Q)社会人になり、「この人(の働き方、働く姿勢)は、カッコいい!」と思う人がいたら教えてください。
A)あっ、ロールモデルってやつですね。ロールモデルを持つことは非常に重要なことです。というのも、自分もいつかその人のようになりたい! と思ったのであれば、その人の辿った道を少し模倣すれば、近付けるかもしれないのだから。中には「あなたはあなた。『ロールモデル』なんていらない」といった意見もありますが、私が、ロールモデルが必要だと考える理由を述べさせてください。
さて、私の場合、会社に入った時、同じ部署の3人の先輩社員のことを「カッコイイ」と思っていました。この3人の特徴は「あまり会社にいない」ということです。なぜ、これがカッコイイのかといいますと、「何をやっているかよく分からないけど、何らかの成果をあげている」姿がカッコイイのと、「何やら怪しげな人脈を持っている」ところがカッコイイと思っていたのですね。さらには「何らかの得意分野・熱中する分野がある」ところもカッコイイと思っていました。
私がいた会社は広告代理店だったのですが、この3人のうち一人・X氏は、政治が大好きでして、某政党誕生の「黒幕」とも言われている人でした。ネット用語的にいえば、「〇〇党はワシが育てた」「〇〇党はワシが作った」みたいなものでしょうか。そんな彼は、その際に知り合った超大物政治家・A衆議院議員と接点ができ、その政党に入り込みます。後に政党は解散や合併を繰り返すわけですが、新たなる党(野党)が誕生した際、何かと政党PRが必要になります。
広告代理店の仕事というのは、「クライアントのよりよいイメージづくりをする」というのがミッションです。となれば、何やらド派手なことをやらなくてはいけない。その時にX氏が考えたのが、インドネシアからの独立を問う住民投票が行われ、その後反対派&軍VS賛成派の衝突が発生した東ティモール訪問です。与党議員も行かないような危険地域にA議員を視察に連れていくことが「真の民主主義」とは一体何か? を日本国民にも考えさせるきっかけになると考えました。
そこでX氏はメディアに働きかけ、「A議員に帯同し、取材をしてほしい」と言います。しかし、どこのメディアも「そんな危険地帯にウチから記者を派遣させるワケにはいかない」との返事。そこでX氏がやったのは「じゃあ、オレが東ティモールに行って取材するから、6ページくれ!」と某有名週刊誌に掛け合ったのですね。当時東ティモールの内情を伝えたる必要はあったものの、なかなか記者は派遣できない。しかし、そんな場所へ行ってこそA議員及び彼の所属政党のPRになると考え、X氏は、自ら記者・カメラマンとしてA議員とともに東ティモールを視察したのでした。
この時、X氏が会社に全然いないので、「どこに行ったのかなぁ……」なんて思っていたら、翌週発売の週刊誌のグラビアにデカデカと6ページもの記事が出ているではありませんか! バッチリA議員の写真も、コメントも掲載されています。私が「Xさん、すごいことやりましたね……」と言ったら「これくらいやらなくちゃPRにならねェだろ!」なんて言いました。
となれば、「オレもいつかは……」と思いますし、いかにして広告費をかけず、PRの力だけでクライアントに関する話題を露出させるか、ということを考えるようになるわけです。だから、ロールモデルは大事だなぁと思う次第です。
そして、もう一つのロールモデルとしては、作家・椎名誠さんと漫画家にしてエッセイの名人・東海林さだおさんが私にはいます。彼らのように「本業(作家・漫画家)を持ちながら、自由自在にエッセイを書く男」になりたいなぁ、と思いました。なぜそう思ったのかというと、椎名さん、東海林さんともに、編集者と一緒に打ち合わせをしているシーンや、一緒に取材をしているシーンがよくエッセイで登場するのですよ。
「鎖鎌を振り回し原稿提出を迫るA出版の男」などが登場するのですが、そうした編集者と居酒屋や喫茶店で打ち合わせをしているシーンなんかを想像すると、「いつかオレも編集者と居酒屋で原稿の催促されてぇ!」なんて思うのですね。かくして私もモノカキになったわけですが、「ネットニュース編集」という本職がありながら、様々な場所で自由に文章を書き、時に「B出版社の男」と居酒屋で打ち合わせをしている。「中川さん、早く書いてもらわなくちゃ困るんですよ!」なんて言われたい!
自分が編集者と打ち合わせをしている姿を夢想し、そこに辿りつくにはどうするか――やっぱりそこにはロールモデルの存在が不可欠だと私は考えています。
中川淳一郎(なかがわじゅんいちろう)
編集者
1973年生まれ。東京都立川市出身。1997年一橋大学商学部卒業後博報堂入社。
CC局(現PR戦略局)に配属され、企業PRを担当。2001年に無職になり、以後フリーライターや編集業務を行ったり、某PR会社に在籍したりした後ネットニュースの編集者になる。
著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書) や『内定童貞』(星海社)など。