記事も参考にしてください。
訪問するときの服装は、その企業の選考に参加していた時の服装と同じと意識していれば大きなズレはありません。企業によっては私服で選考していた企業もあると思いますので、必ずしもスーツで行く必要はありませんが、大切な挨拶をしに行くので清潔感のあるきちんとした身なりは心がけましょう。(私が就職活動をしていた10年以上前から、内定を辞退するとカレーやコーヒーをぶっかけられる企業があるという都市伝説がありますが、実際にそのような目にあったと聞いたことがないので汚れる心配もいらないでしょう。)
持ち物は特にないかもしれませんが、手ぶらで行くのではなく鞄を持っていきましょう。企業から預かっていた入社関連の書類や、また内定者インターンやアルバイトで借りていたものなど返却が必要なものは持っていきます。ちなみに仕事上でミスがあったときなどに取引先に謝罪で訪問しにいく場合、担当者が手土産を用意していくということもありますが、内定辞退の場合はそのような気遣いは不要です。
訪問したら、まず始めに内定を辞退することに対してきちんと謝罪の言葉を伝えましょう。そのあとに内定を辞退することになった理由をできる限り正直に詳細を伝えます。
内定辞退の状況や理由は必要によりますから最終的には個別に判断するしかないですが、むやみに前向きな理由に変えて話したり、理由をオブラートに包んだりして話すよりも自分の考えていることや状況を率直に伝える方がいいでしょう。隠しごとをしてしまうと話も歯切れの悪いものになり、相手も理由に納得がいかずますます話が複雑になったり長引いてしまったりする可能性もあります。
正直に話すといっても、その企業が一方的に悪いというような言い方や伝わり方にならないように配慮は必要です。企業側に迷惑を掛けていることは事実です。きちんと謝罪を伝えて、誠意をもって対応してください。もし他社に入社するために辞退する場合は入社する企業の社名を聞かれるかもしれませんが、言っても特に問題はありません。人事担当者も、上司に報告するときや今後の採用のために参考になる情報だから聞くのであって、あなたが入社することに不利になるような行為をしたいわけではありませんので安心してください。
内定を辞退するために訪問をする人が一番心配することが、引き留めにあうことではないでしょうか。もし進路に迷って決めきれていない段階であれば、よくよく話し合って結果的に結論が変わってもお互いにとっていいと思います。しかし、もう内定を辞退することに決めているのであれば、その場をしのぐためにあいまいな返事をするのではなく自分の意志は変わらないことを伝えて、丁寧に、しかしきっぱりとお断りしましょう。
たとえば内定承諾書を出しているから内定辞退には応じられないとか、過激な場合には訴えるなどと言われたとしても、内定承諾書には法的な拘束力はありませんので心配しないでください。しかし、もし企業を訪問しても話が平行線になったり、こじれたりしそうな場合は、自分で問題を抱え込まずに早めに家族や学校のキャリアセンターに相談しましょう。もちろん自分自身の問題ではあります。ただ企業と学生の自分では、どうしても立場が対等になりにくく知識にも差がありますので困ったときは経験や知識のある人に頼って補いましょう。
内定辞退をするときは、もちろん謝罪が中心になります。しかし、謝罪と同時に内定をいただいたことにもう一度感謝をしましょう。お互いに、たくさんの応募者や企業から選び選ばれて、これから仲間として一緒に仕事をしていこうと認められたご縁のある企業です。結果的に自分が違う道を選択すると決めたのだとしても、ここまで関わりをもって認めてもらったことに感謝の気持ちをもって接するようにしたいものです。
内定辞退はお互いにとって楽しい話ではないので気が乗ってウキウキで行ける人は一人もいないでしょうし、企業からものすごく怒られるのではないかと想像してビクビクしてしまう人もいるかもしれません。実際、内定辞退の状況や企業、担当者によって内定辞退に対しての反応は色々だと思います。ただ少なくともあなたは、訪問するときに、最後にはお互いが納得して気持ちよく話を終えて帰ってくるイメージをもって臨むのがいいと思います。
世間は狭いとはよくいったもので、あなたが今後の仕事で、いつかその企業と一緒に仕事をする機会があったり、お客様や取引先としてお世話になったりすることがあるかもしれません。何かで関わることになった時には、笑顔で会えるように誠実な対応をするのが後悔しない行動です。あなたが次の一歩に進んでいくためにも、しっかりとやるべきことを完結させていきましょう。
井上 真里(いのうえ まり)
キャリアアドバイザー。石川県金沢市生まれ。慶応義塾大学経済学部在学中より、人材教育企業にて学生キャリア支援のサポートに関わり、卒業後は東証一部上場の富裕層向け住宅メーカー・IT企業にて中途・新卒社員採用をはじめ、教育研修、異動や退職など学生のキャリア選択から、社会人のキャリアに関する領域を幅広く経験。新入社員マナー研修講師としても高い支持を受ける。現在は全国の高校生や大学生を対象に面接トレーニング、キャリア、マナー分野でのマンツーマン指導やセミナーを多数開催。毎年マンツーマン指導や勉強会に参加した200名以上の大学生が、大手企業・人気ベンチャー企業に複数内定している。