Q)「夢」と「現実」について。夢と、それが叶わなさそうな現実との折り合いは、どうつけていったらいいでしょうか?
A)まず、「夢」と「目標」を切り分けましょう。「夢」というものは、かなり遠くにあるもので、それこそ手に届かない夢のようなモノなわけです。しかし、「目標」をクリアし続けることにより、「夢」にいつかは辿り着くことができるかもしれません。そこに必要なのは「逆算」です。
たとえば、かなり大袈裟な夢ではありますが、あなたが「上場企業を作りたい」と考えたとします。となれば、まずやることは「会社を作る」という動きをしなくてはいけません。従業員一人の会社でも構いません。上場企業を作る第一歩はとにかく「会社を作る」というアクションが必要になります。
会社を作るにはお金が必要ですし、アイディアも必要です。そう考えれば、ある程度の資金を貯めるか、素晴らしいアイディアを出し、出資者を募る必要性が出てきます。ここまで来たら、もう具体的アクションは分かりますよね。
そして一体どこに金の鉱脈があるのかが分からない状態でぼんやりと「東証一部上場企業を作りたい」と考えるのであれば、とにかく何かそのヒントを見つけるために何らかの仕事をしなくてはいけません。或いは、趣味に没頭し、そこからメシの種を見つけるしかありません。つまり「上場企業を作りたい」という夢への第一歩は、単に、商売になるようなアイディアを実践することになるのです。
私の知り合いで、フジロックの会場から一番近い高速道路のSAで、中国製のサイリウム(暗闇で光を発する棒)を大量に売って儲けた人物がいます。彼は、中国で1本30円ほどでサイリウムを買い、日本ではそれを500円で売って荒稼ぎをしました。税関では「こんなにたくさんのサイリウム、何に使うんですか?」と聞かれ「集めるのが趣味です」と言って特に問題がなかったようです。
じゃあ、彼が「サイリウム屋」としての夢があったかといえば、そういうわけでもない。単にひと夏のお小遣い稼ぎがしたかっただけらしいんですよね。でも、もしも彼がサイリウム屋として金持ちになる夢があったのであれば、全国のイベント会場近くのPAでサイリウムを売るビジネスを立ち上げようと思ったかもしれません。一回の成功体験は、「夢」が実現するかどうかを判断するきっかけになります。そして、彼は何年後かにマザースの鐘を鳴らしていたかもしれないのです。
彼は結局サイリウム屋にはなりませんでした。じゃあ、彼の今の「夢」は、なんなのか。聞いてみると「特にない」と言います。将来のことも考えていないし、とにかくなんとか生活が成り立てばよいと考えている。「夢」を過度に持つ方は、とかく気負いすぎているんですよ。そして、その夢に近づかない自分を無能だと責める。そこまで思わないでいいんです。身近な「目標」を、少しずつ達成していけばいいんです。
もちろん、大きな目標を立てるのは重要です。私の場合は、憧れの人物は漫画家・エッセイストの東海林さだおさんと作家・椎名誠さんです。この2人のように、編集者から色々な企画をオファーされ、好き放題に文章を書くような男になりたいな、という夢を昔から持っていました。そのためまずは無名のライターから仕事を始め、少しずつ署名原稿を書かせてもらえるよう、文章を書き続けました。今では、様々な編集者から企画のオファーをいただき、自由に文章を書かせてもらっています。
しかし、かつて抱いた「夢」は達成できておりません。さすがに東海林さんのように、食べたものを自由にエッセイにするほどのことは今の私には無理ですし、椎名さんのように、多くの仲間と釣りをする様子をエッセイにするほどの自由度は与えられていない。そして、現在43歳。その境地には達することはできないかな、という諦めは持っています。でも、少しでも近付けた――そうした実感はあるので、これで十分幸せだと考えています。
あなたも、大きな「夢」は持ちつつも、目の前の「目標」をひとつひとつこなし、少しでもその夢に近づく、といったことを考えるだけでいいのではないでしょうか。その夢だって途中で軌道修正されることはあります。決めつけないで日々の人生を送ると、もしかしたら「夢」とは違う人生にはなりつつも、案外幸せな生活を手に入れられているかもしれません。
何よりも重要なのは「夢」を達成できないからといって、落ち込まないことです。繰り返しになりますが、夢に至るには、そこに近づくための地味なアクションをひたすらとること。それが面倒なのであれば、別にやらないでもよいのです。夢は一生持っておくだけでもいい。「夢はかなわなかったが、幸せな人生だった」と言って死ねれば十分です。
中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社新書)、『夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘』 (星海社新書)など。