就活前、あるいは就活中に学生は自分が所属する学部・学科について、気にすることが多々あります。
「就活で損をするのではないか」
と。
結論から先に言えば、専門職に就職するならまだしも、総合職であれば、所属学部の損得勘定は誤差の範囲内です。
が、そうは言っても学生は気にします。
では、実際のところはどうか、学生が「損をした」と思い込みやすい学部・学科について勝手にランキングしました。
例によってと言いますか、このランキング、私、石渡が勝手にランク付けしているだけで、JOBRASS編集部は関与するものではありません。
「損する学部だった」と学生の思い込みを勝手にランキング
6位:機械工学科・電気電子工学科以外の工学部
よく言われるセリフ:
「あー、うち、機械工か電気電子工なら欲しかったんだけどねえ」
◎対策:機械工・電気電子工は別、と割り切る
コメント:
技術職採用でも総合職採用でも絶好調なのが工学部です。
その中でも、特に就職先にまず困らないのが機械工学科・電気電子工学科です。
もともと、機械工学は自動車メーカーなど、電気電子工学は電機メーカーがそれぞれ中心でした。
ところが、この20年間で就職先がそれぞれ多様化していきます。
自動車メーカーは電子キーを採用するなど、電気電子工学の技術者が大量に必要となりました。
一方、電機メーカーは電機製品だけでは儲かりません。そこで社会インフラ、産業メカトロニクスなどの分野にも注力するようになりました。そうなると、電気電子工学の学生だけでなく、機械工学の学生も必要です。
お互いに「俺の畑に手を出すな」と非難しながら、採用を進めていくわけで、人気が過熱。
さらに、生産財(機械)・中間財(部品)を扱う専門商社も理工系人材を欲しがるようになりました。
ところが、各社とも、どうせならその分野に強い人材を、と望むため、機械工・電気電子工の学生を優遇します。
たまらないのは、機械工・電気電子工以外の工学部生です。
システム工学はまだ電気電子工学に近い、と言えなくもないのですが、建築・土木工学は建築・土木業界。情報工学はIT業界、材料工学・物質工学は材料メーカーなど、応用化学は化学メーカーなど、それぞれ業界・企業がある程度、絞られてしまいます。
対策としては2つ。機械工・電気電子工の院(修士課程)に入るか、あるいは別物、と割り切るか。
機械工・電気電子工に近い分野であれば、学部から院に進学する際、専門を変える、という方法があります。
ただ、あまりにも関連性が薄い学科からだと、そもそも院に進学するのは難しいでしょう。
現実的な選択としては、後者。別物、と割り切ることです。業界が限定される、とは言っても就職先は多いので、そこから選ぶようにするしかありません。
5位:芸術系学部
よく言われるセリフ:
「どうせ、うちに来てもすぐ辞めて独立するんじゃないの」
◎対策:「芸術は大学までで区切りをつけます」
コメント:
美術、音楽、工芸など芸術系学部の場合、就職した後に、数年で辞めてしまうのではないか、と勘繰られてしまいます。
回答は一択で、「大学までで区切りをつけます、未練はありません」と言い切ることです。
間違っても、
「本当は芸術を続けたかったのですが、食えそうにないので」
などというのはやめましょう。
消極的な理由で就職を選んだと話してしまうのは、明らかにマイナスです。
未練を断ち切る姿勢を示すと、独創性を挟もうとする芸術系学部生は意外と就活でうまく行くケースが多いです。
4位:教員免許と無関係な教育学部・ゼロ免課程
よく言われるセリフ:
「なんで先生にならないの?」
◎対策:「教育全般を学んだのであって教員志望ではありません」
コメント:
地方の教育系大学・学部に多いのがゼロ免課程です。教育を冠しているのですが、教員免許取得をしなくても済む学部・学科のことです。
要するに普通の文系学部なのですが、採用する側はそんな事情など知る由もありません。
間違いなく、「なんで先生にならないの?」と聞いてきます。
聞かれるたびに学生はめげて、損をした、と思い込んでしまうのがよくあるパターン。
この対策は、やはり言い切ることです。教育学部なら「教育全般を学んだのであって教員志望ではありません」。ゼロ免課程なら、「教員免許とは無関係の学科です」。
教員免許とは無関係であることを強調すれば、それほど警戒されずに済みます。
3位:教員免許を取得する教育学部・教職課程
よく言われるセリフ:
「どうせ数年で教員になるんでしょ?そのための教員免許でしょ?」
◎対策:「教員免許は大学の勉強の証です。それと就職とは無関係です」
コメント:
教員免許取得が義務付けられている教育系学部、それから学部ではないですが教職課程を履修している学生だと、ほぼ間違いなく、教員就職との併願かどうか、聞かれます。
採用側からすれば、手間暇かけて内定を出しても、教員を選ばれると、意味がありません。だったら、早めに落とそう、と考えます。
それを聞いて、教育系学部・教職課程の学生は悩むことも多いようです。
対策は、民間企業の就活が本格化する3年生冬頃までに、教員か民間企業か、どちらかに絞ることです。どっちつかずのまま、就活に突入すると、民間企業就職も教員採用もどちらもうまく行きません。
民間企業なら民間企業に絞ったうえで、教員免許については「大学で頑張ってきた証だから、これはきちんと取得したい。だけど、教員への道に未練はありません」と言い切ることです。
教育系学部・教職課程の学生は勉強熱心ということで評価する企業は少なくありません。あとは、教員就職への未練を断ち切っているかどうか。
