「高収入企業ランキング」では常に上位をキープする企業に入社したものの、2年半で辞めた田辺さん(仮名)。給料が良かったのに、何故? 現在はベンチャー企業で、中核メンバーとして活躍する田辺さんが振り返ります。
正直に言うと、就職するとき、いくら考えても自分の“軸”がわからなかったんです。好きなことといえばギャンブルで、仕事で何をしたいのかなんてサッパリわからない。漠然と何かを作りたい、無から有を作り出したいと思ってはいましたが、送られてくる会社案内をどれだけ読んでも、自分が働くという“現実味”がなかった。
そうはいっても、時間はどんどん過ぎていきます。そこで、「とにかく営業力とお金だ」という視点で就職活動を始めました。営業力を身につければ、将来どの会社に行ってもなんとかなりそうだと思ったのと、給料が良ければいろんなことは耐えられるんじゃないかと思ったんです。仕事がキツイかどうかとか、福利厚生は一切無視。やってみないと自分にとってキツイかどうかわからないと思ったし、福利厚生も、それまで社会人になったことがあるわけではないので良いか悪いか比較しようもなく、正直ピンとこなかった。自分で体験してみないと、何も言えないタイプなんです。
飛び込んだ会社は、目標さえ達していれば時間の使い方などは余裕をもてたので、僕の場合残業だらけとか、休日出勤しまくりといったことはありませんでした。ただし、社内規則がものすごく厳しい。一挙手一投足見張られているような状態で、完全に“統制”されていました。給料はものすごく良かったです。1年目なのに、何かの間違いかとギョッとするくらい(笑)。
でもそのうち、自分の頭がどんどんバカになっていく気がしてきて……。すべてルール化、ルーティン化された仕事で、今から思えば、そのなかで自分のアイデアを形にする方法はあったと思うんですが、その時は言われたことをがむしゃらにやるだけで精一杯。仕事で自分の意思、意見を反映することはなく、仕事以外でもプライベートの時間を大切にするということもありませんでした。完全に“言われっぱなし”のロボットです。
漠然としているんですけど、「これじゃあ、“自分”がなくなる!」と焦りに似た感情が沸いてきて、辞めることを考え始めました。転職先も、どこでも良かった。とりあえず抜けられればという一心で、たまたま同じ時期に辞めようとしていた同期が受けるという会社を、一緒に受けました。主体性ゼロですが、そこはIT系で、これから伸びようとして営業力を強化しようとしていた会社でした。
営業力に定評がある会社にいたおかげで、すんなり面接に合格。最初の会社で遮二無二頑張っていたことが評価されて、なんでも「そこで一生けんめいやること」って、大事なんだなって思いましたね。
その会社では、営業一つとっても、とてもクリエイティブな思考が必要とされました。なんなら営業が企画して、自由に仕事をとってくる。前の会社とは180度違うスタイルです。180度違うといえば、僕は最初、パワーポイントも使えなくて……。前の会社では、資料は全部“配布されるもの”でしたから。自分で学ぶしかない会社なので、仕事が終わってから、こっそりパソコンの学校に行ったりしました。
今の会社には、もう8年います。続けられている理由? 自分で考えたことがお客さんに認められて、結果的に売れるということが楽しく思えるようになりました。前の会社では、最後まで製品に愛着が持てなかったんでしょうね。売るモノへの誇り、愛情というのは大事ですね。僕の場合、「自分で考えた」ということが重要だったみたいです。
そして、同僚に恵まれました。前の会社は、協業するということはなく、案外協調性がない人がいた気がします。僕もそうだったかもしれません。でも今は、自分で考えたことを、周囲と協力しながら進めなくてはならなので、必然的にコミュニケーションが必要になる。どうせやるなら楽しくやろう、といった考えの人が多く、一緒にいて楽しめる人たちばかりです。それから、人事も上手なんだと思います。例えばモチベーションが下がっていそうな社員をちゃんとみていて、面談をしたり、異動させたりといった“人材配置”がうまい。これもコミュニケーションを重視する社風だからなのではないでしょうか。
給料は、正直下がりました。でも生活がとても充実していて、あのまま呆然と働いているよりは面白い人生を歩いていると思えます。もちろん人には向き不向きがあって、前の会社のように“とにかく給料がいい会社”のほうが向いているという人もいると思います。
今は経営のほうにも興味が出てきたので、何らかの形で会社を起こしてみたいと思っています。給料はさらに減りそうですが(笑)