就職活動で一番悩んだことを書け、というお題をいただいたものの、そんなもんは一つしかない。内定がまったく出なかったことである。「業種に悩んだ」とか「恋人にフラれた」とか「親が反対した」みたいなものは、内定を取れるか取れないかに比べればどうでもいいこと。
いや、本当はそんなことはないのだが、内定を取れなかったら人生終わっちゃうよぉぉ~、また来年も大学に残らなくちゃいけないのかよぉぉ~、オレって本当に使えない人材なのかな、生まれてきてしまってごめんなさい、なんて思うほど自分の価値を規定してしまう魔力を持っているのである。
だが、今42歳、別にその時内定がなくても人生はなんとかなることは分かっている。オレは幸いなことに内定は取れたが、新卒時の就活で失敗した同世代のオッサン、オバサンが元気に生きている様を見ているので、これから就職活動をする皆さんもそこまで絶望はしなくていい。ただし、内定が取れないことで焦るし、自信を喪失する気持ちは理解しています。さて、今とは時代が違い申し訳ないが、オレの就活の時の「内定が取れないよぉぉ!」という状態を紹介しよう。
全部で17社を受けたのだが、ことごとく惨敗。受けた会社は以下の通りである。その結果は以下の通り。最終的には博報堂の内定を獲得している。(社名は当時のもの)
・キリンビール→書類落ち
・サッポロビール→書類落ち
・サントリー→書類落ち
・アサヒビール→書類落ち
・マッキンゼー・アンド・カンパニー→2次面接落ち
・プライスウォーターハウス→グループディスカッション(1次面接)落ち
・NHK→書類落ち
・日本テレビ→1次面接落ち
・TBS→書類落ち
・フジテレビ→書類落ち
・テレビ朝日→書類落ち
・テレビ東京→書類落ち
・電通→筆記試験落ち(書類提出者は全員受けられる=実質的に書類落ち)
・博報堂→内定(OB訪問5回+面接2回)
・大広→書類落ち
・旭通信→書類落ち
・マッキャン・エリクソン→書類落ち
これを見ると、面接にまでたどりついたのはマッキンゼー、プライスウォーター、日本テレビ、博報堂の4社だけなのである。他は、すべて書類落ちである。あまりにも書類落ちが続くので、恐らくオレの履歴書やエントリーシートの書き方には明確な欠陥があったものと思われる。今となっては何が欠陥なのかは分からないが、書類落ちが続いた時の精神状態といったら、「大学院に行こうか……」という進路変更さえ考えさせるほどであった。
そして、唯一ポンポンと上に進んでいく博報堂の最終面接、あまりにも緊張して言いたいことを言えず家に帰ってから「あぁぁぁ、これで手駒が一切なくなった……」と絶望的な気分になり、初夏の栗林からのクサい風が吹き込む自宅2階の和室で「ウワーン」と泣いたことを思い出す。
その直後に内定の電話をもらうのだが、オレの内定獲得は他の学生よりも早かった。となると、同級生が同じような状態になるのだ。それは、オレのゼミでもっとも優秀だったKでさえそうだった。Kからは毎晩のように暗い声で電話が来た。
「オレは価値がないんじゃないか……。オレはお前らに対してエラソーにゼミの時反論とかしていたけど、それって論理力も一切ないただの言いがかりだったのではないかと今となっては反省している……。ごめんな。本当に、今までのオレはお山の大将だったってことがよく分かるよ……」
別の日は電話に出るなり泣き出したので「おいおい、今から行くから、ちょっと待て!」と言い、ビールを買って自転車に乗り、朝までKの愚痴を聞くと共に「お前は頭がいい。安心しろ」と言い続けたのである。
幸いなことにKはとあるオフィス備品関係の会社に入れたが、その時のスッキリとした、でも彼が必ずしも納得はしていない表情を見て、「内定がない状態」って残酷だなとしみじみと思った。その後、彼は証券会社に転職し、現在は自動車会社で働いている。いずれも経理担当として、着実な仕事を行っているようだが、仮に1社目で希望の会社に入れなかったとしても実績さえ作れば希望の会社への転職は可能だ。
もしもオレが「人生でもう一回やりたくないことは何ですか?」と聞かれたら躊躇することなく「新卒時の就職活動」と答える。それくらい就活は嫌いだった。というか、内定がない状態が大嫌いだったのである。
中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社)など。
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