なお、民間企業就職に絞ったうえで、教育実習などに行く際は、実習先の学校で「実は免許をとっても教員にはなりません」とは間違っても言わないようにしましょう。進学校を中心に、「民間企業との併願者は実習お断り」とする学校が多いです。はっきり断っていなくても、実習担当教員が「手間暇かけて教えているのに、民間企業か」と露骨に敬遠するようになった、などのトラブルもあります。こればかりは「ウソも方便」。なお、詳しくは拙著『教員採用のカラクリ』(共著・中公ラクレ)をどうぞ(宣伝)。
2位:理学部地学科・物理学科・化学科など
よく言われるセリフ:
「それ、うちじゃ生かせないんだよね…」
◎対策:専門と就職を結びつけず広く考える
コメント:
6位の工学部系統学科(機械工・電気電子工)とやや重複します。が、工学部系統の学科と違い、さらに就職先が限定されるのが理学部系統の学科です。
地学科は地質管理会社、気象予報会社などいずれも採用枠が少ない激戦。石油・ガス会社もそれほど地学科の学生を採用しません。
化学科は化学メーカーが採用しますが、広がりがあるわけでなく。物理学科、生命科学科などはもっと限定されます。
対策は無理に専門分野と就職を結びつけないことです。大学までの勉強は勉強と割り切り、文系総合職も含めて志望していきましょう。
実は理学部生が文系総合職に転換すると、勉強熱心さと理系知識を買われて就職がうまく行く、そんなケースがよくあります。
機械工・電気電子工の学生ほどもてるわけではありませんが、そこは別世界と考えればいいのではないでしょうか。
1位:文学部国文学科・哲学科・史学科など
よく言われるセリフ:
「……」(特に言われないが、「文学部ってどうせ就活で不利だし」と勝手に被害者妄想が膨らむ)
◎対策:文学部で何が悪い、と開き直る
コメント:
文学部、それも英文学科など語学が勉強できる学科ではなく、国文学科・哲学科・史学科などは、文学部批判を極端に気にします。
「源氏物語を研究したんだ。それってうちで役立つのかな?」
などと聞かれなくても、勝手に就職が弱そう、と被害者妄想を膨らませていくのが文学部生のよくあるパターンです。
実際、就職データから経済・経営・商学部系統、法学部など他の文系学部に比べて文学部は就職に弱い、とするデータもあります。
が、データだけで言えば文学部が他の文系学部よりも弱いのは無理もありません。
ただでさえ、フリーランス志望や就職留年・浪人のリスクが高いマスコミ・教員・公務員志望が多いのです。同じ公務員志望が多い学部おして法学部があるのですが、こちらは公務員が仕事をしていくうえで欠かせない法律を4年間ずっと勉強しています。しかも就職先は国家公務員・地方公務員に警察、消防など多岐にわたります。一方、文学部は同じ公務員でも国家公務員・地方公務員を除くと、図書館司書・学芸員など採用者数がかなり限られる職種も含みます。それを考えれば就職が弱いのも無理ありません。
経済・経営・商学部系統だと金融業界や商社に強く、文学部はここでも後塵を拝しています。
……。と、ここまで文学部のネガティブな話をしてめげた文学部生諸君。そういうところですよ、損しているのは。
文学部だから損、ではなく、文学部で何が悪い、と開き直ることです。そのうえで、丁寧に就活を進めること。
きちんと就活をした文学部生は民間企業にもきちんと就職しています。
「文学はうちに役に立たなそう」
と聞いてきた企業などはシャラップです。そんな野蛮な企業は切り捨てればよろしい。
ま、そこまで強気になれなくても大丈夫。
文学が企業の業務内容に直結しなくても、何か大きなテーマを勉強してきた、それだけで十分評価する企業はちゃんとあります。
●割り切ることと開き直り
6学部について紹介してきましたが、共通しているのは、大学までの勉強と就活は違う、とする割り切り、それから開き直りです。
他の学部・学科を羨んでも、妬んでも、何も出てきません。
それより、自分ができることに取り組むこと。就活でも、就活以降の社会人生活でも同じです。
【講演情報】
「勝手にランキング」の石渡に文句を言いたい方、講演を聞きたい方、エントリーシート添削を依頼したい方などは、以下の講演にご参加ください。
6月19日(月)18時~20時30分/7月19日(水)18時~20時30分 【アイデム西日本(大阪・本町)】2019年・2020年・2021年卒対象「大学1・2・3年生が就活を前に考えたい大学生活」
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【筆者プロフィール】
石渡嶺司(いしわたり れいじ)
大学ジャーナリスト
1975年生まれ。北海道札幌市出身。1999年東洋大学社会学部卒業後、日用雑貨の実演販売、編集プロダクション勤務などを経て2003年から現職。大学・就活関連の取材、執筆活動を続ける。当初から「大学勤務も採用担当者経験もないくせに」と批判されているが、14年経った現在も仕事が減りそうにない変わり種。
3月からJOBRASSマガジンの他、日本経済新聞サイト(日経カレッジカフェ)でも連載開始。
著書『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書) 、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)、『就活のコノヤロー』(光文社新書)、『教員採用のカラクリ』(共著、中公新書ラクレ)など多数。