就活の際、考えなくてはならないのが「やりたいこと」。でも、そんなに「やりたいこと」ってあるものなんでしょうか……。
歌手やモデルなど、才能や天武のものであれば、そもそも悩まないのでしょうが、社会に出たこともないのに、会社でやりたいこととか、社会に出て自分ができることとか、わかるもの? みんな、どうやって見つけたの?
「やりたいことなんて、別にありませんでした」
と平然と言ってのけるのは、大手企業から内定をもらった太田さん(仮名)。とはいっても、太田さんも就活には苦戦したと振り返ります。以下、太田さんの就活話。
私は単純に、形となってあらわれるものを作るメーカーがいいなと思って、メーカー志望でした。失敗談として、メガネ拭きで有名な某社を受けたとき、“御社のメガネ拭きで世界への視界が広がりました”なんて、ワケのわからないことを言いました。“これまでのメガネ拭きにはない性能に感動して、こういうものを作ることができる会社に就職したい”とか……。
確かに、メガネ拭きに感動したのは事実なんですが、それってただの感想。メーカーなんだから、自信をもって製品を世に出しているのは当たり前です。しかも、その製品だけを作っているわけではない。今思えば、本当に恥ずかしい。似たようなことを言う学生はゴマンといたでしょうから、面接官の人にとっては耳にタコもいいところだったと思います。
その後も「その製品が好き」「その製品を知っている」だけを志望理由に、似たような面接を繰り返し、落ち続けました。
メーカー以外に、広告代理店やマスコミなども受けました。イヤだと思わないかぎり、時間のある限り受けたという感じです。
そうしているうちに、ようやく「メーカーに入っても、実際に担当するのは“ものづくり”じゃないかもしれない」「広告代理店に入っても、広告をつくるとは限らない」ことに気が付きました。遅いっていう(笑)。
マスコミに入社しても、いわゆる“マスコミ”っぽいところ――報道とか、制作とかではなく、それこそ人事や経理といった仕事もある。私が見ているのは、その企業のいちばん“外側”、アウトプットの部分「だけ」でした。そう思ったとき、自分のやりたいことは結局、「別にない」ことに気がついたんです。
突き詰めれば、私は「生理的に絶対無理だと思うこと以外、やれる」と。ちなみに私にとって絶対無理というのは、金融でした。お金周りは、苦手という感覚があって、それをメイン事業としているところは、ツラいなと。
じゃあ、内定をもらった企業の面接はどうだったかというと、正直ダメ元で受けていたので、“素”をさらけ出していました。あまりに“普通”にこれまでやってきたことや人生観を語っていたので、覚えていないくらいです。一ついえるのは、人事の人が、全員大好きなタイプの人たちでした。
最終段階の面接で、覚えている内容があります。会社で何をしたいのか、というような質問だったと思います。グループ面接で、私の両隣の学生は溌溂と何かを述べていました。萎縮しつつ、私は、「何ができるかどうかは、まだわからない」とバカ正直にいい、
「ただ、個人ではできないことをやるために、会社に入る。チーム戦ならではのできることで、社会に向き合いたい」
というようなことを言いました。本当にそう思っていたからです。
「何を」というのは、配属されてみないとわからないし、自分のどういう能力がどう役立つのか、自分でも未知数。でも、「どう」したいかだけは、言うことができました。そのとき、面接官の偉い人が、何か納得するように深く頷いていたのがとても印象的でした。
その後内定をもらったとき、一つしか決まっていないくせに、実はほんの少し悩みました。大企業過ぎて、やっていけるかどうか、ビビったんです。でも、「あんなに“素”を出した私を採用してくれるというのだから、いいのだろう」と素直に思えました。
「やりたいこと」がわからない人は、よく、過去の経験で嬉しかったことなどを書きだそう……といったマニュアルらしきものがありますが、私の場合、その逆からのほうが考えやすかった。「絶対にやりたくないことを避ける」です。そして、「何を」したいか、ではなく、「どう」したいか、「どう」働きたいか、「どう」喜びを得たいか、ということを考えました。
面接に、絶対的な回答はありません。でも、自分の“素”をとことんまで見つめて受けた面接で、採用してもらえたのは、本当にラッキーだと思っています。“盛って”受かったとしても――まあ受からないものですが――入社後に辛いでしょうから(笑)