数時間のいわゆる1dayインターンシップについて効果的な活用方法を知りたいというリクエストをいただきました。今も忘れませんが、私が企業の人事になって最初に任せられた大きな仕事が1dayインターンシップの企画でした(大変だった……)。その後も人事としていろいろなインターンシップを企画運営し、今もキャリアアドバイザーの業務と並行して現役の採用コンサルタントとして企業のインターンに携わっていますので、現場の視点から有効な活用方法について解説したいと思います。
まず、インターンシップ=職業体験というイメージが強いですが、1dayインターンシップで本当に仕事や企業の具体的な内容を知ることは不可能です。1dayインターンシップという形式は、以前まで10月解禁だった企業の広報活動が2ヶ月後ろ倒しされて12月になり、また更に3ヶ月後ろ倒しされて3月になるに連れて増え続けました。これはつまり、当時は秋頃~年末にかけて「業界研究セミナー」や「仕事研究セミナー」として説明会や選考が本格的に始まる前の入門編として行っていたプログラムが「インターンシップ」と名前を変えて行われているわけです。だから、就業体験というよりも業界や職種について興味をもつため、概要をつかむための勉強会だと思って参加してみてください。その方が、ギャップがないと思います。
インターンシップに行けば、社員の雰囲気がわかる!という人もいるでしょう。その通りなのですが、企業によっては1dayインターンシップのプログラムそのものを外部に任せていることがありますので、全員が社員ではないかも知れないという認識でいるくらいがいいと思います。
誤解にならないように伝えておくと、インターンシップを外部の企業に委託するのは企業が採用活動にやる気がないからではありません。大がかりな採用イベントは、いつもの業務外の活動のため、スタッフとなる社員を調整するのも大変です。また、インターンシップのようなイベントの企画に慣れている企業ばかりではありません。慣れていない人が自己流で頑張るより、プロにまるごと任せる方が就職活動生に満足してもらえるだろう、その方が企業に好感を持ってくれる人も増えるだろうからと外部に委託することがあるわけです。
ただし、インターンシップで先輩社員として自分の仕事の内容まで具体的に話してくれるのはさすがに現場の社員でしょうから、その人たちから社員の雰囲気がわかると思います。また、社内で開催してくれるインターンシップであれば、その会社でどんな服装、雰囲気の人が出入りしているかということからも会社の雰囲気を感じることができるでしょう。
学生のサークルやゼミなどと同じで、業種や職業的な特徴もあって、企業も似たような人の集まりです。テニスサークルと映画研究会の違いとか、ありそうでしょう? 直観的にその企業で働く人の空気に自分が合うかどうか感じられる部分もあります。そのあたりは、たくさんの会社を体感すればするほど違いがわかるようになってきますので、感じてみてほしいと思います。
インターンシップで、人事に目を付けられれば選考に有利ということを期待して参加する人もいると思います。また逆に、インターンシップの選考で不合格になってしまったら、本選考にもマイナスなのではないか?と考える人もいるでしょう。
選考直結と企業が明言しているものでない場合は、結論「インターンシップに参加してもしなくても受かる人は受かるし、落ちる人は落ちる」という考え方がしっくりきます。実際に某大手損害保険会社のインターンシップに応募して一次選考で不合格だったけど、内定が出たという人もいます。逆に、インターンシップでいろいろな社員や人事と話もして仲良くなったのに本選考で不合格だったという人もいます。
インターンシップで評価が高かった、目立っても内定に直結しない理由についてもう少し詳しく話しておきます。インターンシップを運営している人事から印象がよかったとしても、本選考で最終的に内定を出すか判断するのは、その人事よりも上の役職の人になるからです。(企業で内定を判断できるほど高い役職の人が、採用の序盤であるインターンシップに深くかかわることは相当レアケースのため)。だから、人事や現場社員の印象が良くて選考が短くなったり、スムーズに進んだりすることがあったとしても、それはイコール内定ではないのです。
インターンシップではつい自分をアピールしたいとか、社員に「うちの会社に来てよ!」と褒められると内定をもらったかのように嬉しくなってしまいがちですが、あまりインターンシップの合否や評価に振り回されないことも大切です。
ここまで、あまり参加するメリットについて話していませんが、明らかなメリットはあります。それは、インターンシップに参加することで一般的な募集よりも早く選考の案内をもらえる可能性が増えるということです。
企業の採用に関する広報活動は全体では3月からとされていましたが、実際はインターンシップに参加した人に向けて先行して選考を始めている企業はありました。企業にとっては、インターンシップに応募してもらった機会に就職活動生のメールや電話番号などの個人情報を得ることができれば、就職サイトでの募集が始まる前に個別に連絡をすることができるからです。(企業は、インターンシップで集めた個人情報を採用募集の目的で利用してもいいかどうかという同意をしっかりとる義務はあります。)
全ての企業が、同じ運用をしているわけではありませんが、インターンシップに参加して自分の連絡先を企業に渡すことで案内を早く受け取れる可能性が高くなるのです。
インターンシップをうまく活用するには、事前に自分でもその業界について業界地図(書籍)や就職関連サイトのコンテンツにある業界や仕事についての情報を調べてみた上で臨むということです。その上で「○○という点について実際に仕事をしている人に聞いてみよう」と何らかの質問や目的意識をもって臨みましょう。
特に1dayインターンシップのような短い時間の企画の場合は、参加する目的で得られるものが変わってしまいます。「なんかいいこと聞けたらいいな」と思って参加すると、なんとなく情報が手に入ります。しかし漠然と参加するより、「この業界を代表する企業の特徴の違いについて聞いて帰ろう」とか「今この業界で、トレンドになっていることを理解しよう」と具体的に目的をもつことで質問の時間も有効に使えます。
与えられる情報をただ浴びるのではなく、参加する目的をもつことで、その時間の価値を自分で作り出していくという意識が大切です。
また、インターンシップで見過ごせないのが横のつながりです。早期から就職活動に意欲高く活動している就活生とは志望業界に関わらず連絡先を交換したりなどして、役に立ったイベントや選考の情報を共有したりできるといいと思います。まずは、自分が情報を発信する側になると、あなたが好きそうな情報がどんどん集まってきますよ。
このように、ただ行くことを目的にするのではなく、事前調べをしっかりしておき、その場での出会いを積極的に作るようにすると得られることも増えるはずです。ぜひ世界を広げる一歩にしてください。
井上 真里(いのうえ まり)
キャリアアドバイザー。石川県金沢市生まれ。慶応義塾大学経済学部在学中より、人材教育企業にて学生キャリア支援のサポートに関わり、卒業後は東証一部上場の富裕層向け住宅メーカー・IT企業にて中途・新卒社員採用をはじめ、教育研修、異動や退職など学生のキャリア選択から、社会人のキャリアに関する領域を幅広く経験。新入社員マナー研修講師としても高い支持を受ける。現在は全国の高校生や大学生を対象に面接トレーニング、キャリア、マナー分野でのマンツーマン指導やセミナーを多数開催。毎年マンツーマン指導や勉強会に参加した200名以上の大学生が、大手企業・人気ベンチャー企業に複数内定している。