Q)「コミュニケーション能力」って何でしょうか……?
僕は目立ちたいタイプではないし、フットワーク軽く知らない人に声をかけられるタイプでもありません。会社では「コミュニケーション能力」が重視されるといいますが、どういうことかさっぱりわかりません。普通に人と話はできるほうだと思っていますが、その能力が「高い」「低い」というレベル分け(?)の意味がさっぱりわからないのです。
A)こういう言葉を学生が使っている場合、あくまで“イメージ的なもの”が多いので、あんまり振り回されないでいいですよ。というのも、社会人になると仕事上において「コミュニケーション能力」なんて言葉は、滅多に出てきません。あなたがおっしゃる〈会社では「コミュニケーション能力」が重視されるといいますが、どういうことかさっぱりわかりません〉は正しい。そんなもんは「さっぱりわかりません」という姿勢でいいのです。また「重視されるといいますが」について、そんなことはありません。特に重視される項目ではありません。
もはや、「コミュニケーション能力」みたいなことばは、ビジネス会話では「死語」みたいなものです。あまりにも“広すぎる”言葉なだけに、別の言葉に具体的な言葉に置き換えられます。ただし、社会人であってもテレビを観ていたりすると「この人、すげーコミュニケーション能力だな」と時々言いたくなることはあります。その時の用法は、学生と同じようなもの。
その典型例ともいえるのが、『朝だ!生です旅サラダ』(朝日放送)の「日本縦断コレうまの旅」というコーナーに登場するヒロド歩美アナです。同コーナーは、日本各地へ赴き、地元のおいしいものを路上にいる人に聞き、実際にその店にアポなしで突撃し、取材許可を取り付け、さらにはそのうち1軒の商品を視聴者にプレゼントするという内容です。
ヒロドアナは、おずおずと店の扉を開け「あのぉ、すいませーん……。朝日放送『旅サラダ』です。突然ですが、取材させていただけませんでしょうかぁ……」と訊ねます。ここでは音声しか聞こえてきません。その後扉を開け、姿をあらわすとカメラの方に走ってくるわけですが、大抵の場合、満面の笑みを浮かべ、OKのサインをするのでした。あまりに天真爛漫で、相手の懐にズズッと入り込み、取材相手のおじさんもおばさんもヒロドアナの食いっぷりと愛嬌ある態度には目尻を下げまくります。
こうした「アポなしでも交渉を成立させる」「物怖じせず喋れる」「相手から好かれる」といった要素がある人を、一般的には「コミュニケーション能力が高い」と言います。ですが、ビジネスの世界ではさすがにこんなことはありません。大抵の場合、すでに決まっているメンバーで打ち合わせをし、いつもの取引先と商談をし、いつもの上司に報告をする、といったところでしょう。
こういった時に「あいつはまとめるのがうまい」やら「あいつの資料は分かりやすい」「彼のプレゼンは説得力がある」といった評価はされますが「コミュニケーション能力が高い」という表現は、ほぼ出ません。
上記ヒロドさんの例と同様なのが「面接」ですね。集団面接の場合、ハキハキと挨拶をし、その場を仕切り、笑顔がまぶしくて、その場の話題を持っていくようなタイプが「コミュニケーション能力が高い」と言われます。そうではない受験者は自虐的に「オレ、コミュ力ない……」なんて言ったりもします。
学生が使うところの「コミュニケーション能力」は、「面接が上手なヤツ」程度のものだとお考えください。仕事を始めると、自分自身のことをPRすることなんか滅多にありません。大抵の仕事は、地道な準備と、説得力ある資料作りや良好な人間関係づくりに向けられます。人間関係づくりに「コミュニケーション能力」は必要かもしれないと思うでしょうが、別に寡黙な人であろうが、にぎやかな人であろうが、相性の方が重要なので、学生が言うところの「コミュニケーション能力」はここでも登場しない。
あなたがコミュニケーション能力の「高い」「低い」の意味が分からないと疑問を感じるのは真っ当なことです。その感覚を大事にし、面接に臨んでください。つまり、「表面的なコミュニケーション能力の高さ・低さ」を面接における武器から排除し、本当に自分が強い部分をキチンとアピールせよ、ということです。それは「マジメ」「遅刻しない」「緊張しない」「身体が強い」「無駄な期待はしていない」など、なんでもいいのです。
それだけでも、(いわゆる)コミュニケーション能力の高さを誇るだけの方や、いたずらに(いわゆる)コミュニケーション能力のなさを嘆く人に比べ、アドバンテージを持てることでしょう。
中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社新書)、『夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘』 (星海社新書)など。